入居者のお手伝いは管理人のお仕事 -12-
朝になってアンナマリーは普通に出勤した。朝ご飯は少なめだったけれど、一つの困難を乗り越えた、清々しい表情でいつも通り堂々と家を出てきた。
昨晩は男の部屋というだけでなく、伽里奈のベッドで寝てしまったとかそういう気持ちで恥ずかしかったが、伽里奈が不甲斐ない自分に真摯に付き合ってくれた結果だ。
もはや管理人として信頼している伽里奈が見守ってくれて、それでぐっすりと寝てしまっているのだから、文句を言う理由は無い。
新しいぬいぐるみも貰ったし、丸一日気を使ってくれた事の感謝を伝えて、気持ちよく出勤した。
オリビアにしても、心配なほど憔悴して帰宅したアンナマリーが、何事も無かったように出勤してきた事に驚いたが、理由を聞いて、その吹っ切れたような表情に安心したようだ。
サーヤも家族のいる家でゆっくりして、とりあえず騎士としての試練を乗り越えたようだ。
「しかし愛か」
「愛だそうです」
「カリナ君は面白いことを言うな。人を救う為と、迷える魂を救う為の愛か。我々のようなギャバン神の信徒はただ単に戦うだけではない。騎士として民の前に立ち、民を守り、救うのだ。そして戦場では同士をも守る。そのギャバン様に愛を持って愛の力を借りる、のか」
オリビアも神聖魔法を身につけているいるワケで、その考えは大いに共感出来る。
神聖魔法はただの魔法ではなく、神へ信仰との祈りで成り立つ力だ。知的探究心や力への欲望のような欲求では力を借りることは出来ない。常に人としての正しい心を持っていなければならない。
「あの状況ではなかなか難しいが、我々もまだ経験を積まなければならないな」
「そんないっぱいあんな状況にはなりたくないでーす」
サーヤは「もう勘弁」という顔をしている。
「ははは、そうだな。ただ気持ち的には備えておかないとな」
自分よりも若い下宿の管理人にしては面白いことを言う人間だな、と思いながらもなかなか興味深い言葉だ。あんな場面で焦るとは自分もまだまだ騎士として不足しているのだな、とオリビアも宗教が持つ愛の定義について、今一度考えることにした。
* * *
それから数日が経って、霞沙羅が横浜に出張する日になった。朝食を食べてからの出発。移動は空の便などの交通機関ではなく、霞沙羅ほどの魔術師であれば当然、空間転移だ。
軍の制服姿で館にやって来たので、初めて見た凜々しい姿にアンナマリーは見とれていた。24歳になった今でも軍の広報誌を飾るアイドルが務まるくらいに、新城霞沙羅は格好良くて美人さんなのだ。
「妙な事件が続いているが、お前の事だから心配はしてないぜ」
「先生は自分の世界を気にしていて下さい。ボクはボクの世界を見てますから」
こちらの世界でも一悶着ありそうなのだ。本来なら霞沙羅を手伝うのもありなのだが、アンナマリー側の方が心配なのでそうもいかない。
それに霞沙羅はこちら側の英雄だし、関東には元チームメイトの2人もいるから全く問題ないだろう。
伽里奈が中身を準備したキャリーバッグを持って、霞沙羅は横浜に跳んだ。
ーもう24歳なんだから荷物くらい自分でつめて下さいね。
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