白昼の札幌にて -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
現場への突入から15分ほどして中尉達が幻想獣の討伐を終えて帰ってきた。
2名ほどが軽く怪我を負っていたので、治療担当が神聖魔法で対応しつつ、その間に警官達が規制線を解除し始めた。一つのヶ所が終わったらすぐ次に備えないといけない。
「ここは終わりだな」
ドローンや魔術師による現場確認も行い、討伐終了も確定した。
情報によれば、今の所、道内では旭川と函館で警察案件としての事件は起きたけれど、現在進行形で残っているのは札幌市内だけだ。
「他に警察からの要請はありますか?」
「今は無いぜ。とはいえ今日の札幌は油断出来ねえな。だからまずは、駐屯地に帰って休んでおくんだな」
通常時と違って、金星接近前にマリネイラの力を感知する魔工具を札幌の各所に設置してある。
ある程度はここからの測定データで警戒は出来るけれど、これが絶対では無い。あくまで警戒の指針になる程度だ。
金星の影響は、金星がこちらを向いている時間帯が強いけれど、夜になったからと言っても霧散せずに残る場合があるので。安心出来るわけでは無い。
正直、夜の方が夜の闇に対して人の想像力が働くこともあって、油断は出来ない。
だから何も無い時に少しでも体を休ませておくのは大切だ。
地区の安全を確認し、警察の撤退に合わせて霞沙羅達は札幌駐屯地に帰ることにした。
伽里奈の方はと言うと、今晩は霞沙羅に付き合う事にしたので、今のうちにやどりぎ館に帰り、住民達の為に夕飯の下準備をしに帰った。
* * *
「夕飯の調理はシスティーに任せるね」
「はい。やどりぎ館の周辺に出るようなら、私が片づけておきますからね」
「うん、お手柔らかにね」
システィーも人型状態なら手加減が出来るので大丈夫だろう。
まあ実際、女神様が2人もいるからやどりぎ館は安全だ。それでなくても純凪さん時代にはあの厄災戦期間であっても安全に運営しているから、その辺は安心している。
「霞沙羅は駐屯地から帰っては来ないのよね?」
「夜は外出はしないで仮眠を含めて待機みたいだけど、明日まで帰ってこないよ」
エリアスも訊いてきたけれど、霞沙羅は状況によっては明日も駐屯地に張り付かないとダメだろう。けれど、その際は簡単な休憩の為に一旦帰ってくると言っていた。
「マスターはどうするんです?」
「ある程度夜間までは付き合うけど、日が変わるまでだねー。エリアス、明日の学校はどうなるの?」
「状況次第だけど、一限目の休講は確定よ」
状況確認はメールか学校のWEB掲示板に表示されるのが、こういう時のルールだ。
帰りは夜遅くなるけれど、まあ冒険者時代の野宿に比べれば全然楽。
「館の事は気にしないでいいわよ。この状況もあるから、ちゃんと霞沙羅のサポートをしてきなさい」
「はーい」
女神様がそう言うなら館は問題無い。
戦い慣れしていないシャーロットは今はいないし、退居の準備を進めているユウトがコンビニに行くことはあるだろうけれど、それはまず問題無い。
アンナマリーは一人では小樽に出掛ける事は無い。
榊も警戒で横須賀に留まるようだ。
フィーネは…、何も心配いらない。
「じゃあ行ってくるよ」
伽里奈はお弁当を持って札幌駐屯地に転移した。
* * *
伽里奈がやどりぎ館にいる間にも、札幌市内で数カ所の幻想獣発生があったけれど、どれも規模は大きくは無く、警察や協力企業だけで対処可能な範囲内だ。
それもあって軍に要請が来たのはお昼過ぎの一度だけで、夕方前の今は小康状態だ。
「藤井さん達は大丈夫かな?」
彼女達のいる場所が気になるけれど、この状態で連絡するのも何だかはばかられる。
一件の規模は小さいとはいうものの警察案件はそれなりにあったわけで、ひょっとしたら疲れているかもしれないから、少しでも休んで貰うために余計なことはやめておこうと判断した。
「横浜は終わったようだぜ」
今日は全国的に幻想獣の出現があるので、軍でも各地と情報を共有している。
もし、ある地点で手が負えない場合は、他のエリアから人を融通して貰う事もあり得る。
厄災戦が終わってからは使っていないけれど、その為に駐屯地間の空間転移施設がいつでも使えるように待機しているから、何かあればすぐにでも人員の貸し借りが出来る。首都である横浜が終わったとなれば、人員の余裕は出たと言える。
「吉祥院は大学の方で宝物庫の対策中だが、榊は色々引っ張り回されたみたいだな」
「さすがに横浜は軍も忙しかったんですねー」
履歴を見ると、川崎や鎌倉、藤沢に平塚にまで飛び火している。その他千葉、埼玉でも軍の出動が確認できる。
地方に人口が分散されたとはいえ、やはり今回も関東は大変だ。
「折角テレビ局回りしたってのによ」
「その結果もあってこの程度なんじゃないですか?」
「そういうことにしとくか? しかし、警察の方も軍のテキストをくれてやったんだから、早めに教育をしろってんだ」
年末頃に渡されたデータだから、さすがにそれは間に合わないだろう。
とにかく、金星接近という状況に際して道民が不安になっているのだから、今日のような日をどう被害を最小限に乗り越えるかで、今後に影響が出る。
そういう事もあって、伽里奈は協力をしている。
この嫌々アイドルをやっているお姉ちゃんがやった事が無駄になるのは可哀想だ。
「とりあえず腹に何か入れておこうぜ」
部下達は食堂で食事をとるようだけれど、霞沙羅は部屋のPCに張り付いているというから、伽里奈は三種類のホットドッグとスープを作って持って来た。
これなら片手で作業をしながらでも食べられる。
「自家製のソーセージとか、よくやるよな」
太めの、普通のソーセージとバジル入りと辛いチョリソーだ。かけてあるソースもケチャップと粒マスタード、ミートソース、チーズを乗せたピザ風。
それにフライドポテトとオニオンリングフライがついている。
「しかし気になるんだが、なぜあのカナタとアオイは最後まで事件に関わらないんだろうな。私は直接やりあっていないが、吉祥院が魔力で力負けして、片方はお前と互角なんだろ? そこまでの実力があれば普通は手伝うじゃねえか」
出て来た時は本人達が直接販売していた時だけで、例えばモートレル占領事件では、実行時にはもう姿を消していたし、ザクスンでも魔術師に道具を渡すだけ。
こちらでも鐘の奪取や、先日のバングルの後ろにいたけれど、どれも手助けはしていない。
鐘の時は、多分見に来ていたか? すぐ側まで来ていたはずなのに何もしていない。
そしてその結果、どれもが失敗している。
「今考えると、王者の錫杖も、製造者の関係者なんでしょうけど、中途半端な状態で渡してますしね」
フルパワーで使うには長い年月がかかるチャージ方式だとはいえ、最初に作った時には制作者が満タンで渡しているのだから、何らかの急速充填方法があるのではと思う。
それにしても作るモノはどれも、霞沙羅や吉祥院から見ても素晴らしモノばかり。
異世界の魔術を誤魔化す技術も見事だった。そもそも二つの世界の魔術を混ぜて、片方しか動かさないとか、そんな発想は見たことが無い。
「成長態と人間が合体する魔工具とか、ちゃんと使えば勝利はもぎ取れるんだがな。作るだけ作って渡すだけで、どこかで見放しているんだよな」
「勝たせないようにしているって事ですか?」
魔工具を使って上手くいく瞬間はあっても、最終的にはその場にいないから、結局のところ犯人達は失敗するか敗北している。
「考えすぎか?」
「でも間違ってもいい人ではないですよ」
少なくともモートレルの件は、アンナマリーとヒルダが巻き込まれているので、伽里奈にとっては悪い印象しか無い。
国家滅亡からくすぶっていた帝国の残党が一網打尽に出来たのは、偶然とはいえ良かったけれど。
「私なら、自分が作った魔工具や魔装具が大した力も発揮しないまま負けるのは許せんがな」
本人が関わった事件が何度失敗してもそれを気にしないのは確かに奇妙ではある。
「まあそのへんは捕まえてからだな」
「そうですね」
妙な疑問点を今、この状況下で考察しても仕方が無い。今は目の前にある問題を片づけるのが先だ。
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