女神様はお買い物をする -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
場所は札幌にある「オフィスN→S」の事務所。
ここでは今日もファッションイベントに向けての準備が行われている。
「なんかエリアスの動きが変わったわね」
フラム王国での晩餐に向けてアンナマリーと特訓した「貴族の淑女」らしい動きが反映されて、背筋もピンと伸びて、動きに無駄が無くなっている。
王城での晩餐という、王家と国外の来賓、国の貴族が沢山集まる緊張感溢れる場所での、たった一日の経験ではあったけれど、とてもお上品な動きが出来るようになっている。
「学校が休みの間に随分と練習してたのね」
やや乱暴な口調の、フラム王国最上級のお嬢様は、やっぱり外に出しても恥ずかしくはない一流のお嬢様だった。
子供の頃から剣の練習をしていたというけれど、社交的な場での振る舞いも身につけているのはよく解った。
芸能界的な場所に強い霞沙羅にもアドバイスを貰っているけれど、やはりというか超お嬢様のアンナマリーの教養には侮れないものがあった。
ホントにやどりぎ館は面白い人が集まっている。
「動きも堂々としているし。前はちょっと照れがあったけど、そういうのはもう無いわね」
先輩2人も褒めてくれる。
「なかなかいいんじゃなーい?」
今日は吾妻社長の、出版社時代のコネクションから、服飾デザイナーの磐田さんという人が来ている。
冬の北海道観光のついでに、久しぶりに吾妻社長に会いに来たところ、イベント関係にも慣れている彼がアドバイスをくれている。
ちょっと女性っぽいムーブのある人だけれど、ちゃんと妻子持ち。
女性向けの服をデザインからプロデュースまで、独自のブランドを持ってやっているから、多くの女性タレントと仕事で繋がっていることもあって、こんな感じになっているらしい。
背は高め。体は細め。だからといって髪型は短めに切り揃えているし、服装も女性要素があるとすれば身につけた多めのアクセサリーくらい。
ただやっぱり業界の人だと一目でわかる。
「あのイベントには私もゲストで行くから、直前に時間があったら、最後のチェックをしましょうね」
「はい、よろしくお願いします」
吾妻社長の来客が終わったようなので、磐田は部屋を移動して、事務所エリアである広いリビングで2人は話を始めた。
「悪いわね、あの3人を見て貰って」
「いえいえ、このくらいならお安い御用よ。それにしてもあの企画、関東でも話題よ」
あの企画とは、霞沙羅の独占インタビュー記事だ。元旦、そしてその一週間後と、現在までに2回分が「オフィスN→S」の公式HPで公開されているけれど、順調にアクセスが伸びて、ファンだけで無く、知り合いや同業者からの反響も大きい。
霞沙羅は軍所属のために、通常の露出は軍の広報誌が中心となっていて、他には大手雑誌くらいしか許可が下りていないというのに、札幌の小さなタレント事務所が軍の許諾を貰っての独占インタビューを自社HPで掲載したともなれば話題になる。
でも業界人なら社長名を見ればなるほどと納得する。
「新城大佐って軍は仕事ってことで例外として、一般誌は嫌ってるじゃない?」
「本人もなぜか案外すんなり許可してくれたのよね。エリアスのおかげなんだけど」
「あの銀髪の子よね」
「新城大佐が住んでる…、ちょっと違う部分はあるんだけど、その下宿の管理をしてるのよ」
「あんな子が? へえ」
「もう一人男の子がいて、その子と2人でなんだけど。それの関係とか恩というか、そういうものなのよ」
「それはすごいわね。でも良い記事よ。新城大佐の表情もいいし、さすが付き合いの長い吾妻さんってところよね」
3回目の記事は数日後。これも話題になるだろう。
アイドル扱いを嫌がってはいるけれど、いつも霞沙羅はプロ根性できっちり撮影をこなしてくれている。
けれど今回の記事の霞沙羅は見る人が見れば自然な、よそ行き感の無い良い表情をしている、と感想を貰う。
吾妻が直接軍の広報誌に関わらなくなってからは、霞沙羅の表情がやや硬くなったと言われていて、それは解っている。
住んでいる場所でやったからなのか、それとも吾妻がいたからなのか、それは解らない。けれど後者だったとしたら嬉しい。
「この後はまた誰かが来るって言ってたじゃない?」
「そう、小樽の魔天龍さんが来るのよ」
「え、あの人って呼べるの? 小樽のお店だけでしか会ってくれないでしょ」
「魔天龍さんも同じ下宿に住んでて、今度ローカル番組出演で臨時マネジメント業務もあって、その繋がりで来てくれるのよ。私の夫と娘が札幌に引っ越してくるから、その新居をアドバイスして貰うのよ」
「えー、すごいじゃない。私も何度か占って貰ったけど、ホント当たるのよね」
吾妻さんこっちでも順調にやってるのねと、磐田は感心した。
* * *
「こんな雪の日にわざわざ電車に乗ってこなくてもいいんじゃないですか?」
「小僧は解っておらぬな」
空間転移で来ればいいのに。
伽里奈とまた腕を組んでいたフィーネは、その腕をつねった。
「いたた」
「つべこべ言うでない」
なんでこの人…、この女神は自分の腕をすぐにつねるのだろうか。
とにかく、小樽から鉄道を乗り継いで2人は「オフィスN→S」に向かっている。
傘も一本だけを2人で使っている、相合い傘状態だ。サラサラの雪なのではみ出た部分に積もってもすぐ落ちるから、あまり気にはならないけれど。
それにしても伽里奈はいつも通り女子的な服装なので、端から見ると女同士に見えてしまう。
フィーネもそれを期待して、伽里奈の服装を止めなかったわけだけれど。
地下鉄を降りてから、駅から少し歩いた所にあるマンションの入り口にたどり着いた。そしてロビーのインターホンでオートロックのドアを開けてもらい、事務所の部屋に向かった。
「フィーネさん、ようこそいらっしゃいました」
吾妻社長が満面の笑顔で迎えてくれた。
「小僧はどうするのじゃ?」
「社長の娘さんと会議をするんですよ、受験のことで」
「伽里奈君は会議室にPCを準備しているから、よろしくね」
フィーネは事務所エリアの来客スペースに案内されていき、伽里奈は会議室に向かった。
その隣の部屋ではエリアス達が過去の映像を見ながらイベントの準備をしているようだ。中から映像の音と、本人達の真面目な声が聞こえてくるから、変に声をかけて邪魔をしない方がいいだろう。
そして会議室の机には一台のノートPCが置かれていて、もう川崎市にある家とは繋がっている。
PCの前に座って待っていると社長が家に連絡をしたようで、画面の向こうでいそいそと女の子がやってきた。
「伽里奈さん、よろしくお願いします」
「はーい、昨日お母さんに送って貰ったテキストは用意してる?」
「こっちのタブレットに入ってます」
「あーい、じゃあ始めようか」
伽里奈は手ぶらだけど、勉強用テキストを作った本人だから中身は覚えている。今日はそこまで時間があるわけではないから、集中してやってしまおう。
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