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地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
この国の中で北海道という地域が広すぎるからという事もあるけれど、道内では毎日のようにどこかで幻想獣の発生がある中、小樽校では1年BからE組において、初歩の初歩ながら本物の魔法の授業が始まっている。
三学期が始まってからまずは座学の方を進めていて、たった一つの魔法だけれど、今日のE組は初めてその実習が行われる。
それを前にして、教師からは「練習用魔法と比べても負担が大きい」というアナウンスがされた。
三学期初日にはもうあれだけの魔法を撃てたのにと思う生徒からは「そんなに違うの?」という声が上がった。
「魔法を撃ったからと言って倒れるような事はないけど、調子が悪くなったら先生に言って下さい。周りの生徒達も他の生徒を気にしていて下さいね」
まあ多少の脅しが含まれているであろう注意の後は、2台のレーンに呼ばれた生徒がまず2人、伽里奈とシャーロットが立った。
「どういう魔法になるか実際の見本を見て、イメージをして下さい。それでは」
教師に言われて2人は今日の課題である{火炎}の魔法を撃った。
いわゆる火炎放射である。基本的な初級魔法であるので、射程的には五メートル程度になる。
シャーロットは、久しぶりね、と思いながらも、これまでやどりぎ館の厨房で魔法の調整を身につけてきたから、E組の生徒を相手にするには丁度いい具合の、模範的な火炎放射となった。シャーロットが手加減をしなければ、数十メートルは焼かれてしまうだろう。
「よく出来ましたね。皆さんは今のシーンを頭に入れて、始めることにしましょう」
この授業での出番を終えた伽里奈とシャーロットは生徒に何かあった時のために、レーンの近くに座った。
担当教師に呼ばれた生徒が緊張した面持ちでレーンの立ち位置に立つと、{火炎}の為の魔術基盤の構築が始まる。
…長い。
練習用魔法は皆もう30秒以内に撃てるようになったけれど、今回はそうはいかない。術式の複雑さだけでなく、使用する魔力を体内から引き出さなければならない。これが今までと違って、中々満足な量に到達しないので時間がかかるのだ。
結局二人とも1分以上かかって、発動体であるステッキの先からボワッと、ちょっとした炎が放射された。
「うわあ」
それでも今までとは違う威力の魔法なので、その手応えに、撃った生徒も驚いた。
「どう、大丈夫?」
教師が生徒に体のコンディションを聞くと
「終わったら…、なんかどっと疲れてきました」
「もう一回やれって言われたら、途中で座り込んじゃいそうです…」
この日の為に入学から半年以上に渡って、今となってはあの貧弱な練習用魔法をずっと撃ち続けてきたのか、とようやく解った。
それもあってこんなのをポンポン撃ってるA組の生徒ってすごかったんだな、とちょっと尊敬した。
とりあえずクラスで初めて初級魔法を撃った2人は、さっきとはうって変わって疲れた表情で歩いて後ろにある椅子の方に戻っていって、次の生徒が呼び出された。
それを見て、そんなに違うのかよ、と呼び出された方も半信半疑ながら緊張気味。
そして長い時間をかけて撃ち終わると、同じように疲れたような足取りで帰っていき、また次が緊張して出ていく。こうも続くと、残された生徒達は「嘘だろ」という顔で出番を待つしか無い。だんだん無駄口も少なくなっていく。
「…初めて見たわ」
「シャーロットは、まあそうだろうね」
シャーロットはロンドンではそもそも一般生徒とは別の場所で勉強をしているんだから、普通の生徒のこんな姿を見ることは無いし、本人は子供の頃からこのくらいの魔法なら考える事も無く出来たから、目の前の状況がよく解っていない。
え? この程度のことで? という感じ。
「伽里奈はどうだったの?」
「ボクは学院に行く前に、魔術師のおばさんに師事してるから。でもここまでのは無かったなー。学院の方は練習魔法が無いから、下手したら初心者によっては魔力切れで気を失ってるかなー」
「そうなの? でもいいものが見られたわ」
そうか一般人はこうなのか、という事を見ることが出来たのは、この留学での儲けものだった。
これを知らないでここから先の人生で教育を語るとか無理だ。
大学に進んで。魔術師としてはもっと上の魔術を習得して、大きな魔術も研究するのは当然ま流れだけれど、伽里奈の影響で下の人達も見たいと思っている。
結局は霞沙羅も隊員の教育を疎かにしていないから、伽里奈の知恵も借りて教材を整えたわけであって、将来的にはどこかの段階から参加するだろう魔術師協会での活動に備えたいという考えがある。
そんな事を卒業試験で言ったら笑われるかもしれないけれど、それとなく相談した父のジェイダンは真面目な顔で賛同してくれているから、堂々とこの何ヶ月かの体験を口にする気だ。
「卒業試験がんばってよねー」
「余裕よ」
良いお肉も食べさせて貰ったから、ダメな要素なんか無い。
たかが卒業試験。ドンと来て欲しい所だ。
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