白昼の札幌にて -4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
午後9時を回ったところで状況が動いた。
「大佐、中島公園を中心とした一帯に多数の幻想獣が出現しました」
観測室から連絡が入った。
「30分前から道警があたっていたのですが、急に増えたとのことで要請がありました」
「何であんな場所に、ってかまあ札幌の中心と言ってもいい部分だしな。ここからなら近場だ、急いで出るぞ」
「近くを流れる豊平川からも上陸ありとのことです。現在道警の応援も向かっています」
今はもうこの場所しか幻想獣の出現は無い。これで今日はもう最後にして貰えると助かる。
「ボクが先に行っておきましょうか?」
「そうだな。到着までにまだ時間がかかるだろうから、こっちから連絡はしておく。場合によっては私も跳ぶぜ」
「じゃあエリアス、魔剣を送って」
伽里奈の呼びかけで、エリアスが魔剣をよこしてくれた。
「行ってきます」
「まあ気をつけろよ。私らもすぐ行く」
伽里奈は空間転移で、ひとまず中島公園の上空に跳んだ。大きな公園の中にも周辺にも警察車両のパトランプがクルクル回っている。対処中ということだ。
「おー、結構な数いるなー」
警察や協力業者の車両は少なくて、確かに幻想獣の数はそれに対してかなり多い。まさに突然増えたという感じだ。
遠くから応援のパトカーがやって来てはいるけれど、もう少しかかる。そうなると今の人員では対処出来ない。
「じゃあ川沿いに行くかー」
剣の魔力を放出して、伽里奈の体は豊平川の川沿い辺りを目指して移動していく。
眼下に見える現場は、大きな蟹のような、硬そうな幻想獣が数体、川から上陸して、警察やどこかの協力業者達との戦闘が始まっている。
「そういえばこの先の石狩川でモクズガニって上海蟹の仲間が採れるけど…」
いくら何でもあれを魔物のように想像するほど人間は臆病ではないと思うけれど、そういえば横須賀にもエビがいたっけ? そういうモノなのだろうか。
まあとにかく大きな蟹だ。ハサミからはビームらしき光線を放っったり、炎を噴射して大暴れをしている。
足を広げれば横幅二十メートル以上はあるだろう蟹だから、そのハサミの打撃だけでも威力はかなりの物で、空振りして突き刺さった河川敷がシャベルカーのように大きく抉れる。
見た目通り甲羅に包まれた体は防御力も高く、魔法や銃弾をものともせず、多少の攻撃にも怯まず前進してくるので、現場はやや押され気味だ。
「よっと」
河川敷に着地した伽里奈は一番近くにいた蟹のハサミを、鞭のように長く伸ばした魔力の刃で切断した。
「{激震破陣}」
続いて、別個体の足下を中心に上空に向かって振動波が昇っていくと、甲羅の表面全体に細かいヒビがビッシリと入った。
「トドメをお願いしまーす。ついでに{爆炎柱}」
周辺の人にトドメをお願いしつつ、離れた所にいた元気な一体の足下から発生した激しい炎の柱がその身を一瞬で消し炭にした。本物のモクズガニならスーパーでそれなりのお値段はするけれど、幻想獣なら勿体ないという気はしない。
早速ハサミをちょん切られた入れられた個体は、一斉射にあって、硬かった甲羅を粉々に砕かれて崩れていった。
「か、か、伽里奈アーシアじゃない」
「わ、一ノ瀬さんか。藤井さんもいるし」
「私もいるわよ。まあ以前に学校で見てるから今更だけど」
ここにいた協力者は一ノ瀬寺院だったようだ。
「なんでここにいるのよ」
「軍に要請があって霞沙羅さん達が後で来るからね。その露払い役って感じなんだけど、とりあえずあっちの残ってる蟹もどうにかしない?」
「どうにかって気楽に言うけど、あれ全部成長態なんだけど」
「まあ幼態って感じはしないけど」
本職の人達が数人がかりでもなかなかダメージが入っていないわけだから成長態なんだろう。
持っている魔力も幼態とは桁違い。
とはいえ、どさくさ紛れに一撃で消し炭にしちゃってるけど。
それがあと3体いて、他の人達がターゲットを変更して、対応にあたっている。
「ちょ、ちょっとさっきのアレやってよ。あいつら硬くて魔法が効かないのよ」
「はーい」
伽里奈がリクエストに応じて放った{激震破陣}で自慢の防御力を奪われた巨大蟹達は、一ノ瀬達の攻撃を受けて、順次撃破されて灰になっていった。
「この辺は終わりかなー」
川から上がってくる幻想獣はとりあえずは終わったようだ。でも今は公園の方に戦場が移動している。あっちにはまだまだ数が残っている。
「軍が来たみたいよ」
一ノ瀬は警察無線とやり取りが出来るので、情報を教えてくれた。
霞沙羅のいる駐屯地はここから近いので、伽里奈が飛び出してからはそれほど時間が経たずに到着する事が出来た。
これで形勢逆転。ここから攻勢に転じるだろう。
「うあー、もう今日は疲れたー」
「ホント長かったわね」
大陸の色々な場所を歩きで移動したり、エリアスが作り出す魔物と一年近く戦い続けたアリシアは「そうかなー」と思ってはいるけれど、周りにいた国の人達もこんな感じだったかな、と思い出す。
実際のところ、一ノ瀬達に聞こえてくる警察無線では、中島公園内の幻想獣は、大暴れをしている霞沙羅を先頭にした軍隊の進撃を受けて、次々に灰になっていっているそうだ。
「昼間はここは軍だぜ、とか言ってなかったっけ?」
現場はやっぱり部下に任せる的な発言をしていたような。
「まあいいか」
もう幻想獣はいないだろうかと周囲に意識を広げて警戒してみるけれど、川の方にはもう何も無い。
残すは反対側にある公園だけれど、こちらは次々に撃破されていく。
「マリネイラの魔力も薄くなってきてるから、今日はもう終わりかなー」
状況的にこれ以上幻想獣が増える事はもう無いだろう。
警察と軍の警戒は続くだろうけれど、この後はそのレベルも軽くなる事だろう。
「お疲れー」
声をかけた2人は、近くにあったベンチに腰掛けてしまっている。ずっと現場で戦っていたわけではないだろうけれど、今日一日の最後に成長態が現れてちょっとキツかった。
そこにやってきた同じ寺院の職員が、まだ高校生である2人に先に帰るように促した。
一応、寺院本家のお嬢様と付き人だから。
「ねー伽里奈アーシア。寺院まで送ってってよ」
「伽里奈くーん」
職員の人は、伽里奈と呼ばれた人間を見た。
いつの間にか戦闘に割り込んできた人間だけれど、この2人は何を頼んでいるんだという顔だ。
車でも持っているのだろうか、とでも思っているのだろう。でも年の頃は2人と同じくらいだ。
「彼、転移魔法が使えるのよ」
「彼? そ、そうなんですか?」
彼なのか彼女なのか、一ノ瀬と同級生のような姿をした伽里奈が、そんな高位の魔法が使えるとか、と信じていない。
「連れてっていいんであれば、連れて行きますけど。明日も学校がありますしねー」
「あっ、明日ってどうなるの?」
「とりあえず一限目は休講で、それ以降については状況を見て学校の掲示板に投稿されるって。あ、今日は結局午前で授業は終わったみたいだよ」
休講については既に投稿されているので確定事項だ。
「まあ明日も何があるか解らないしねー。職員さん達のご厚意に甘えて、今のうちに帰った方がいいかも」
「じゃあ送ってよー」
「ええー、いいけど」
「大丈夫なんですか?」
職員にはなんかの冗談で言っているようにしか聞こえない。
「お昼に学校から札幌駅に運んで貰ったから大丈夫よ」
「魔術師ランクもC級1位なのよ」
「そ、そうですか。それでは美哉様をお願いします」
「はいー」
じゃあ、と伽里奈があっさりと空間転移術式を展開したので、その職員は「お、お疲れ様です…」と驚いたような顔をした。
そしてそのまま3人は手稲の寺院に跳んだ。
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