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吉祥院の企み -1-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

「蟹って恐怖の対象なのかな?」


 ちょっと気になることがある。あの晩発生した幻想獣は蟹だけというわけではないけれど、あれが発生から時間をかけた成長態だったということは、長いことどこかで潜んでいたのだろうか?


 石狩川ではモクズガニ漁が行われているのに、よく昨日まで生きながらえたモノだ。…幻想獣は漁で捕まるようなモノじゃないけれど。


 といっても姿はタラバガニとタカアシガニの中間みたいだった。まあ蟹という生物は、その形的にはちょっと怖いと思う人もいるかもしれない。特にハサミとか。


「そんな事より、早く魔法を教えなさいよ」


 昨日の今日になって、伽里奈(アリシア)があの硬い甲羅を無力化した魔法を教えてくれと一ノ瀬達に頼まれて、放課後のグラウンドで教える事になった。


 いつもの通り夕飯の準備があるけれど、時期が時期だ。それにやる気がある学生の意志を無下にするのはダメだろう。


「あれそのものはまだ無理だけど、範囲限定版でいいなら教えられるよ」


 単純に昨日の実戦で必要を感じた魔法を教えてくれという希望には応えてあげたいけれど、いかにA組の生徒でも20メートル級の大型幻想獣の全身装甲をダメにする魔法はまだ無理だ。あれは硬い鱗を備えたドラゴンとか、岩とか鉄で作った硬いゴーレムを複数巻き込めるような魔法だ。


 数人がかりでやればいけるけれど、実際のところ別に全身である必要はない。


「オレ達も頼むよ」


 今林兄弟も別の現場で蟹に出会ったようで、あの装甲に手こずらされたそうだ。


「うーん、一番良いのは{重震弾(じゅうしんだん)}かな。軍用としては戦車の装甲も粉砕出来るから」

「あら、軍用なの」


 軍でも使ってると聞くと期待もできる。


 こちらはアシルステラと地球の魔法を融合させた改良魔法で、一般的にはまだマイナーな魔法。その為に現在は日本にしかない。実際には災害地で大きめな落石の撤去などに使用されている。


「まあこんな感じに」


 少し離れた所に氷の板を作り、それに魔法を放つと、当たった部分を中心に大きなハンマーで殴ったように凹んで砕けて穴が開いた。


「それで装甲の開いたところに他の魔法を叩き込むっていう流れなんだよ」


 オリジナルは城壁や壁を一部崩したり、ドラゴンが纏っている硬い鱗を、攻撃しやすいところだけ破壊するのに使われる。


「だから複数人で組んで、一人が装甲に穴を開けて、すぐに別の人が追撃をするっていう使い方だねー」

「いいじゃない」


 現場では一ノ瀬は相方に藤井がいるし、今林兄弟も三人組だから、その時の流れで誰かが{重震弾}を担当すればいい。


「安全に、確実性を高めて勝つことを優先しようね。霞沙羅達さんだって、個々でも強いけど3人組なんだって事を忘れないでねー」


超人揃いのアリシア達だって6人組なのだから、この辺は冒険を無事終わらせた人間としてきちんと伝えたい。一人でやらなきゃならないなんていう事は無い。


「まあとりあえず都度状況も変わるだろうから全員が覚えようね」

「ああ、頼む」


 素直に前に進もうという気持ちは大事にしたい。


 今林の三兄弟は失敗したことがいい方向に動いているように感じる。


 なんかもう伽里奈(アリシア)が圧倒的に上に立っていることについては気になっていないようだ。


「じゃあ術式の解説から始めるね」


 一旦は生徒が帰って空いている教室に移動して、この魔術の解説から始めた。


 今はシャーロットもいないし、何日か付き合って、自宅で練習出来るくらいまでは教えてもいいと思う。


   * * *


 調布の観測所勤務の少尉がこの二週間くらいの記憶が無いと言い出した。


 昨日の夕方頃に自宅で目を覚ましたのだが、年始に出勤してそこから記憶の空白期間があるという。


 職場の同僚達からすればちゃんと勤務していたというし、業務にも支障はなかった。今更そんな事を言われても、ちゃんとやってたじゃんという以外には無い。


 ただまあ勤務が終わると真っ直ぐ家に帰ってしまい、急に付き合いが悪くなったという証言がある。


「何だそれは?」


 霞沙羅に吉祥院からの電話があった。


「調布観測所の少尉さんなんだけどね、観測担当者なんだけど、昨日忙しい中連絡してきたんだっぺ。それで今日になって色々と調査したところ、ホントに記憶が無かったでありんすよ」

「前にも寺院庁だったかであったな」

「そうでやんすよ。少尉さんには今は脳外科の方に検査入院して貰ってるざんす。明日には桜音(おういん)君のところから人を派遣して貰って魔法的な検査をしてもらうでやんす」

「あの二人の仕業だろうな。旧二十三区についてのなんらかの情報を取られたと思っていいだろう」


 まさか三人目がいるとはまだ霞沙羅達は知らない。


「そっちの画面に榊がいるのが奇妙だな」

「そろそろなんかあるようでありんすから」

「ちゃんと守れよ」


 吉祥院と榊は新丸子の観測所から、小樽の自宅にいる霞沙羅に連絡を取っている。霞沙羅の方は昨晩の騒動のおかげで、一旦家に帰ったとはいえ道央から離れることが出来ない。


「横浜大は小樽大のようにはいかないでありんす」

「警察かなんかに頼んではいるのか?」

「一応定期的な周辺パトロールは頼んでいるざんすが、そこはもうワタシでやんすから」

「何をする気だ?」

「ルビィ女史がかなり危険な技術を持っていることは解ったでありんすから、それを導入させて貰っているんだよね」

「ダンジョンの罠か。そりゃ向こうは本場だからな」


 死後に財宝を守るような、墓所への侵入を断固拒むような人の命を何とも思っていないような罠もあるようで、魔女戦争が終わってから学院に復帰して、この4年近くは建築方面の研究もしているルビィから色々と話しを聞かせて貰って、一応命までは取らないようなアレンジを施した。


「所詮は人形遣いじゃん?」

「恐らく脱走したあの傭兵団も来るんだろうぜ」

「日本が舐められないためにも、あいつら全員またあきる野の住民にしてやろうじゃないか」

「お手柔らかにな」


 やはり思った通り、吉祥院はダンジョンにご執心のようだ。規模の大きな魔術となれば、戦闘用の道具がメインな霞沙羅よりは、吉祥院の方が性格的に相性は良い。


 呆れたような顔をして霞沙羅は通信を切った。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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