新学期 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「という事で、またしばらくあまりこっちに来られなくなりますので」
これは言っておかないと、とアリシアは魔法学院にやってきた。
学校が休みだったので年末から何かと頻繁に行き来があったから、こっちの事情を忘れられては困る。
「まあ確かに、この何週間かは色々とあったものだな」
サイアンの魔族退治と、リバヒルからの国賓対応と外交にも関わった。サイアンの方では温泉が出たとか、それに関わる鎮魂の儀の準備もあったようで、ギャバン教教皇からの招待状にもその辺りのことが書かれていた。
ギャバン教の信者ではない国王だけでなく、一応アリシアが所属している魔法学院も、そこまでギャバン教団だけでなく、同盟国で起きた問題の解決に関わってくれていて、鼻が高い。
これ以外にも有用な魔工具も作っているので、いい加減、アリシアの階位をもう一個上げようかという話にもなっている。
冷凍箱を今日もまた、今度は貴族からの予約分も作って持って来てくれているし、例の魔物探知機も三将軍の手に渡ってテスト中。
一応の完成を見た調理盤は、早速飛行船に積まれることが決まり、それに対応した内装の工事が始まった。それだけじゃなくてあの晩餐に参加した貴族達から「あれは何なのか」とまた問い合わせが入っている。
霞沙羅と吉祥院を連れてきてくれて、意見交換後には宝物庫のセキュリティー開発部門も、ここのところは日本から貰ったアイデアを実現するべく、研究意欲が湧き出していると聞く。
それと今日は
「それは何の提案なのだ?」
期待しながらタウはアリシアが出してきた書類を手に取った。
「これ、向こうの客船のベッドなんですけど」
今回は魔術の話ではない。
一ノ瀬達の話しを聞いて、日本全国にあるフェリーを今一度調べたところ、こっちの飛行船にも使えそうなキャビン席の写真を抜粋して持ってきた。
キャビン席は最近の長距離フェリーの座席ではエコノミー的な位置になる、船によっては一番安い席として販売されているような席だけれど、悪くはないと思う。
「構造的には二段ベッドなんですけどね、遮蔽板があって、一人分が箱形になってちょっとしたプライベートが保てるんですよ。普通の二段ベッドでも、こう壁沿いに配置して、開いてる側に個別のカーテンをつけたりで、他の人の目から隠すように工夫してます」
「ほ、ほう」
アリシアから渡された印刷物には、確かに今言われたとおりのベッドがあった。
キャビンの方はこんな形状を見たことはないけれど、見た感じ作りは複雑では無いことは解る。
「プ、プライベートか」
狭いけれど、確かにプライベートな寝室空間が出来上がっている。
実際のところ、王宮用の飛行船に乗るような人間は、護衛の騎士などの人間であってもそれなりの身分の人間が多い。
王族には当然個室があるし、貴族用に個室もいくつかある。騎士の隊長格にしても狭いけれどプライベートが保てる個室はある。
でも護衛はただの二段ベッド。一部屋に8人とか12人なんかが詰め込まれて寝泊まりする。
幸いフラム王国の船はあまり飾りも無いから軽い。キャビンは二段ベッドよりは重くなりそうだけれど、まあこの遮蔽板くらいなら問題無い。
タウや賢者が搭乗するとなれば個室が割り当てられるけれど、同行の弟子となると二段ベッド。
でも弟子といっても魔導士や階位高めの魔術士。これは格差がすごい。
このキャビンを真似するにしても、予算はそれほどかかるようには見えない。取り付けるのは板とカーテンだけ。
他の同席者にも書類を回し読みさせても、割と納得気味な反応が返ってきた。
「なんか、集中出来そう」
「おう、ワシもそう思う。この中で寝ながら本を読むのは悪く無さそうだ」
この中に入り込んでカーテンを閉めて、寝転んで本を読むのも面白そうだと賢者も言い始めた。
「王に進言してみるが、今ある学院の船にも試しに作ってみるか」
アリシアは平民出だし、2年も冒険をしていたから、見えてる場所が違うのかなー、という感想を持つけれど、この簡易で小さなプライベート空間の提案はなかなか悪くない。
薄い板やカーテン一枚とはいえ、人の目から隠れられるだけでも精神的には大きいのではないだろうか。狭くても、それなりの地位にいる者も、気持ち的にゆっくり眠れるのではないか。
それに子供の頃に誰もが考えた秘密の部屋みたいだ。
「というわけで、ボクはまたあまり王都には来られなくなりますので」
「あ、ああ、これも次の会議の課題にあげるか」
部屋を作るわけではないし、今は木材にも余裕があるから、あまり予算も手間もかからないだろうし。
「冷凍箱の納品には来ますので」
自宅にもこういう空間が欲しいなあ、とかタウ達の声を弾ませて話が進んでいく中、アリシアは静かに部屋を出て行った。
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