金星の影響 -8-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
神奈川での幻想獣大量発生の翌日から霞沙羅の方は、朝から夕方まで、北海道のローカル局の各ワイド系番組をマラソンする形で、この金星接近についての注意喚起をして回った。
これの意味合いは、英雄の一人が北海道にいるぞという道民へのアピールであると共に、首都圏の事にはノータッチだぞという裏のアピールである。
言ってしまえば、組織の件は知らんぞ、という事である。
吉祥院と榊はそもそも関東にいるので、元々が要注意人物ではあるから、それは向こうもいつかはぶつかる可能性があることは想定しているだろう。
そこに急に霞沙羅が加わったら、何かある、と身構えられてしまう。
だから霞沙羅は顔出しして北海道の守りに専念するというメッセージを送ることで、まだ計画は知られていない、という油断を誘おうという作戦だ。
幸い道内の大きな町ではここ数日は連続で幻想獣の出現があるから、アピールをする事への理由付けにおかしなところは無い。
その際には芸能関連で話題になっている、オフィスN→Sでのインタビュー企画についての質問をされたりはしたけれど、その辺にも冗談を交えながら答えるなどして、エンタメの発進も行っていた。
面倒くさくても自分がどういう影響を与えるか解っている霞沙羅は、日本軍のアイドルを演じていた。
「新城大佐、よかったわ」
ああいうワイド系番組に出ることはとても少ないのに、時期も時期だけあって不審がる人はいないどころか、やっぱり学校でも話題になっていた。
週に一回くらいしか来ないけれど、同じ小樽魔術大学のキャンパス内にいて、時々顔を見ることは出来るくらい近い距離にいる人だし、独特の強者オーラとその美貌は在学中の女子学生を惹きつける。
「藤井さんもあの企画見てたんだねー」
「エリアスさんが所属しているっていうから前にHPを見たことがあったし、例の番組アシスタントの二人もいるでしょ? 何かSNSで流れてたから、秋田の実家で見ちゃった」
エリアス曰く、アクセス数は日を追う毎にどんどん伸びているとか。SNSで拡散されて、それを見た人がSNSでつぶやいてまた…、という具合に広がっていっている。
次の更新が最後で、そこでエリアスも混ざってくるようだ。パートナーとしてドキドキするような、何か違和感があるような。とりあえず気にはなる。
「霞沙羅って人気なのね」
「まあシャーロットちゃんはイギリスの女優とかで憧れの人とかいるだろうけど、日本人のアイドルだから」
アイドルねえ…、という一面も開けっぴろげで見ているから、伽里奈もシャーロットも苦笑いが混じる。
テレビでは凜々しい制服姿で格好良くワイド番組に出たわけだけれど、帰ってきたら「あー、かったりぃ」とか言いだしてビールを飲み、榊に絡み、と性格を痛いほど知っているユウトは「榊君も大変だなあ」と将来を心配していた。
その後は、恋人の榊がいるというのに、伽里奈にまたマッサージをさせてその最中に悪絡みをするなど、藤井達の知らないウザい霞沙羅を久しぶりに体験する事になった。
ストレス発散とばかりにマッサージ中にかかわらず愚痴と共にガシガシと蹴りを入れられた後は榊にバトンタッチしたわけだけれど、そこから後に何があったかは知らない。
「魔術師ってだけじゃなくて、憧れるわよねー」
他の女子も混ざってきた。
「かっこいいもん」
まあ人間味があっていいと思う。完璧人間だったら面白くは無い。
榊はいつも冷静に対応しているけれど、それは裏表全てを知って、その全てを受け入れているからだ。
そんな雑談をしていると教師が入ってきて、授業が始まった。
新学期早速、次の料理実習のメニュー決めが今日の課題だ。
そして今回のお題は麵料理だと発表された。麵を使う料理であれば何でもいいとのこと。冬なので温かいものでもいいし、それを無視してもいい。
ただ、料理時間が限られているので、自分達で麵を作ったり、ラーメンのダシをイチから取るとかそういう凝ったことは無理だろう。
それとまた各班からメンバーを割いて、デザートも用意することになっている。
「ありきたりだけどラーメンもいいわよね、やっぱり暖まれるし」
寒い中食べるラーメンは格別だ。
そうなるとスープは出来合いのものを買うことになる。
「うどん、とか?」
「どこのうどんを選べばいいのかとかあるよねー」
パッと思いつくのは稲庭とか、讃岐とか福岡とか、あと色々。
「皿うどん」
「ほうとう」
「やきそば」
「サンマーメンとか」
「ほうとうって何?」
シャーロットが訊いてくるので、皆がスマホで検索すると、結構地味な感じの印象があったのに、色々なお店のセットの画像も出てきた。
「これ美味しいの?」
日本で食べる料理が好きになっちゃったイギリス人が見ても、いかにも田舎くさい鉄鍋に野菜と麵が入った食べ物だ。
「豚汁にうどんを入れたような感じだよー。麵の形は違うけど」
「豚汁、トンカツの時に出たあれよね。なんかよかったわ」
「伽里奈君、結構エグい料理出すのね」
それを聞いた全員が味を想像してしまった。外はまだまだ寒いし、近々その食べ方がしたいなと、家にリクエストしてみようと思った。
「温かそうだし、良さそうね」
「これなんか定食みたいで、揚げ物が横についてるね。ワカサギだって。北海道も今はそういう季節だね」
「じゃあほうとうで」
山梨も冬は寒い。そこで食べられている奇をてらわない、冬に合う料理もいいかなと、全員一致で決まった。
高校生相手だし、この画像みたいに横には揚げ物でもつけて。
「そういえばシャーロットちゃんは卒業試験があるんでしょ? 予定はどうなの?」
「あの、来週から二週間くらいロンドンに帰る予定なの」
「あら、じゃあ、帰ってきたら授業の本番なのね」
「ほうとうって作るの大変なの?」
「さっき伽里奈君が言ったとおりの料理だから、そんなでも無いわよ。麵は売ってるのを買うから」
「野菜とかお肉を切って煮込むだけだから」
「じゃ、じゃあ休みの間のこと、気にしなくていいのね」
「シャーロットちゃんが料理をやろうって気になってるのがいいなあ。何を切る係なのかはこっちで決めておくわね」
「はーい」
じゃあ具材に何を入れようか、サイド品の揚げ物を何にするか決めたところで今日の授業は終わった。
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