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地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
会議が終わったと思ったら、学院にある通信設備である大きな鏡が運ばれてきた。
「あれで何するの?」
「クラウディアの来訪が延期しているから、今日は連絡を取っていつ来れるのかの確認をするのダ」
「えー、そうなんだ」
賢者の一人が装置を動かすと、リバヒル王国にある魔法学院に繋がった。
向こうも学院上層部とおぼしき人間達が部屋にいるようだ。そこには久しぶりに見るクラウディアの姿がある。
「聞こえておるかな?」
タウの確認に対して、向こうも聞こえていると返してきた。通信は上手く繋がったようだ。
「アリシア君、お久しぶり。ライアから話は聞いてるけど相変わらず変わっていないわね」
今日も女物を着ているね、ということだ。
「クラウディアも、まあ変わらないかな」
長寿のエルフだし、3年程度会わなかったくらいで何も変わるはずは無い。
「それでクラウディア殿がこちらに来られる時期は決まりましたかな?」
「ええ、少々問題のあった付き人も厨房の使い方を理解しましたので」
記憶喪失かなんかだったのに、生活の記憶が戻ったのかなんなのかで、もういいようだ。
「ラスタル側の予定もありますから、早いですが、来週にでも一度そちらに派遣して、設備などを見せて貰ってから詳しい日程を決めたいのですが、それでよろしいですか?」
「そうですな。来ていただいて、住まいと受け持っていただく授業についての打ち合わせをしたいところですな」
「それで一度戻って正式に、という事で」
「あいわかりました」
おー、遂にクラウディアが来るのかー、とアリシアの期待もひとしお。これでエルフ好きの霞沙羅に紹介出来る。
「付き人ってどういう子なの?」
「クリス=ユズリハっていう15才の女の子よ」
「へー、変わった名字だね」
この辺の名字では無い。何か和風な響きがある。どこか純凪さん達に通ずるような響きもあるような気もする。
「顔立ちはこの辺の人とはちょっと違うし、どこか遠くの生まれみたいね。上手いんだけど見たことも無い絵も描くし。まあ会ったらクリスと呼んであげて」
「こっちに連れてくるって事は料理は出来るんでしょ?」
「そうね。なぜかこっちの料理は覚え中で、本人の記憶にあるあまり馴染みの無い料理を作るんだけど、どれも美味しいわよ。どの地方の料理なのかしらね」
「そうなんだ、ボクも料理をするからどういう料理か気になるなー」
絵とか料理とか、ちょっと癖のあるのが来るようだ。アリシアも別にアシルステラの全部を知っているわけでもないので、会ったら色々聞いてみようと思う。
「ライアとかそちらに行った将軍達から先日の、アリシアが作った料理の噂を聞いてるから、私も楽しみにしているわ」
やっぱりレミリアとは違うよなー、と改めて思う。ルビィの方も来週来ることが解ってニコニコしている。
結局住むことになるのは、学院が敷地内に用意しているアパートの方。食堂が利用出来る教師用の寮もあるけれど、共同利用の厨房があって自炊する方のアパートを選んだそうだ。
付き人がいるけれどクラウディアは自炊が出来る。なにか研究に詰まった時の息抜きに始めたと以前に聞いた。
誰もその手料理を食べたことは無いけれど、周りの人の感想では問題は無いそうで。
そのクラウディアが来る目的は、リバヒルの教育をラスタルに見せて貰う事と、逆にラスタルがどういう教育をしているのかをリバヒルに持ち帰ること。
滞在は2年ほどになる。
まあ寿命の長いエルフだから、たかが2年だ。それにクラウディアは単独で転移魔法が使える程の魔術師なので、時々報告でリバヒルに帰る事もあるとか。
「いい滞在になるといいね」
「何だかんだでアーちゃんはあんまりラスタルにいないんだがナ」
「まあそうなんだけど」
「話には聞いてるけど、こちらにいなかった時の話は教えてね」
「うんいいよー」
本格的にラスタルに住むまではあと少し。これは楽しみだ。
* * *
カナタ達は一旦ヤマノワタイに帰ってきた。
宝物の強奪が行われるのはあと少し先なので、今は見るような事も無く、今後のことを祖父母に報告するのが今日の目的だ。
例の廃墟から出てきたカナタ達は、カナタの家には寄らずに、本宅の方に入った。
「お祖母様、お爺様はどこに?」
「工房の方にいますよ」
祖母がそう言うので、工房の方に向かうと、祖父が一本の槍を完成させたところだった。
「相変わらずの腕前ですわね」
祖父はもう八十を超えているのにまだまだ元気。鍛冶としての腕前も劣らず、剣士としてもまだまだ一流。そして魔術師としても一流。
肉体の方も若々しく、今は上半身裸で作業をしていたようだが、ボディービルダーが見ても見惚れるほどの整った筋肉がある、
「どうした?」
「確認のお話しですわ。まあダメだと言われても、やるしか無いですけどね。お爺様も知っての通り、向こうは金星の接近期間ですから、時間が迫っています。騒動が終わって一息ついたところを狙ってくるでしょうね」
祖父は出来上がったばかりの槍を一振りすると、それを置いてカナタ達の方を向いて座った。
「お前には苦労をかけるな」
「20年も前からじゃないですの。とっくに愛想は尽きていますわ」
「そこの2人も覚悟は出来ているのか?」
「そうじゃなければこんな事してませんよ」
「同じです」
「そうか」
祖父は側に置いてあった水筒からお茶を一口飲んだ。
「それで場所は特定出来たのか?」
「大方の予想通り、メインの拠点を構えている地球の都市ですわ。あの扉から行ける場所しか選択肢も無いですし、こちらも色々と見て回りましたけれど、やはりあの神の能力を利用したなというところですの」
「四代前が喝采の錫杖を作ったあの場所が怪しいと踏んでいたんじゃないのか?」
「あそこは結局、何だかんだで神が出てきそうですからね。人間の所業に対して神が歴史をひっくり返すようなこともしていますから、何かしら干渉もしてくるでしょうが、結局普通の神しかいませんからね」
「そうか」
「現地民にはただただはた迷惑な錫杖でしたわね。使える者も無く、もう用無しなので破壊したいところですが、また学校に収納されてしまいました。これが終われば扉を壊す前に処置を考えておきますが」
喝采の錫杖こと王者の錫杖は、限定された血筋にのみ反応するように出来ていたけれど、初代皇帝の末裔は少し前に処刑された。これでもう誰も錫杖を作動させることは出来ない。
「あの純凪の2人が何かに気が付いているようだ。先日家の外に行った際にすぐそこで会って挨拶をされたが、ついでにお前の事を聞いてきた」
「これは予想ですけどね、あの2人がいなかった時期があるじゃないですの、流星戦乱の後に。そこで地球にある館にでも行っていたのでしょう。あの地で私の魔術が解析されていますので、日本の政府関係者と繋がりが出来たのではないかと推測します」
「私と斬り合ったあの女子みたいな男子も私達の魔術を理解してたわね」
「吉祥院という大きな魔術師もそのようだぞ」
ソウヤは寺院庁と軍に潜り込んでいたので、直接の接触は無いけれど、吉祥院が地球外の魔術を研究しているような話しを聞いている。
「同じ土俵に立っているとはいえ、準備も装備も向こうの方が上。私達だけでは不利ですので、文句を言われようともあの辺と接触するしか無いでしょうね。バックの組織もいる事ですし」
「色々やって来たもんねー、私達」
「それは仕方がないでしょう、あのバカ親が通って来た後ろをつけないと、たどり着けませんモノね。まあいいでしょう、今回の機会を見てから接触しますわ」
会えば一悶着があるのは確実だろうから、タイミングの見極めが重要だ。どさくさに紛れるしか無い。
「カナタよ、例えあのバカ共が人の形をしていなくとも、せめてその一部でもこの山に埋めてやりたいのが親としての願いだ。あんな子供達でも、この星で眠らせてやりたい」
「全身は無理でも、頭部とまでは言わないまでも、腕の一本くらいは持って帰りますわ」
「頼む」
「では確定ですね。もう後戻りはしません。殺しの準備をしますか」
そう言うと、もう振り向かずに工房を出ていくカナタ達。その遠ざかっていく後ろ姿を工房の主は、孫達が見えなくなるまで見ていた。
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