追跡をしようじゃないか -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
大捕物へと発展した一夜が明けて、事態は大きく動こうとしていた。
今回の主犯である金星の虜集団である「安らぎの園」は、先日の防衛省での記者会見後から警察が密かに調査を行っていたけれど、連中には大きな痛手となるような事件を防いだ事もあってはもう隠す必要はなくなり、これで各組織は堂々と動くことが出来るようになった。
軍も今後の対策のために隊を編成するなどの準備を始めた。
また、再び逮捕されたキャメル傭兵団の4人については、さすがに脱走事件があったあきる野の刑務所に戻すわけにはいかない事になっている。
何といっても内部を把握されている可能性があるからだ。
なので、あきる野に次ぐ規模を誇る、大阪にある別の施設へと運ばれることになった。
あきる野の刑務所はもう改築やセキュリティーの見直しの検討に入っている所だ。
「お前の家ならアドバイザーとして設備に介入出来るんだろう? 地球とは発想が違うアシルステラかヤマノワタイの技術を入れた方がいいぜ」
「そうするでありんすよ。ルビィ女史にも相談してみるっちゃ」
「あそこは人権というか、人の事をあまり考えてない傾向があるからな。参考にはいいんじゃねえか。ほどほどにしてやってほしいが」
ヤマノワタイは文明が発展した世界なので、機械と魔術の融合が見事だからそれをもって人権をある程度確保してくれそうだけれど、アシルステラは人の命が軽いから、ダンジョンの話をしていると解るけれど、ドア一つでも殺意が高い。
宝箱や鍵穴から毒針とかあんまり参考にしたくない仕掛けは、いくら罪人の逃亡阻止としても設置は控えた方がいいだろう。
そして今日は横浜で会議が行われている。
霞沙羅達もこの件に深く関わっているので、大学関係者として昨日の顛末と今後の捜査方針について、警察の会議に参加するように要請された。
事態も事態なので、今は神奈川にある警視庁の下部組織、「カルト研」も出てきて、ようやく尻尾を掴んだ「安らぎの園」の壊滅に動くという。
こちらの組織は魔術というよりも邪教徒である金星の虜に特化した捜査を行う。それもあって寺院庁からの出向者も多い。
なので今回はネット会議での参加だけれど、寺院庁から空地桜音の姿もある。
とりあえず窃盗容疑で逮捕した「安らぎの園」関係者は朝から、その「カルト研」が尋問中だ。
そして傭兵団は移動前に軽く尋問をしたところ「安らぎの園」についてはあまり深く知らされていないようだった。勿論その目的についても。
そもそも知り合いでも何でも無い相手に脱走を手引きして貰ったその報酬という事で、今回の窃盗に関わっただけで、信者では無い人間を仲間にしても作戦の士気に関わるので、最初から宝物の奪取が完了したら開放される予定だったとか。
その為に目的は教えられていない。
ただまあ関係者とは接触しているので、大阪に運ばれてからはそこの情報を詰めていくということ。
「私はもうあれはやらんぜ」
先日の防衛省での、あの伽里奈との{戦意高揚}の件だ。
あの時は伽里奈がいたからそのノリに付き合えば良かったけれど、一人では使い方に慣れていない魔術はちょっと無理。
「それは警察か寺院庁にまかせればいいじゃん。もう連中の身柄がワタシらの手からは離れてるから、専門家に任せるでやんす」
「そう願いたいね」
あれはどうやってやったんだ、と訊かれたら伽里奈に説明させよう。
「それとは別に、ワタシはアイザックを逃した手前、追跡には手を貸すつもりだったりするだっぺ。マン
ションから追跡に使えそうな生体パーツを貰えるよう頼むじゃん」
生体パーツというか、髪の毛とか爪とかそういうもの。しばらくあのマンションで生活をしていたのだからその辺は部屋のどこかに落ちているだろう。
それを利用した、追跡に最適な魔術が無いか、後で調べるつもりだ。
警察からの報告はまだあって、横浜大で仕掛けた虫を取り付かせた魔工具の容器の跡を追わせたら、厚木の外れの方にアジトか研究施設のように使われた廃墟を見つけたという。
残念ながらこちらも虫を警戒されたのか、中身だけ抜かれてどこかに移動されてしまった。
ただ、盗まれた魔工具が何かは解っているので、吉祥院とは別に大学教授の手を借りてその魔力的な反応を追っていく準備をしている。
それと、廃墟の持ち主がいるかどうかとか、少し前から人の出入りが無かったかの調査も行うという。
アイザックが使っていたマンションもどういう経緯で使っていたかや持ち主も調査する、とこれはもう軍の出番は無くなってしまった。
「軍はこの後に何があるのかの準備だな。成長態や完成態を想定しておけよな」
実際、軍もそのくらいの脅威への準備を行っている事だろう。
「吉祥院さん、千年世さん」
「桜音君、名前はやめろと散々いっておろう」
カメラの向こうの桜音が吉祥院に声をかけてきた。
「いやだって、おじさんがそっちにいるから名字じゃどっちか解らないじゃないですか」
確かに吉祥院の父も警察の協力者として出席している。
「へいへい」
父親がいるなら仕方ないだろうが、だったらそっちを名前で呼んで欲しいところだ。
「まあなんだ、言いたいことがあるなら言え」
「それでは」
霞沙羅に促されて桜音は話を始めた。
「盗まれた、もしくは盗まれようとした魔工具を使って何をやろうとしたのか、わかりませんか?」
「む、桜音君にしては鋭いじゃん。いいね、何に使えそうか帰ったら早速考えてみるとするでごわす」
「解ったら連絡を下さい」
場合によっては軍の出番も考えられる、というか恐らくそこへと繋がる大きな事件に発展すると予想されるので、警察と軍と寺院庁の情報共有はするという事となり、互いの連絡窓口の交換が行われた。
それと吉祥院から星雫の剣「空霜」を起こすということを宣言しておいた。
時期も時期だけに、大きな事件を前に強力な戦力は準備しておいた方がいいだろう。
これについて特には反対はなかった。
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