それぞれの思惑 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
とある日の夜。
魔術に関わる犯罪者が収容される、魔術協会や寺院庁が協力している魔術犯罪者専用刑務所が、あきる野市の山の中にある。通称「魔刑」。
収容された人間は魔法の発動体を取り上げられ、魔力使用を封印する首輪などの拘束具をつけられ、場合によっては特別な牢獄に収容されたりと、かなり厳重に管理される。
建物自体にも人間の出入りを防ぐ魔術の障壁が張られていたり、勿論、職員である魔術師や神官も常駐していて、かなり厳重な守りを敷いている。
とはいえ、どんなに対策を立てたとしても、絶対という事は無いわけで。
現在ここにはキャメル傭兵団の4人が収容されており、国内だけでなく海外の警察や魔術協会が集まって、盗まれた宝物の行方について長いこと取り調べが行われている。
もう既に幾つも回収され、それに関わる依頼者やコレクターは捕まった者もいる。
でもまだ足りない。その位の回数、彼らは窃盗を繰り返してきたからだ。
もういくつかの国は用が済んだとして帰っていったけれど、日本も含め、イギリスやフランスもまだ終わらない。
今日も取り調べが終わった傭兵団の4人がそれぞれの部屋に戻されていった。
「アイザックの方はどうだ?」
ライゼンはイギリスの魔術師協会に定時報告をしていた。
あれから他の人間も使って調べさせているけれど、日本の方でも見つかっていないという。
「どちらの側も粘り強く続けるしかないでしょうね」
その後の調べでも、人形遣いのアイザックは日本に来た可能性が濃厚。
狙いは日本だろうが、彼の本拠地であるイギリスとしては黙っておくワケにはいかない。それに傭兵団と同業者である為、訊くことがたっぷりある。
果たして生きたまま捕まえることが出来るかは解らないが、日本にもその旨は伝えてある。
「あれが国を出てからある程度経ったわけだ。そろそろ気をつけるのだな。日本に入り込んでいると考えた方がいい」
「ええ、解ってますよ」
それにしても観測所で紹介されただけで詳しくは聞いていないのだけれど、あの新城霞沙羅と組んで傭兵団を捕まえたあの少年は実際のところ何者だろうか。
あの時は大学を襲撃したので、事件現場にいた教職の人間も元軍人や警察もいて中々の魔術師揃いだけれど、霞沙羅と2人であの4人を一網打尽に出来る程、手際が良かったと聞いている。
ついでに宝物から現れた完成態の幻想獣も2人であっさり退治したとか。
どこの国でも秘密の人材はいるだろうけれど、新城霞沙羅とペアを組めるようなこの国には人間は2人しかいないはずだが?
一体何が起きたのだろうか。
通信を終わらせると、スマホが震えて何かの案内の受信を知らせた。
「ん、何だ?」
日本に来て入れたアプリ。自分のいる地区で幻想獣の発生を知らせるものだが、あきる野市の一部区域に警報が発せられた案内だ。
「危険な旧都心部から離れているとはいえ、東京なだけはあるのだな」
幻想獣には警察が動くだろう。自分の仕事じゃない。
まあ今日はもう帰ろう。道路が規制されていなければいいが。
* * *
今日の勤務が終わった霞沙羅は夕飯を終えると横浜大にやって来た。
「榊は来ないんだね?」
「あいつは嬉々としてユウトさんと殴り合っているよ」
「まあユウトさんも出て行ってしまうからね。今のうちって事だろうね」
さすが優勝者だけあって、素手ならユウトの方が強い。軍内でもあれほどまでの人間はいないので、彼がいる内に出来る事をやっておこうという訳だ。
これについてはユウトもOKを出しているから、思う存分やらせて貰っている。
「あいつはダンジョンに興味ないしな」
「それが一番かな」
見たら見たで面白いと言うのだろうけれど、今は鍛錬の方に興味がある。だから無理に誘わない方がいい。
「状態はどんな感じです?」
こっちでははじめての本番仕様のダンジョン生成魔法なので、結果が気になって伽里奈もやって来た。
「まだ実際に中は見てないんだけど、魔術的に視た感じはちゃんと岩壁と空洞が出来てるよ」
「なら早く行こうぜ」
上手くいっていたら、明日は教授達にも見学させるつもりだ。
3人は夜になってもう誰もいない大学構内を歩き、ダンジョンの入り口までやって来た。
まずは予定通り地面からにょきっと石作りの入り口が生えている。
「岩の扉ってのがなあ…、いい雰囲気だ」
今は作ったばかりで新しめな外見だけれど、じきにいい色になって…、いくといいかも。
そしてこんな外見でもいきなりセキュリティーが仕掛けられている。鍵となる魔術が組み込まれているカードを所定の場所にタッチすると、入り口の壁がゴゴゴと音を立てて横にずれていった。
「おー、すごいですねー」
出来てるじゃん、と伽里奈も感心する。さすが霞沙羅と吉祥院が真剣に楽しんで作っただけはある。
「じゃあ中に入ろうじゃないか」
中に入って、入り口付近にあったスロットみたいな穴に、別のカードを差し込むと、魔術の明かりが灯って、地下へと続く階段を照らした。
このカードを差し込まないと、明かりが点かないどころか、いつまで経っても階段が終わらない空間の魔術が仕掛けられている。
「中もいいじゃないか」
中の石壁もきちんと出来上がっている。触ってみても、少々の地震では崩れることは無いだろうことが解る。
けれどまだまだ生成中なのでしばらくはダンジョンの上付近に重い物を置くのはやめておいた方がいいだろう。
そして階段を降りていくと、また扉があった。
この扉の向こうが、とりあえず一つだけ作った部屋となっている。
「ここの開閉は魔術基盤判定なんですねー」
「キミのところで聞いたからね。早速やってみたよ」
扉の横に四角い出っ張りがあって、吉祥院はそこに魔術基盤を浮かべた手を置く。
この魔術基盤を出っ張りに仕込まれた装置に押し込む。この魔術基盤は、装置に抜け落ちた起動術式であり、正しい魔術基盤を追加することでようやく扉の開閉が出来るようになる。
ちなみにダミーとして、扉には何にも作用しないシリンダーを追加で取り付ける予定で、その為に鍵を設置するための穴がついている。
「上手くいったようだな」
セキュリティーが解除されると扉が左右に開いていき、中の部屋の明かりが点いた。
部屋の中は予定通り、ワンルームマンションの一室くらいの広さで出来上がっている。
天井までの高さは、吉祥院が入ることを考えて、3メートルくらいと余裕を設けている。
とりあえずしばらくはこの部屋から先の拡張は控えて、色々と物を置いたり、ちょっとした研究に使う予定だ。
「後で我が家が宝物庫に預けた魔工具を幾つか入れてみるよ」
「大丈夫なんですか?」
「保管用の箱は当然仕掛けを解かないと開けることも動かすことも出来無いものだよ」
「教授達に盗み出せるかどうかの実験もやって貰うつもりだぜ」
まずはセキュリティーの実験室として使う。伽里奈からはダンジョンの仕掛けを取り替えたり追加する技術もあることを聞いているので、それも試すつもりだ。
「あとはこの壁が出来ているかどうかだな」
石壁をランダムで、検査用のテストハンマーで強度の確認をしたりと一通り見て回って安全を確認した3人は一旦外に出た。
「いいんじゃないのか?」
「ちゃんと出来てますよ」
「いやー、アリシア君、きちんと術のコンバートをしたもんだねー。何といってもこっちには無い技術だからねえ」
今回はゴーレムと違ってそもそも地球に存在しない魔術なので、オリジナルであるアシルステラの術式はあるけれど、こちら用には参照する魔術が無いので一から作る必要があった。
「魔術師にとっては夢のような技術だねえ。早速実家の土地にも仕掛けるとするか」
「私のところの地下にも仕掛けてみるか」
それぞれ宝物の収納用と、鍛冶をする際の試験部屋といったところ。
「それじゃあ私は3個の魔工具の移動準備をしてあるから、こっちに移すとするよ」
世界初とは思えない満足な結果を確認出来て、吉祥院は自分の研究室に取りに行き、伽里奈と霞沙羅は小樽に戻っていった。
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