新学期 -4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
今日は新学期初日なので、学校は午前中までしかない。
だから11時くらいまでただひたすら、学年は関係なく、長い休みで鈍った体を再び魔力に慣らせるために、自由に魔法をぶっ放すことになっている。
レーンだけでなく、教師達は冬季休暇の中、触媒を充分に用意して多くの結界を用意したり、溜まりに溜まった雪を使うべく、伽里奈が授業用に規格化したゴーレムを準備して、生徒達を待ち構えていた。
勿論、伽里奈とシャーロットも教師側に立って、ゴーレムを作る事になっている。
これには生徒達は驚いた。
「すげえな」
「今年は色々出来るわね」
年明け初っぱなから教師達の本気度が伝わってきた。
一年生は知らないけれど、去年までは全生徒が使うには足りないレーンには長蛇の列が出来てしまうので、仕方なく教師が結界を作ったり、積もった雪を重機で山にして、それを無造作に撃つという感じだった。
でも今年は違う。
年末くらいからやり始めた施策を一気に揃えて、そんなに長く並ぶこともなく、久しぶりの魔法の練習が出来る。
雪は降っていないけれど風は吹いているので外は寒いけれど、ゴーレムの破壊を体験するべく、多くの上級生達はグラウンドに飛び出していった。
「伽里奈アーシア、最初から随分すごいじゃない」
一ノ瀬と藤井も外に出てきた。流石にA組生徒ともなると、レーンや結界でただただ魔法を撃つよりも動くゴーレムという標的を壊す方が面白いに決まっている。
「先生達が頑張って準備してくれてたからねー」
ある程度の段階を付けて規格化したのも良かった。ゴーレムはそれほど使われていない魔術だから、「今はこれを作って」と指定することで、教師達も短期間で覚えることが出来た。
ゴーレムには行動パターンが仕込まれているから、作った後は万が一の事故がないように見ていればいいだけ。
「伽里奈君のだけなんかドラゴンみたいな形をしてるけど」
伽里奈は実物を知っている人間ではあるけれど、地球側には存在しない生命体なので、リアルなのではなくて、造形もシンプルでマンガに出てくるようなちょっと太めな愛嬌のあるドラゴンの姿にした。
でも教師達の騎士に比べてかなり大きくて、立ち上がると全高8メートルくらいあるし、尻尾があるから全長は15メートルにもなる。
飛ぶわけでもないので飾りの翼は小さめで、広げても全幅は7メートルほど。
これを見た生徒は一回くらいはやってみたいと、まだ練習用魔法しか使えない一年BからE組の生徒も悩んでいる。
「大きいからね。頑丈にしてあるから、一度に多く生徒を捌けるよ」
「じゃあ私はこれ」
「私も」
一ノ瀬と藤井は早速ドラゴンの所に並んだ。
「あの、オレ達もいい?」
今林の兄弟も声をかけてきた。
長男は大学生だけれど、次男と三男は高校生。
「うん、どうぞー」
当然のように攻撃はしないけれど、口から雪が混ざった風を吹き出して威嚇する設計になっている。
「じゃあ動かしまーす」
他の教師達もゴーレムを動かし始めたので、これまで見たこともないくらいに、一斉に魔法が飛び交い始めた。
これだけの人間が魔法を放っていると、グループの中に時々混ざっている一年生の練習用魔法も効いちゃっているように感じて、頑張って撃ち込んでいる。
でも今日は、とにかく冬季休暇で鈍った感覚を復活させるのが第一目標だから、外にいる生徒達はみんな、何も考えずにターゲットであるゴーレムの破壊に熱中している。
やっぱり動く物を壊すというのは、リアルなゲーム感覚があって、みんな楽しくて集中してやっている。
でも彼らはいずれはリアルに幻想獣だけでなく、人間相手にも戦う事になるので、実際に体を動かして、魔法を撃って動く物を壊すという経験を早めに積んでおいた方がいいと思う。
今後は雪が溶けてなくなる春以降のことを考えて、砂のゴーレムもデザインしていく必要があるけれど、しばらくはこれで通そう。
まあ、授業なのであまりリアルな事は考えないで、楽しく練習出来るようにデザインをしようと思う。
生徒達も新学期一日目から、細かいことを考える必要もなく、くたくたになるまで思いっきり魔法を放つことが出来たので、満足して帰っていった。
そして教師達もそんな生徒達を見て、かつて無い手応えを感じていた。
* * *
ユウトの祝勝会&シャーロットの激励会の日時が決まったので、純凪さんにも連絡を送ったら、すぐに「了解」の返事が返ってきた。
結局料理は何にするのかというと、関西風のすき焼きになった。
折角のお高い葉山牛だし、皆で話をしながらゆっくり味わって食事をしたほうがいい。
それから雪が降る中で温かい料理を食べるという事も、これからは中々出来ないだろうと、北海道の思い出を作って貰うために鍋料理に決まった。
それに関西風なので、最初は葉山牛を単純に味わうために、軽く砂糖と醤油の味付けで焼いて食べてから、本番のすき焼きを作りたい。
あと、醤油は関西製の甘めの品を通販で注文しておいた。
お肉は勤務地が横須賀の榊が買ってきて、あとはフィーネがワインを買ってくる。
「ワインならもう買ってきておる」
「早いですね」
「小童と小娘共のためにジュースも用意した」
「わざわざ池田町の?」
「行ったのだから当然ではないか」
優しい邪龍神様、ありがとうございます。
フィーネと言えば、先日買ったワンピースを皆が褒めてくれた事もあって、普通の服も良いといたく気に入ったようで、あれからはエリアスが持っているファッション誌を借りては、次の服はどうしようかと考えているそうだ。
でも今日はまだ服が少ないので、いつもの黒ドレス姿。
その辺はちゃんと伽里奈が心をこめて洗濯をしております。
「すきやきー」
そしてさすがに頻繁にはすき焼きはやらないから、シャーロットははしゃいでいる。しかも今回は有名なブランド和牛。
一体どんな肉なのか。早く食べたいものである。
「しっかり食って、試験に臨むとよい」
「はーい」
元々の才能もあるけれど、シャーロットは本人の言葉でレポートも仕上げ、勉強もディスカッションの対策もしてきたので試験対策はバッチリ。
ユウトの方は、お世話になったジムの店長やスタッフへのお礼が終わってから、少しずつ部屋の荷物を自宅に移動させ始めたので、掃除をしに行くとあった物が無くなっていたりするのを見ると、ちょっと寂しい気分にさせてくれる。
そういえばシャーロットはいつまで日本にいるのだろうか。大学は6月からだからといって、4月から小樽校の二年生に付き合うようなことはないだろう。
でもまあそれは卒業と入学が決まるまでは訊くのはやめておこう。
今はユウトを気持ちよく送り出すことが先だ。当日に向けてしっかり準備をするとしよう。
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