さよならといってらっしゃいの会
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
あれからの吉祥院はというと、横浜大の宝物庫の襲撃が判明した事もあって、他の教授達には内緒で、侵入者対策の罠の研究に余念がない。
それで今日は祝勝会&激励会の日。
吉祥院は岩手県産の短角牛の肉を持ってくると、伽里奈の持っている通信用の鏡を借りて、夕飯までの間、宿泊部屋に籠もった。
ここ数日、毎日やどりぎ館にやって来ては、ルビィと罠についての話をしている。これは恐ろしいことになりそうだ。
それはともかく、今日も参加人数が多いので、また別の机と椅子を出してきて、すき焼き用のグリル鍋も3個出してきて、フィーネはワインを部屋から持って来て、霞沙羅は買ってきた缶ビールを冷蔵庫に仕込んで、榊は予定通り横須賀のお肉屋さんからから葉山牛を買ってきた。
「私はまた若い子側にしますね」
鍋料理とはいっても作り方があるので、システィーと伽里奈とアリサが鍋奉行をやることになるだろう。
「エナホ君のお世話はまたシャーロットさんがやってくれるんですかね?」
「一応主役の一人なんだけど、エナホ君のことを気に入ってるからねー。本人が隣に座るならそれでいいんじゃない?」
モガミとアリサは付き合いの長さからユウトのいる方に座るだろうから、そうしてくれると助かる。聖誕祭からエナホが来る度にシャーロット本人も楽しんで世話をしているようだし、やるというのなら止める必要は無い。
「そういえば吉祥院さんが『空霜』を起こすから立ち会って欲しい的な事を言ってましたよ」
「金星が接近してるしね。一応備えておくのかな」
空霜は吉祥院が持っている星雫の剣。剣とは言っても、システィーと違って三つ叉の槍になるのだけれど、今は居眠りしている状態。これを起こそうというのだ。
「呼ばれたら行ったら?」
「ならそうしますね」
すき焼きの準備をしていると、裏口から純凪さん達がやってきた。
エナホ君はまた嬉しそうにパタパタと走って入ってきて、待ち構えていたフィーネに突撃してきた。
「ユウト君はどこだい?」
「隣で榊さんと食前の運動をしてます」
「お、じゃあちょっと混ぜて貰うか」
モガミは窓からチラリとその様子外を確認して、嬉しそうな顔をして霞沙羅の家に向かっていった。やっぱり管理人時代は二人でよく練習、というか、モガミが教えていたから。
「あら、このお肉は赤身質なのね」
「吉祥院さんが持ってきたんですけどね、エナホ君にはこっちの方がいいかもって」
榊が買ってきた葉山牛は全体的に霜降り気味。でもまだ子供のエナホ君には脂の少なめな方がいいかと思ったようだ。
でもちゃんとブランド牛。岩手というと有名な方があるけれど、これも美味しい肉を用意してくれた。そのおかげで今日はお肉に余裕がある。
「千年世ちゃんは案外見てるのねえ」
じきにアンナマリーも帰ってきて、食事会が始まった、三組に分かれて。
シャーロットは予想通りにエナホの横に座って、喜んで食事の世話をしてくれると宣言した。
日本に来てから「美味しいモノを食べたい」とお箸の使い方も早々にマスターしているので、今となっては鍋料理も問題無い。
エナホの方もここ何回かでシャーロットに遊んで貰っているので、普通に横に落ち着いている。
「お肉が柔らかい」
超お嬢様のアンナマリーもさすがに日本のブランド牛のような、丁寧な育て方をしている牛がアシルステラにはいないので、赤身と脂身がバランスよく混ざった肉質に今回も感動している。
「この肉はどうにかならないのか?」
側にいるアンナマリーが聞いてくる
「畜産はさすがに。こういう餌を食べてるとかこういう施設で育ててるよってのは調べれば出てくるから、まずは餌から変えるのをエバンス家の領地でやってみる?」
「うーむ…。しかしこの、肉を薄く焼くという食べ方も悪くないな」
「おいしい」
「ねー美味しいよね」
まだ三歳のエナホ君も和牛に満足している。
「はーい、ネコちゃんにもお肉」
「にゃーん」
アマツにも猫缶とは別に脂少なめな短角牛が渡されて、一心不乱に食べている。
最初の焼きでまずはお肉だけを堪能したところで、すき焼きの調理が始まった。
大人なグループは料理を鍋奉行に任せて、枝豆をつまみながらお酒を飲んで談笑している。
話の方はユウトの大会の話。色々なライバル達の話や、大会に割り込んできた謎の格闘家集団との戦いの話とか。これまでの歴史の中でも波乱に満ちた大会だったようだが、それもあってライバル達との深い繋がりが出来たような話をしている。
「これで終わりとはならないんでしょうね。ここでオレが気を緩めたら彼らに対して恥ずかしいですよ。あの大会にはもう参加出来ませんが、別の大会や個人レベルの繋がりでも腕を磨き続けていきたいですね」
「俺ももう管理側の人間になって、表には中々出ることは無くなってしまったが、あの時同じ戦場で戦った連中とは今でも交流があるよ。そうなると手は抜けないな」
ユウトはやどりぎ館を出ていった後も、変わらずに武道家として強くなるということを求めていくのだろう。
国の仕事もあるだろうけれど、婿入り先の道場の経営もあるから、今度も格闘に関わる日々が続いていく。何だこの程度か、と思われるわけにもいかない。
「この久しぶりのすき焼きも美味しい。すごく気になっているんだけど、本当にこれは醤油と砂糖と酒だけなのか?」
「今回のはそうですよ。昆布なんかも入れて割り下を作ってる場合もありますけど、この汁部分はそんなに手が込んでないですね」
「そうか、それなら俺の世界でも出来そうだな。祝い事があった時に道場の皆で食べるのもいいじゃないか」
ユウトの世界は地球で言うならば東洋的な文化。
なので醤油もあるし、お米も食べるから米のお酒もあるからすき焼きも再現出来るだろう。
アシルステラに料理を持っていく事になった伽里奈的にも、今となってはその環境が結構羨ましい。
その分チーズ文化はちょっと控えめと聞いている。
「割り下の作り方も渡しておきますよ」
「ありがとう。この料理は喜ぶと思うよ」
この後はシメのうどんも食べて、デザートのシャーベットも食べて食事会は終わった。
* * *
大人の方は食後に二次会が始まった。それもあって、今日は純凪さん達はここに泊まっていくことにしている。明日はお休みだそうだから、夜更かしは出来る。
ペースは落ちたけれど、またルビィと話しをするために抜けた吉祥院以外は日本酒を飲みながら話を続けている。
それを横目に、シャーロットとアンナマリーはアマツを間に入れてエナホと遊んでいる。
伽里奈とシスティーとアリサは後片付け中だ。
エリアスには純凪さん達が泊まるために、二人部屋の準備をして貰っている。
「もう私達とは関係ないけど、金星の事は本当に面倒よね」
「小樽はあんまり出ないんですけどね、この前も札幌で出ちゃって電車が止まっちゃいましたよ」
「関東の方はちょっと大変な事になってるようね。水瀬の子が動いているっていうのに」
「ヤマノワタイの方はどうなんです?」
「小さな事件はあるけれど、帰ってから今までは大きな事件は無いわね。あ、身の回りの小さな話なんだけど、時々食事に行ってる料理屋さんの所の娘さんが家出したとかはあるわね」
「女の子が家出って何かあったんですか?」
「学校の勉強…、魔術師の学校なんだけど、そこの成績で悩んでたみたいね。荷物もある程度持っていってるみたいで」
「そうなるとどこかで自殺、みたいな感じじゃないみたいですねー」
「エナホも心配してるみたいだから、時間がある時に私の方でも行方を調べてはいるんだけど」
家族の方で警察にも捜索届は出ているそうだけれど、話しを聞いてしまったので、アリサは政府系の魔術師機関にいるから、そのルートで調べてはいる。
「ヤマノワタイにはこの館みたいなのって無いんでしたっけ?」
「そこに紛れ込んだのかって話? うーん、そういうのはフィーネさんも教えてくれないから解らないわね。他の国にならあるのかもしれないけど」
あったとしても運営者が違うと邪龍神様でも知らないと言っていた。それにフィーネはヤマノワタイにはあまり行かなかったから、あの世界の事情は詳しくない。
「たぶん伽里奈君の考えてるそれはないわね」
「まあそうですね」
仮に別の屋敷にたどり着いたとしても、家には帰れるし連絡も出来るからその方向性は無い。
やどりぎ館の管理人を十年以上もやって来たわけで、経験者からするとまあ無いわね、とは思っている。
「なあ伽里奈、またぬいぐるみを貰っていいか?」
アンナマリー達3人が厨房に入ってきた。
「エナホ君も欲しいもんね?」
「うん。ぬいぐるみさんとねる」
向こうでやってるメガドライバーとかいうヒーロー番組にハマっているようだけれど、やっぱりまだぬいぐるみも好きなようだ。
「どうぞー」
そう言うと3人は喜んで伽里奈の部屋に向かっていった。
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