金星の影響 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
霞沙羅からの依頼で、今日は横須賀にある軍の演習場にやってきた。
ライアとのリベンジに向けての練習という事もあって、それを真似する伽里奈が立体的に動く事が出来る足場が必要なので、今回は演習所の森を使うことにした。
だとしたら北海道の方がいいような気がするけれど、今の季節は木にも地面にも雪が積もっているからやりにくいし、榊と吉祥院が神奈川勤めなので、2人にも見せる関係上、特権で演習所を占有出来る横須賀になった。
「あの時フィーネさんがバングルの残党にちょっかいを出さなかったら、これも報告されてたのかな?」
「今日は霞沙羅が来てないって、それが外から解るほど軍は甘くないでござるよ」
「そもそも霞沙羅はあまり建物の外には出ないからな。せいぜい車が来ているかどうかくらいだが、たまに転移で出勤してるだろ?」
「面倒くせえ時はな」
勤務地の札幌駐屯地はそんなに広くはないけれど、大佐である霞沙羅が建物の外に出てきて指導なり武器の調整なりの業務をしている姿を見る機会はあんまりないだろう。
だとしたら、まずは1人だけ送って、ある程度軍周辺の環境を調査しつつ。そのあと何かの魔工具でも持った人間が来る予定だったのか。考えられるとしたら、また別の人形遣いがいたか何かか、探索系の魔術に長けた人員を待っていたのかもしれない。
「防犯カメラを解析した結果は、脱走には人形遣いが絡んでいたようでござるよ。それにしても見事に建物の構造を把握しているような動きだったようでやんす」
例の幻想獣の塊も使用されたのか、脱走推定時刻の少し前に、あまりにもタイミングのいい発生であった。
刑務所から幻想獣対策に人が出撃するわけではないけれど、どうしても注意は逸れるので、使用した可能性は大だ。
「今回の連中はなかなかやるようだな」
バングルは、封印された幻想獣の居場所を知ったり、幻想獣と融合する魔工具を用意したりと、中々の動きを見せた。
寺院庁の隠蔽という不祥事が味方しながらも、伽里奈が小樽と横浜にいたことが失敗原因のかなり大きな部分だけれど、結局幹部一人を失ってからは、一気に瓦解していった。
今回起きた脱走については、刑務所内もスパイがいないかとか、取り調べをしていた海外の捜査員は実際どうなのかとか、今は警察主導で内側の犯人を調べているところ。
あの刑務所から4人を脱走させたのはかなりの準備があったと推測される。
けれどとりあえずは警察に任せて
「こいつと真面目にやるのは久しぶりだな」
真面目といっても伽里奈はリクエストされた魔装具のランスで、霞沙羅も同じように本番用では無いけれど普段持ち用の魔装具の長刀を持ってきている。
ただ、ライアの時と違ってお互いの腕前が解っているから遠慮はせずに、今回は最初から魔法も使うという結構な本気モードだ。
だからこの場所には伽里奈達4人しかいない。軍内でも余程の人間でなければこの2人に近づくのはあまりにも危険すぎる。
「おっし、やるか」
ランスは霞沙羅に研究用に貸した時に地球でも使えるように改良されているので、伽里奈が魔力をこめると、柄の先から魔力結晶で出来た、先の細い筒状の槍部分が発生した。
この辺はやっぱり霞沙羅は有能な鍛冶屋である事が解る。
「お、あれは初めて見るな。伽里奈君はあのような槍も使えたのか」
魔力を流し込むだけで魔力結晶の槍の作成が出来るだけで、これといって派手な力はない。ただ、魔力の属性が決まっているわけではなく、場面を考えて持ち主の自由に決められるのが利点だ。
そして今日は土。あまり攻撃に向いていなさそうだけれど、伽里奈が敢えて選んだのだから、油断は出来ない。これは何かをやる気なのだと思っておいたほうがいい。
まずは2人で長い武器を持って、様子見で槍と長刀を打ち合わせている。
あまり使ってない、と言ったわりには伽里奈はちゃんと槍を使いこなせている。
西洋の槍といってもいいこの魔装具の槍。現代にこういうのとやりあう機会はほぼ無いから、多くの武器の経験がある霞沙羅としても、中々面白いと感じている。
榊もこの後やらせてくれないかな、と興味津々で見ている。
「じゃあそろそろ始めますねー」
伽里奈はふわっと高く跳び上がると、近くにあった木の幹に対して垂直に、霞沙羅を見下ろすように立った。
「お、おー」
吉祥院には解るけれど、伽里奈は自分にだけ重力の方向を変える魔法を使っている。
「では行きまーす」
下向きに立っていた伽里奈は霞沙羅の方にかっ飛んできた。霞沙羅のいる方向に重力を変えたのだ。
「ぬおっ!」
跳び蹴りでもするような格好の一撃を受け止めると、伽里奈は一旦地面に手をつくと次の瞬間には空に向かって落ちていった、と思ったら、地面に出来た何かを蹴って、また霞沙羅の方に飛んできた。
「土の力かよ」
槍が纏っている土の魔力をちょっと切り離して、それを足場にして方向転換を図ったようだ。
「よくあれで地面にぶつからないでありんすな」
地面にぶつかりそうになると、引っ張られるように、横にスライド移動をする。瞬時に重力の方向を変えるので、ずっと空中にいる。
「こういうのって誰かして来るんですかねえ」
今度は逆さまの状態で、空中を走って来た。スライド移動した時に、土の魔力をライン上に切り離しているので、そこを走ってくる。
「またこれか」
上下逆さ状態での攻撃。ライアに続いて二回目だけれど、本来体がある場所に何も無いから、反撃がとてもやりにくい。でも伽里奈はこの状態が解っているから、普通に連続突きを繰り出してくる。
「くっ!」
押され気味の霞沙羅は一歩下がって長刀を振るが、伽里奈は空中を一段落ちて避けたところに、また元の高さに戻って
「すみませんねー」
先端を丸くしたランスで、霞沙羅の腹をドンと押した。
「解除しまーす」
半回転して、伽里奈は地面に着地した。
「やー、やっぱライアはすごいなー。久しぶりだからクラクラしますねー」
さすがの伽里奈でもちょっと向きを変えすぎて目が回ってしまった。
冒険者時代はちょこちょこやっていたのでこんな事はなかったのだけれど、地球に来てからはそれほどやっていなかったから、ちょっと体が動きを忘れてしまっていたようだ。
「これって何に使ってたのでやんすか?」
「空を飛んでる魔族とか、エリアスの作った魔物とかへの対抗とか、建物への侵入とか、暗殺者への対抗策とかそういうのですねー」
「ワタシ的には向きの変更はしたくないけど、空中を歩くのは面白いねえ」
「くそっ、またダメだったか」
伽里奈に押されて、倒れていた霞沙羅が上半身だけ起こして、悔しそうに地面を叩いた。
「伽里奈君、俺もいいか?」
「いいですけど、ちょっと休ませて下さいね」
霞沙羅に勝ったはいいけれど、長時間は無理なようだ。
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