吉祥院の企み -4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「周囲は魔術専門の警官で囲まれている。今から扉を開けるので、武器を地面に捨て、ゆっくりと出てくるがいい。拒否するなら容赦なく中を焼く」
ダンジョンとはいえ宝物庫なので、吉祥院の方で中との連絡がとれるようにインターホン的な設備をつけている。それを経由して中に警告を送った。
ダンジョンの入り口を警官で囲い、一人の警官がカードを使って扉を開けた。
全員が緊張する中、傭兵団の2人は警官達に見えるように拳銃とナイフを大きな動作で床に置いて、両手を上げてゆっくりと外に出てきた。
人形はというと、もう操術を切っているようで、片方が手に持っていた人形もポイと捨てて、無害であるとアピールした。
「確保!」
周囲は警官達に魔法の準備をされているし、多数の銃も構えられている。そして大きくて目立つ吉祥院もいるし、同じく顔が売れている榊も刀を抜いて待っているので、2人にはこれはどうあがいても逃走は無理だと、大人しく拘束されるしか選択肢は無かった。
そして警官が数名がかりで手錠をかけた。
「23時37分、確保完了しました」
「よし」
またも逮捕され、2人はうな垂れながら護送車に運ばれていく。
「じゃあ次だ、逃げた2人も追うよ。何となく何かを期待しているそこの2人を絶望させることになるけどね、場所は追跡出来てる」
「なっ!」
残りの2人は自分達より先に逃げおおせたと連絡は貰っているので、逃げおおせればひょっとしたら今後救出があるかも、と少し期待していたこの2人は、吉祥院のその言葉にハッとなった。
「今後も一緒に生活出来るよー」
* * *
目的を果たした大学から逃げた方は、ダンジョン侵入組が罠に落ちたことをアイザックの人形を通して理解して、盗み出した魔工具は別の所からやって来たバイクの仲間にさっさと渡して、今は現場から少しでも離れようと埼玉県の方へと移動を始めた。
埼玉の三郷には通販会社の倉庫があるので、最悪そこに逃げ込めばいいという算段を立てている。
旧二十三区が閉鎖されているからなるべく真っ直ぐに突っ切ることが出来ない。昔よりは大回りになるけれど、それでも早いところ事件現場から離れるべきだ。
傭兵団の2人は川崎の生田に近いどこかで下ろして別れていいだろう。土地勘は無いだろうが、少しは食べ歩いただろうし、スマホを渡してあるからなんとかアパートまで逃げることは出来るはずだ。
まずは落ち着いて車を走らせてもらう。下手に急ぐような動きを見せて、たまたま車の前や後ろについた市民から通報されてはダメだ。
他の車に溶け込むように普通に走るのだ。
厄災戦後に新設された高速道路を使おうとすると入り口に警察が張っているかもしれないから、ひたすら一般道を進んだ。
隣の川崎市に入ったところで、赤信号に捕まったけれど、車内では少し緊張感が薄らいだ。まだ先は長いけれど、ここまで警察車両には出会っていない。
「はあ…」
内通者である偽研究者は助手席から、中々青にならない交差点の信号を見て、焦っているわけでもないけれど、深く息を吐いた。
とにかく自分に課せられた目的の半分以上は達成した。
あの魔工具を持たせたバイクは会社ではなく、アジトの方に到着しただろうか。
教授には良くして貰ったなあ、とちょっと後悔もあったりする。金星の虜としてマリネイラ神に身を捧げてはいるけれど、単純に研究は面白かった。その位の心はある。
とそんな事を考えていた。今は逃げることに集中しないとだめだ。夜道の中目をこらして、異変があったらドライバーに伝えないといけない。
ああそろそろ青に変わるなと思っていると、交差点のど真ん中にいきなり数台の、パトランプを回転させたパトカーが現れた。
本当に突然の出来事だ。
「え?」
驚くと同時に、車が少し揺れた。
それに遅れること一秒、運転手が慌ててバックギアに入れてアクセルを踏むも、全く動かない。いくら踏み込んでもエンジンとタイヤが空回りするだけ。
「ど、どうなってんだ!」
外を見るとちょっと視点が高くなっている。これは車が地面から持ち上げられているからだ。
「鬼ごっこは終わりだよ」
女性の声がする。
吉祥院が魔力で車を持ち上げているのだ。
そして前方から刀を持った一人の男が歩いてくる。
「榊…瑞帆!」
ある程度近づいたところで無造作に刀を振るうと、真空の刃によって車が真ん中で真っ二つに切れた。
「早く出てこいよ」
二つになった車が揺らされて、ポイッと、パトカーが待っている交差点に投げ込まれた。
真っ二つにされて左右に割れて、もう動くことの無い車から、それでも4人と一体の人形は武装をして出てくるが、そこで動きが止まった。
パトカーの警察はやりようによってはどうにかなるかもしれないがそうではない。
新城霞沙羅と榊瑞帆、吉祥院千年世の三人が囲んでいるからだ。
「面白い事やってるじゃねえか。札幌から来てやったぜ」
コレはさすがに無理だ。
傭兵団の2人は小樽の一件で霞沙羅の恐ろしさを身をもって知っているので、持っていた銃を捨てて、両手をあげた。
そして運転手と研究者もそれを見て諦めてアスファルトの道路に膝をついた。
「教授には言いたかないけどね」
研究員の襟首を後ろから掴んで、その体を宙ぶらりんにした吉祥院は、警官の目の前に投げつけた。
「それでだな」
霞沙羅は傭兵団リーダーの頭に乗っていた人形を長刀で刺した。
「またマニアックな人形使ってやがるな、アイザックさんよ」
「新城霞沙羅か。こんな事をしてもこのオレには何も届かんぞ」
「んなこたぁどうでもいいんだよ」
そんな事をしている間に傭兵団2人は警察に拘束されていく。
「日本にお前が来ることは初めてだからな、どんな奴かとちょっと興味が沸いていただけだよ。わざわざ専門店でパーツを買ってドールを一体一体作ってる魔術師が、欧米で恐れられた窃盗犯だって事にな。私も魔剣やら聖剣やらをちまちま作るからな。分野は違うが中々のこだわりを感じるぜ」
「それはそれは。これは壊されてしまったが、英雄殿からお褒めの言葉を貰えるとはな」
「学生時代のサークル仲間がわざわざTRPG用にドールを自前で作って、セッションの場に持ってきてたからな。私はある程度詳しいのさ」
人形を通しての会話とはいえ、遠隔で視ることで精神に作用してくる魔術もある。アイザックは霞沙羅が何をしてくるのか警戒はしている。
「だがこのオレの居場所はわかるまい。人形遣いのオレがこれまで捕まらなかったのは、遠隔地から魔術を行使出来るからだ」
「だが国は超えられないんだろ。ん、なんだ魔工具は見つからなかったか。まあどこかで繋ぎが持って行ったんだろ」
一人の警官が霞沙羅に車と持ち物からは盗まれた魔工具が見つからなかったと告げた。
「そこは吉祥院に任せておけ」
「なんだ?」
霞沙羅の様子がおかしい。長刀で人形を刺したまま、特に何かをするような動きは無いし、正直自分とまともに話しをする気も感じない。
アイザックは人形を通して周囲を視ると吉祥院と榊の姿が無くなっていた。
「くそっ!」
これはヤバイ、と慌てて人形との連結を切断した。
「あーバレたか。まあその辺は想定通りだしな」
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