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そのどさくさに紛れよう -2-

「ボクとアンナマリーの客人扱いってことで」

「そうね、ある程度の交流があれば入れるわね」

「レイナード、さん、もうその楯はいいよ。悪いけどシスティーはおしぼりと水を出してくれる? ボクはクッションを出してくるから」

「はい、マスター」


 突然モートレルの人間を招き入れた事に対して、休日とはいえシスティーは迅速に動いてくれたし、珍しくフィーネが水を配ってくれた。ネコは異常を察してか一時的にキャットタワーに上がっていった。


「疲れた人は床に寝転がって貰える? ここはもう大丈夫だよ。錫杖の力は届かないところだから」


 伽里奈は倉庫からクッションを持ってきて配った。


 いきなり建物の様子が変わって驚いている5人だが、顔見知りの伽里奈がいることと、アンナマリーが「大丈夫です」と言っていることから、とりあえず安心して、消耗した人間は床に寝転んでいった。


 ヒルダはシスティーとエリアスを見て何か言いたげだったが、とりあえず我慢した格好になっている。


 かつての冒険仲間と、人類と敵対していた魔女なのだから当然だが、今はまだ伽里奈がアリシアである事を隠そうとしてくれた。


 レイナードはシスティーの存在は知っているけれど、その姿はあまり知らないから、あれが星雫の剣だとは解っていない。


「カリナ君、こ、ここはどこなんだい?」

「ここはボクの下宿です。アンナマリーが入居してるところですよ」

「皆さん、多分ここは大丈夫です。その、ここはモートレルじゃないどころか、異世界ですから」


 アンナマリーが一応のフォローを入れてくれる。


「い、異世界?」

「館は汝らの土地とは門扉一枚で繋がっておるが、ここは日本という別の土地の国にある建物じゃよ。あの妙な霧は越えられぬ」

「状況が不明なので、モートレルで動ける6名をとりあえず回収しましたから、一旦休みましょう」


 異世界、と聞かされて驚くしかないのだが、アンナマリーが住んでいるし、伽里奈もいるので、とりあえず危険な状況からは逃れられたと納得して休むことに決めた。


「のう小僧、あの貴族の娘に免じて、我のトカゲを放ち、情報収集をしておいてやろう。どうするのかは後で決めるがよい」

「フィーネさん、お願いします」

「本気のカレーと交換じゃ」

「はい、ありがとうございます」


 早速フィーネは裏の扉を開けに向かった。そこから偵察用のトカゲを町に放つのだ。


「あー、急に大変な事になっちゃった」

「えー、あなた、いま錫杖って言ったわね」


 ヒルダが言いにくそうに訊いてきた。これは適当に身バレさせないと会話が成り立たなくなる気がしてきた。


「間違いなく」

「そう」


まさか自分の町でやられるとはと、ヒルダは落胆する。


「アンナマリーもいるしね」

「納得」


 まだ推測でしかないけれど、これは百年前に帝国が突如建国した状況に似ている。全回は一つの領地を全てを巻き込んだのだが、今回はどういう事かモートレルの町一つだけしか巻き込めなかったようだけれど、今後のことを考えるとアンナマリーは将軍の娘だから、捕まえておけば国王に対するいい人質になりえる。


 ヒルダはどうか解らないけれど、錫杖の魔法が効けば戦力としては万々歳、効かなくても、家族や住民を人質に取られることになるので、無力化は出来るだろうし、ルビィ達が救出にやって来た場合は人質に出来る。


 勿論、巻き込まれてた多くの一般市民だって人質だ。


「はいこれ、ルーちゃんでも呼び出したら」


他の人達は寝込んだりこの家の説明を受けたりと騒がしいので、今の伽里奈とヒルダの話は聞こえていない。


「小僧よ、あの力はどうした。どうしてあそこにある」


 フィーネがトカゲを蒔き終えて、ロビーに帰ってきた。前の管理人さんとも長い付き合いがあったので、やはり霧の正体に気が付いたようだ


「ボクも聞きたいけど、使われている魔工具、王者の錫杖はその昔誰かがラシーン大陸に持ち込んだんじゃないかとしかいいようがないです」

「霞沙羅のような者もおるからのう、あり得ん話ではないな。では監視をしておいてやろう」


 フィーネはソファーに座り雑誌を読み始めた。何体蒔いたか解らないが、女神様が作り出したトカゲの目による情報収集が始まった。


「アーちゃん、さっきも屋敷でやったけどこの鏡は繋がらないのよ」


「町に結界が張ってあったから、それが妨害したのかもね。でも多分ここなら大丈夫だよ。今ならアシルステラの世界への繋がりが出来たからねー」

「そうなの?」


 ダメ元で鏡を起動させると、無事にルビィと繋がった。最悪、女神エリアスをアンテナに使えばと考えていたけれど、この館はなかなか気が利くみたいだ。


「どうしタ?」


 伽里奈は写らない位置にいるけれど、久しぶりの、ちょっと舌っ足らずな声が聞こえてくる。


「町で王者の錫杖を使われたらしいの。町の住民は皆眠らされてしまって、何名かだけで何とか脱出出来たわ」

「錫杖ガ? なぜそんなところニ? あのレポート繋がりカ? やはり帝国の残党が関わっているのカ?」

「まだ解らないけれど、多分そうでしょうね。王都よりモートレルの方が攻略は難しくないし、捕まえておけば色々と都合の良さそうな私とアンナマリーがいるものね」


「確かに。しかし協力をしたいところだが、なぜか王都の周辺にゴブリンが大量発生していて対処中だ。私だけなら何とか動けるんだガ」

「でも結界で恐らくモートレルの町に入れないのよね」

「外の町になら転移が出来ますよ。外にはルハードさんも、外の騎士団もいますからね。協力を仰ぎに行きましょう」

「他に誰かいるのカ?」

「料理好きの少年にかくまって貰ってるのよ」

「だったらモートレルの中でハ?」

「大丈夫よ、町の外だから」


 その言い方で合ってはいるけれど、言っている方と聞いている方では意味は違う。


「そうなのカ、ならちょっと賢者達に話をしてくル」


 学院が追っていた錫杖が絡んでいるので、さすがのルビィでもいきなりは動けない。


 向こうは向こうで、何人か貸してくれるかどうかの話し合いもあるので、一旦通信は切れた。


「とりあえず何か食べます? 反撃するにしても何か食べておいた方がいいでしょう。多分夕飯はまだでしょうし、ちょっと消耗している人もいるし」

「え、ええそうね」

「ちょっとかさ増しかなー」


 料理は自分達の分しか用意していないから、圧倒的に足りない。


「マスター、まずは温泉がいいのではないでしょうか」

「そうだね、ボクが料理を作っている間に案内して貰える?」


 あのシスティーが? とヒルダは不思議なモノを見ていた。冒険中のシスティーは結構好戦的な性格で、人の世話を考えるような人格ではなかったけれど、アリシアとの3年間で大きく変わってしまったようだ。


「アンナマリー、悪いけど女性のお風呂の案内して貰える?」

「ああ、わかった」


 先日のスケルトンの比ではないことが起きているのだが、あの事件で一皮むけたアンナマリーは冷静さを保ち、今出来る事をやろうとしてくれる。この家の設備を説明するには、同じ世界の住民であるアンナマリーが最適だ。


 ヒルダもいて、ルビィにも連絡が取れ、色々と詳しい伽里奈がいるから、という信頼もある。アンナマリーはとにかく今出来ることをやろうと決めた。


「システィーは男風呂の案内してね。エリアスはタオルとバスローブ出してて貰える?」

「解ったわ」


 大陸中に混沌の軍勢を率いて戦いを挑んできた魔女が、タオルとバスローブを出してくれるようだ。何てことだ。


 それにしても敵であったアリシアの指示を嬉しそうに聞き入れている。ギャバン神にも言われたとおり、本当に女神で、アリシアと共にこの建物の管理をしているのだろう。


 色々と腑に落ちない点はあるものの、協力してくれるようなので、ヒルダ達は反撃用の拠点として厄介になることにした。


  * * *


 皆が温泉に入っている間、伽里奈は5人分の料理のかさ増しを始めた。量を稼ぐには冷凍していた在庫品のコロッケやメンチ、魚のフライを出し、一番手軽に量を稼げるパスタを茹でた。バランスが悪い食卓になってしまうが、緊急なので仕方がない。とにかく今はお腹を満たすのが先決だ。


 食卓に並べられた料理はラシーン大陸には無いものばかりだ。それでもぱっと見、食べられないような料理ではないし、言ってしまえば全部美味しそうに見える。


「アンナマリーはいつもこんな食事をしているの?」

「え、ええ、まあ」

「アンナちゃん、ずるいー」

「いいところに住んでいるんだな、お前は」

「とりあえず、反撃があるわけですから、食べちゃって下さい」

「カリナ君、ところであの方は何をしているの?」


 食卓につこうともせず、ソファーに座っているフィーネの事だ。


「今は使い魔を放って町の様子を見て貰っているんです。フィーネさんは更に別の世界の人なので、使い魔はモートレルでは魔力感知に引っかかりにくいんですよ」


 そもそも女神の力。しかも異世界の神であり、魔術ではないので感知は一切出来ない。


「申し訳ないわね」

「後で埋め合わせしはておきます」


 邪龍とはいっても実はいい人、ではなく、いい女神様なのだ。人に試練を与えるだけで虐殺するわけではない。その上で人の成長を見守るのが役目だ。


異世界未体験な5人は予想外に美味しい料理に舌鼓を打つこととなった。この後の反撃のためには少しでも体調を戻すしかない。申し訳ないけれど、腹を満たす事は重要だ。そんな事で怒る女神様ではない。


読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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