金星の影響 -5-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
さすが3人の英雄達、と賞賛をあびて、3分とかからずに、幻想獣達は殲滅された。
周囲にある軍艦も車両も施設にも被害を出すこと無く、無事に作戦は完了した。
戦闘に参加しなかった伽里奈は多少、流れ弾的な攻撃を防御したのみで、手にした感知器の幻想獣データの追加にいそしむことができた。
「お前は何やってるんだ?」
基地の兵隊達に称えられてやって来た霞沙羅は、感知器に別の黒い装置をくっつけていた伽里奈に声をかけてきた。
「非接触式のデータリンク機材ですよ。今の幻想獣を新データとして追加をしたので、こっちにバックアップを取ってるんです」
「お前なー、そういうのあるなら言えよ」
「まだデータが未完成品ですからねー。アシルステラ版はキメラとか希少種以外は大体入っているからいいんですけど、こっちは変異種も多いですから、追加で作ったんです」
「それはもともと仕込んでいた機能なのかい?」
「いえ、データの修正手段が面倒くさいので、基盤に割り込めるこれを追加で作っただけです。これで別の機材に移動出来ます」
「お前にはこっちの機械がどう見えているんだろうな。だがそれは後で説明しろよ」
「はーい」
とりあえずは横須賀基地内の事件は終わった。
その後も2時間にわたり、神奈川を中心とした都市部エリアの幻想獣出現は続いたけれど、それもひとまずは落ち着いた。
「なんかやな予感がするぜ」
「軍の広報が動くのか? 前回もそうだったな」
「何の話です?」
「どうせあれだよ、そこいら中にある監視カメラの映像を使って、軍には私らがいるぞって、広報活動をするんだろうさ」
「軍は国民を守るぞという政治的な映像やら、国営放送でのインタビューだのをやって、幻想獣の出現を抑えないとね」
「なんといっても霞沙羅はアイドルだからな」
「けっ! お前ら2人も同じだぞ」
新城大佐は年始のコンサートでもトリとして絶賛をあびるほどの人気者だ。
アイドルというと、歌って踊ってドラマに出て、という芸能人を思い浮かべるけれど、3人は強さの偶像。
軍を代表して、日本の人間として、国民を守る象徴。だから国民に対しては幻想獣を恐れさせない為の広報活動に使われる。カメラの映像には3人の圧倒的な戦闘力が記録されているだろう。それを編集して流すことで国民を安心させるのだ。
「ほら来たぜ」
霞沙羅のスマホに、防衛省長官からの連絡が入った。
「今日のこの状況から考えて生放送だったりするっぺか?」
「面倒くせえな」
アイドル的な扱いが嫌な霞沙羅は心底嫌そうに吐き捨てるように言った。
* * *
今日は首都圏だけでなく関西圏でも多くの幻想獣の出現があったという。
それを重く見た政府としては、再度国民に幻想獣への警戒の喚起をするべく、緊急の会見を開くことになった。
その会見の目玉となるべく、霞沙羅達3人とついでに伽里奈は防衛省までやって来た。
場所はもちろん横浜。この組織はその性質上さすがに地方移転は出来ないから、厄災戦の途中に崩壊した東京から横浜に移ってきた。
元々東京にあった防衛省は今や瓦礫まみれの廃墟であり、立ち入り禁止区域の中心に近い位置のため、厄災戦以降ずっと、誰も近寄る事が出来ていない。
「何でボクもいるんです?」
「長官やら将官の閣下達にたまには挨拶しとけよ」
政府関係者の中で伽里奈の正体を知っているのは首相くらい。防衛省の長官ともなれば、同じ内閣の人間ではあるけれど実は教えられていなかったりする。
そのくらいに寺院庁というか、各宗派の元締めである空地家の影響力は絶大で、空地家が「彼のことは我々が預かっている」と言えば、政治家と言えどそれ以上は深入りしてはいけない。
だから先代の純凪さんも、その先代の人もずっと、その時の首相だけが正体を知らされるという状況になっていて、長官も将官の人達も伽里奈は寺院庁管轄の人間である、という認識だけしている。
それはさておき、会見が開かれる会場にはマスコミ関係者が集まって来たり、配信や中継機器の準備をしたりとバタバタしている状態だ。
その横の部屋では霞沙羅達出演者達が集まって出番を待っている。
会見会誌まではあと少しというとことで、今は防衛省長官を待っている状態。
「寺院庁の関係だからあまり深くは踏み込めないが、しばらく見ない間に随分と新城君の補佐役として結果を出していたのだな」
最後に顔を合わせたのは前回の金星接近のすぐ後くらいで、最近は将官の閣下達には会っていなかった。
あの時の伽里奈は表面上は大した事をしていないから、この閣下達3人はこの一年半くらいの間に、伽里奈がやって来た事を霞沙羅と吉祥院から聞かされて感心する事になった。
兵隊向けの魔術の教育用テキストを編集したこともあるけれど、霞沙羅をバックアップしてキャメル傭兵団を生け捕りにしたことと、その時に現れた完成態の幻想獣を大学構内くらいの被害で消滅させた事は、軍としても大きな功績として語られている。
傭兵団は現在脱走してしまっているけれど、それは軍の失態ではないからそこは関係ない。
「最近の小型探知機も伽里奈君の製造品だったりするのですよ」
「あれはかなり有用だと聞いているな。千年世様には早くあれを量産して頂きたい。予算は取る。全国の基地や駐屯地への配備をと考えている」
さすがにこの場で「千年世様」と呼ばれても文句を言わない。
「今回には間に合わないだろうが、この先に控えている旧二十三区の探索作戦には必須の道具だ。量産にかかる費用を計算しておいて欲しい」
「わかったでありんす」
実際、吉祥院の事なので、自力で何個かコピーは終わっているから、一台分の金額は解っている。
そんな事よりも魔術師協会の一員として、今度は伽里奈をB級の何位に格上げしようか、と考えているくらいだ。
「長官が到着されました」
ドアの外から職員が声をかけてきた。
今日の件で各地との会議があったようだけれど、告知していた開始予定時間には間に合った。
これで出演者全員が揃ったので会見が始まった。
緊急放送とは言いつつも、今は金星接近時。
どこかの段階ではやるつもりではあったので、基本部分の原稿は作ってあったようで、そこに今日の状況を加えつつ、長官からの発表と、3人の将官からのお言葉が続く。
軍の魔術師の方は伽里奈が作った新テキストでの魔術教育が始まっている事とか、吉祥院や霞沙羅が考案した魔工具や魔装具で順次備えていることとか、後は、この日のために警察関係者とも話しを合わせていたのか、ここ半年以上に渡って榊を警察に出向させて、全国から厳選されたエース級の警官に剣の修練をさせていたこと等、幻想獣への準備を進めて来たことをアピールする内容だ。
お堅い人達のお堅い内容の番組が進むけれど、今は重要な時期だけあって、現時点の視聴率はネット配信を含めてかなり良いと、テレビクルーから声が聞こえてくる。
「ボクはここにいてもいいのかなー」
伽里奈は会場の後ろの方で、会見を見ている状態。
政治的な意図がある宣伝放送という事もあって、記者からの質問も、あてる人間も、答えも全て台本通り。
それを知った状態で見ているので、目の前で繰り広げられている会見がなんかバカバカしいけれど、マリネイラの特性もあるから、国民に不安を与えないようにする放送としてはこれしかない。
そんな事は集まっている各マスコミも承知の上。
貴族という立場になって、政治とは、という事を勉強させて貰っている伽里奈ではあったけれど、だからこそ霞沙羅に頼まれてこんな所に立っている。
けれどやはりこの辺は、ラシーン大陸を救った英雄の一人。超人的な身体能力を持った6人の内の1人だけあって、静かに1人の女性カメラマンの背後に移動していった。
「お疲れのようですねー」
右手にこめた眠りの魔法を口元にあてて座り込んだ椅子ごと軽々と、静かに部屋の隅に移動させて、会見部屋の外にご退場願った。
その後は何事も無かったかのように、将官から霞沙羅達3人へと画面は移り、この放送のメインイベントである英雄達からの会見が始まった。
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