女神様はお買い物をする -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
ワンピースとブーツの会計を済ませて、着て来たドレスとブーツを持ち帰る用の袋を特別に貰い、2人はお店をあとにした。
コートは着てきたモノをそのまま着ているけれど、黒いコートと服というコントラスト的に問題は無い組み合わせだったので、そちらはそのまま着て帰る事にした。
「ど、どうじゃ」
「そんなにくっつかれると見えませんけど」
モジモジとしながらフィーネは伽里奈にぴったりと身を寄せてくる。折角着て帰っている服を「どうじゃ」と言われてもこれではよく見えない。
今まで見た事もないような態度を見せているけれど、ホントのところは気に入っているのだろうという事はすごく解る。
実際変な格好じゃないのは、店員さんもお世辞ではなく保証してくれている。
オフィスN→Sに戻って、全員に見せても良い反応が返ってくるだろう。
「あの小娘女神のようではないか?」
「フィーネさんが設定した見た目年齢に合っていると思いますよ」
「し、白は苦手じゃ。我は綺麗な神ではない。白はもっと無垢なる者が着るべきであろう?」
ちょっと前からこんな感じでフィーネに付き合っているけれど、やっぱりこの女神様も弱音を吐く時があるんだなとハッキリと解った。
エリアスには色々とフォローもアドバイスもくれたけれど、異世界ながら先輩女神からの言葉であって、そこには決して心に余裕があったわけではないのだ。
管理者側であっても、あの舘に長くいるだけはある。
「色は関係ないですよ。フィーネさんだって白を着る権利はあります。黒のドレスはいつもキマってますけど、予想以上に白が似合っててちょっとビックリしました」
フィーネは伽里奈にぎゅーっと寄ってくる。折角買ったばかりのワンピースにシワがついてしまいそうなくらいだ。
「舘にいる時くらいは自由にやっていいんですよ。いつも邪龍神のままでいる必要は無いです。あの世界でだって、賢者役でも黒にこだわる必要もないでしょう? 別の役割を演じているのなら、人と交わる時は白とか他の色でもいいと思いますよ」
その言葉の返事として、フィーネが肩をつねってきた。
「いたた」
「生意気な小僧よ。女神を一人手に入れたとて自惚れるでない」
その言葉とは裏腹に、フィーネはぎゅっと伽里奈を引き寄せる。正直もうこれ以上は引き寄せられないんじゃないかというくらいに。
「我はあの小娘のように人の位置に落ちるつもりはない」
信号が青に変わり、フィーネが伽里奈を引っ張っていく。
「わ、我はあの大地に災厄を巻く邪なる女神であるぞ」
口にする言葉とは裏腹にほんの少しだけ声が震えている。フィーネがやや前になっているのでその表情は見えない。それでもいつもと違うテンションなのは解る。
「だったら次はラーメンでもハンバーガーでもピザでも寿司でも、あの大陸にぶちまけてやるわ。愚かな人間共はたいそう混乱するであろうな。そこまで言うのであれば、そ、其方は、これからも、この災厄の女神に与する度胸があるというのだな?」
3年間ずっと考えてきた、この女神様にお返しをする機会だ。それに友人が治めるモートレル奪還の時に尽力してくれた恩人だ。
毎度毎度奪うだけじゃなく、少しくらい、邪龍をしていない時は人に何かを授けたっていいんじゃないだろうか。
「この女神をも魅了する其方の魔性の技を、愚かな人間共に見せて貰おうではないか。その時小僧は我の眷属、邪龍参謀長とでも名乗るが良い」
「はーい、またあそこに行きましょうね」
やどりぎ館に住むということは、色々あるのだ。
管理人としてはあそこにいる人達に心の平穏も提供しなければいけない。
* * *
お店を出た後は札幌駅前通の地下歩行空間を歩いて、フィーネのテンションも落ち着いた頃、札幌駅の方からユウトが一人で歩いてきた。
それもあって、フィーネは小さな舌打ちを一つしつつ、伽里奈に絡めていた腕を放して離れた。
「あ、フィーネさん、だいぶ印象が変わりましたね」
「ふ、ふふ、そうか?」
「大会中も嫁が服を新調してくれたりとか、それで気分も変わりますからね。占い師も大変だと思いますけど、時々でもイメージチェンジをするのもいいものです。柔らかい優しい表情になっていますよ」
言われた相手がユウトであってもそれはそれで嬉しいフィーネ。まずは入居者の一人から好評を得た。
「ところでこんな所でどうしました?」
「通っていたジムの店長に挨拶をしようと思ってね。肉体作りという点では熱心なアドバイスもあって、とても世話になったから。今生の、というわけではないけれど、多分もう会うことも無いだろうからね」
店長さんは50歳くらいの現役ボディービルダーとか聞いた。今でも各地のコンテストに参加している、長く肉体美を追求している人だ。
フィットネスジムなんか無い世界から来ているから、ユウトにとっては衝撃のお店だった。
どの筋肉に良いと色々な機械を使わせて貰って、数字データまでも使った科学的なトレーニングも行い、食生活のアドバイスもくれて、とちょっと地元の人には悪いけれど、やどりぎ館に認められた人間の特権でもある。ユウトは大いに活用させて貰った。
拳の練習とは別に、今回の優勝に関しては無駄の無い効果的な肉体改造の甲斐は確実にあったと思っているので、その最後のお礼を言いに行くのだ。
「そうか、悔いの無いようにな」
退居の日が一日一日と近づいている。やどりぎ館の住民であったならばいつでも来る事は出来るけれど、やはり基本的には自分の生活する場所に帰っていく。
「ええ、上手いこと伝えてきますよ」
そう言ってユウトはジムの方に歩いて行った。
「あやつも長かっただけに寂しいのう」
「また次の人が来ますよ」
「次はこの星の人間ではない方が、管理者としては良いのじゃがな」
「そういえば地球の人が3人になってますよね」
一人は正式な資格者ではなくて推薦枠だけれど、地球の人間が3人も入居している状態だ。
本来はユウトやアンナマリーのように、文明の劣る世界から、快適な生活を提供しつつ夢や希望を目指したり、休息をとって貰うのが、やどりぎ館の設置目的なのだけれど。ただまあこれもタイミングもあるから、どうしようもない。
「まあよい、バスに乗って帰るぞ」
「バスですか? 電車の方が早く帰れません?」
「小僧共もバスを使っておるではないか」
「そうなんですけど」
便数も多くて値段もそれほど変わらないのに、通勤電車の座席とはちがう、観光タイプでの着席が確定している快適なバスで、エリアスと2人きりの時間をほんの少しでも長く味わうために乗っている。
小樽までの列車利用だと、途中には海沿いを走る景色のいい区間があって、あれを見ながら帰るのもいいのだけれど、そういった理由でエリアスと2人の時はバスで通している。
それを自分にもやれと言っているのだ。
まああの区間、冬の間は今日みたいに雪なんか降っちゃう曇天の日だと演歌の世界に変貌するのだけれど。
とにかく、女神様がご所望なので小樽へのバス乗り場に向かう事になった。
読んで頂きありがとうございます。
評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので
よろしくお願いします。