新学期 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
もう新学期開始も目の前に迫った日。伽里奈は前から頼まれていたチョコケーキを作りに、手稲にある一ノ瀬と藤井が住んでいる家にやって来ていた。
冬季休暇中の多くを地元の秋田で過ごした一ノ瀬と藤井の二人。年始は本家寺院の参拝者対応で忙しくしていたけれど、それ以外は真面目に課題をこなしながら、実家での修行をして来たようだ。
やっぱり金星の接近があるから特に札幌では気をつけなければならない。その為にちょっと気合いを入れて帰ってきた。
「伽里奈アーシアは強すぎるわよ」
ケーキ作りの前に、修行の成果を見せるぞと息巻いていた2人だったけれど、伽里奈には手も足も出ない完敗だった。
いつの間にこんな事になったのか解らないけれど、兎にも角にもやる気を前にして相手をしてあげたのだ。
「ボク的にはA組の子の本気が確かめられて良かったけど」
2人は本気でやってくれたので、その辺は今後の施策ために良い勉強になった。一ノ瀬はA組トップの成績と言っているから、これを頂点として考えていこうと思う。
「秋田に帰ってる間に今林君もお手柄だったみたいね。前に色々あったから、新学期だし、気持ちも切り替えられるかしら」
「あれ、その話ってこっちの家にも伝わってるの?」
「バングルとかいう人達の件でしょ? 向こうもウチも道警に協力してるから、情報を共有してるのよ」
道警は金星の接近もあるし、カルト集団やテロ集団とされる金星の虜が捕まった、とあればその仲間もいるのでは、と各協力組織に警戒の号令を出した。それもあってこの2人も聞いているのだ。
「伽里奈アーシアも気をつけなさいよ」
「横浜で新城大佐と吉祥院様がその組織を半壊させちゃったから、それで監視に来たみたいよ」
「それって横浜でまた事件でも起きそうな感じだね」
「なんでそうなるのよ」
「バングルは北海道が赴任地のハズの霞沙羅さんが横浜に現れたのが負けの原因だから、北海道から姿を消したら、軍が何かを嗅ぎ付けたって見えるじゃん? まああの日は違う用事だったんだけど、時期も時期だしね。何かやるならマリネイラの力が大きな今かなって」
他の金星の虜にしても破壊行動をやるなら今しか無い。
ただ組織の一つであるバングルはもうかなり弱体化しているから、今更何が出来るのだろうか? ひょっとして別の組織に協力してるだけかもしれない。
霞沙羅にも話は行っているだろうけれど、一応聞いておこう。人形遣いの来日とか傭兵団脱走の件もあるから、全く何も無いという事はないだろう。
あの日は、機嫌が良かった未来が見える女神様さえいなければ、もうちょっとは何事も無く監視が出来ただろうけれど、運が悪いというか、相手が悪かったというか。
「じゃあそろそろ食べようか」
完成した後に冷蔵庫でちょっと冷やしたケーキを出してきて、人数分に割った。ホールではなくて、四角の形で二つ作ったから、残った1個は2人用だ。
「んー、まさに聖誕祭の時のケーキ」
「チョコクリームっていうのがいいのよね。作りはシンプルなケーキだけど、このリッチな味のバランスが良いのよね」
お返しの横手やきそばは冷えるのを待っている時に作って貰って食べた。
それにしてもたかが焼きそばといってもいい料理なのに、日本中に色々なバリエーションがあるから面白い。アシルステラでもフラム王国内の各領地によってちょっと違う、何らかの大衆的料理でも企画してみようかと思う。
冒険者とか商人なんかの旅の楽しみになるかもだし。
「今日は藤井さんが一人だけでケーキを作ったから、もう大丈夫そう?」
「そうね。でも次に一人で作る時に解らなかったら連絡するわ」
「はーい」
また食べたいと思っていたケーキだから、一ノ瀬はいつもの満面の笑顔で美味しそうに食べ終えた。
「そうそう、伽里奈君が前にフェリーの話しをしてたじゃない? それで帰りは秋田からフェリーで帰ってきたのよ」
「えー、そうなんだ」
到着するのは小樽ではなくて苫小牧だし、早朝に秋田を出て夕方頃に着く航路だったようだけれど、折角乗ったのだからと撮りまくった写真を見せてくれた。
2人用の個室を満喫しているし、エアホッケーのゲームをやったり、昼間から海を見ながらお風呂に入ったり、レストランはバイキング形式ではないけれど、船の上で海を見ながら食べている食事はちょっと特別感がある。
天気も良かったようで、中々楽しい二人旅を過ごしたようだ。
「はー…学校が始まるのよね」
「まあそうだけど」
「もー、金星の事もあるから面倒くさいわね」
「あれって、どういう順番なの? この時期の幻想獣っていきなり軍が出てくるの? やっぱり警察が最初?」
「やり方はいつも通りで変わらないわ。ただ規模が大きくなりがちだから、軍の力を借りる機会が増えるのよ」
それは主に人口の多い場所限定の話ではあるけれど。
ただ、人がまばらな地域だと、幻想獣に対応出来る警官がいない場合が殆どなので、組織の規模が大きい軍が対応することが多くなる。
幼生態くらいであれば、わざわざ霞沙羅がいるような専門部隊でなくても軍の通常装備でも対処が出来るので、これからしばらくは各地で軍がパトロールする事になる。
安全を守って貰えるとは言え、ここしばらくは市民にとってはちょっと物々しい雰囲気が漂う生活となってしまうだろう。
「学校の話になるけど、簡易の結界設備が出来るから、また感想を頂戴ね」
流石に結界の触媒を入れた容器を地面に置くというような、簡易すぎる授業風景は、練習回数が増えて好評とはいえ早いウチに見栄えが良くなるように何とかしておきたい。
「何か作ってるんだ? 楽しみねー」
「まあA組の子は通常設備のレーンが優先されるんだけど」
「でもあの結界、いかにも魔術って感じで好きよ。私達A組でも儀式魔法の勉強が始まるし、自分の為にもアレを作ってみたいわねー」
それはそうと、結局自分はこの先どうなるんだろうなー、という回答はまだ出てない。
二年に学年上がる頃にはもうシャーロットは国に帰る事になるのだろうが、今は環境が良いので、勉強のためにもうちょっといるにしても卒業が決まっているからこのまま日本で留学の形を取る必要はない。
そうなってしまうと、伽里奈がE組にいる必要は無くなってしまう。そもそも彼女のサポートのために編入されただけなのだ。
ならば普通科に戻れるかというと、それはもう無理だろうか?
「じゃあ、館の仕事もあるからそろそろ帰るね」
「これでいつでもチョコケーキが食べられるわね。あとまたなんかぬいぐるみを持って来てよね」
今日はイノシシの、うり坊のぬいぐるみを持って来た。2人揃ってさっきから膝の上に乗せたり、抱っこしたりしているので、気に入ってくれたようだ。
「作るリクエストも受け付けるからねー」
「え、そうだったわ。じゃあ考えとく」
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