女神様はお買い物をする -4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
札幌駅エリアに入った所でフィーネが足を止めた。
「のう小僧や、これより我の指示に従うのじゃ」
「え?」
「少し前の事件の後始末で、ミスをした学生共を心配しておったであろう? 自信をつけさせてやろうではないか」
急に変なことを言ってきたけれど、誰のことを言っているのか解った。なら、と伽里奈は未来の見える女神様の言う事を信じることにした。
フィーネは柱に寄りかかってスマホを見ていた一人の男の所に行き
「そこな負け犬よ、次は無いぞ。お主の事じゃよ、腕輪をつけた間抜けな邪教徒よ」
その言葉に男はギョッとして、脇目も振らず人混みの中を走り出した。
伽里奈も解った。バングルと呼ばれる腕輪も確認出来た。アレは魔法の発動体だからなおさらだ。
あまり大きい組織ではないから、活動は関東だけと聞いていたけれど、未来予知をしたフィーネがそう言うのであれば、あれは本物の構成員だろう。
「自信をつけさせるには丁度よい相手じゃ。手柄は譲ってやれい」
フィーネは、追え、と指さした。
「はーい」
伽里奈は視た。男の逃げるずっと先に3人の見覚えがある兄弟がいることを。それであれば、他の人間の安全を確保すればいい。大体ここは札幌で外は雪が降っているのだ。
伽里奈が「待てー」と言って追いかけ始めると、男は血相を変えて走って行くけれど、伽里奈の方が圧倒的に速いから、後ろからわざとパタパタ足音を出して走って、何となく誘導していく。
だから男の逃げる先には、今林の三兄弟がいる。
「今林君、金星の虜だよー」
伽里奈の発した言葉に反応して、三兄弟はハッとして、迎え撃つ体制になった。
この辺はちゃんと家業を手伝っている人間だけはある。そして息の合った三兄弟が揃っているから、最近身につけた役割分担を始めた。
「まあ時間がかかると周囲の人が危険なんで」
フィーネはあの3人に捕まえさせろと言うんだろうけれど、手間がかかると彼らが怪我するかもしれないし、周囲にも迷惑がかかる。
なので、伽里奈は男の足下だけをピンポイントで凍らせてしまい、バングルの男はバランスを崩して盛大に転んで床を滑走する。
そこをチャンスとばかりに長男と次男が飛びかかって、腕と脚の関節をそれぞれ極めて、三男がスタン用の電撃魔法を首筋にくらわせた。中々見事な連携に、バングルの男は何もさせて貰えないまま昏倒した。
「うん、やるー」
3人が抑えたところに伽里奈が追いついた形となった。
「あれ、よくあれだけで反応したねー、この人が金星の虜ってだけで」
「ああ、伽里奈君か。ウチはそういうのは警察から話しを聞いてるし、ちょっと一つ、関係者以外には内容は言えないんだけどある連絡があってね」
キャメル傭兵団が逃げたという話は、全国の警察とその協力業者に情報がいっているので、この三兄弟も父親から聞かされていた。
会社の仕事を手伝っているとはいえ、今はその捜査をしていたワケではないのだけれど、人形遣いのアイザックと共に、また小樽大の宝物庫の襲撃もあるかもしれないと、ある程度覚悟をしていたところだった。
「警察関連は知らないけど、なんかあるんだねー」
「ところで噂では聞いてたけど…、ホントにそんな格好をしてるんだね」
「え、ああそうだよ。結構いいでしょー」
「まあ…、そうだねえ…」
男だと知らなければ女に見えるし、人の趣味は尊重しないといけない。…尊重しないといけない。
「こんな場所で何を持ってるか解らないから、とりあえず縛り上げようよ」
札幌駅ビルの構内での事だから、通行人が野次馬として集まり始めた。
早くしようよ、と思っているけれど三兄弟はどうしようかとあたふたするばかりななので、とりあえずは伽里奈の方で持ち物を全て奪って、服を脱がして、ズボンやコートを使って縛り上げた。
その間に次男が警察に電話をして、到着を待つ事になった。
騒ぎを聞きつけて駅員もやって来たけれど、事情を話すと駅ビルに事務所を構えている鉄道警察隊に連絡を取ってくれた。
本来の業務からはかけ離れているけれど、道警の到着までは時間がかかるだろうから、一旦事務所に連行するという事になった。
いつまでも人通りの多い札幌駅構内に転がしておくワケにはいかない
捕まった男の方は偵察目的だったのか、魔法の発動体である腕輪は別として、武器の類いは持っていなくて、特別なモノと言えば撮影の出来る望遠鏡とウェアラブルカメラを持っていた。ただどういうわけか例のシールを一枚持っていた。
さすがにこれを伽里奈が持っていくわけにはいかない。あのヤマノワタイの剣士のデータが付いているシールと同じ物かどうかまでは解らないけれど、武器となるものは何も持っていないので恐らくは逃げる時に身のこなしをブーストするために使う予定だったのでは、と推測した。
「捕まえたようじゃな」
フィーネもやって来た。なぜか周囲を囲んでいた人達が割れていき、そこをフィーネが通って来た。
「ま、魔天龍さん」
「あれ、知ってるの?」
服が違うけれど、髪型は変わっていないし、喋り方も態度もお店のままだから、誰だか解らないことはないだろうけれど、今林三兄弟はフィーネに反応した。
「少し前に店に来た三人兄弟じゃったな」
「お店に占いに来たんですか?」
「学生らしい真面目な悩み事であったぞ。良かったではないか、其方達はしっかりと我の意見を聞き入れたのじゃな」
「は、はい」
カナタの杖の件で、伽里奈と和解をした後に「今後どうすればいいか」と3人でやって来た。そこで出した返答が「一人でやろうとするな」であった。
聞けば3人は大学卒業後には家業である今林セキュリティーを支える、と決めていた。
ならばすっと3人でやっていくという覚悟であるのなら「勝つために三人で組めば良い」と、忘れていた当たり前の事を言われた。
「市民は悪に勝つことを望んでおる。そこに人数は関係ない」と言われてから、3人で連携する練習を始めた。この冬休みもずっと。
今日は特に家業とは関係なく、3人で買い物をしていたわけだけれど、その練習の成果が出たワケだ。
「ちくしょう、まだ体が震えてるよ」
「それはオレも同じだ。でも思い出したら…腰が抜けそう」
実は3人は本番での対人間は殆ど経験が無い。会社の仕事では幻想獣が主な相手だった。
やっぱり人間を相手にするのは気持ちの面でちょっと違う。
そもそもは伽里奈が追いかけていた相手だけれど、咄嗟に動けたおかげで、市民に被害を出すことも無く、どういう事情であれ、自分達の手で取り押さえて、金星の虜がこうやって拘束されている。
伽里奈からは横浜にいるバングルという組織の一員、と説明されて、どれだけの腕前の人間だったかは解らないけれど、ひとまず結果が出ただけに、アドバイスを貰ってからやって来た事に自信が出てきた。
とりあえずまだ震えてる指先で今林セキュリティーにも連絡した。するとすぐに来るという。
「こいつが勝手に滑ったワケだけど、それでも上手くいったもんだな」
床の水を使って見えないようにやったから。
「伽里奈君が追いかけてきたから、そっちに意識がいってたのもあるかな。冷静に対処されてたらどうだったか解らないな」
「まあでもお手柄だよー」
「オレ達、たまたまいただけなんだけどな」
学生にしてはお手柄だったのに、変に増長しているわけではないから大丈夫だろう。
もうすぐ新学期。あの失敗はもう忘れて、新学期からはまた立派な魔術師への道を歩んで欲しい。
フィーネも粋な事をしてくれたモノだ。
やがて鉄道警察がやってきて事務所の方で身柄を預かると連行していくので、3人は今林セキュリティーの関係者だと説明すると、この男を取り押さえた今林三兄弟もついて行くことになった。
「今回はボクじゃないから帰るねー」
「え、え?」
「業務時間外でも会社の仕事だよ、キミ達のところはそういうお仕事でしょ? ボクはあの腕輪を見たことがあって、声かけたら逃げ出しちゃって追いかけてただけだから。また学校で会おうね。3学期からの施策への意見も引き続きお願いねー」
これ以上ここにいても意味は無いし、そろそろ女神様が痺れを切らしているので、さっさとバスに乗らないといけない。
伽里奈とフィーネの2人はまだ騒然としている事件現場をあとにして、バス乗り場へと向かった。
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