女神様のフォロー -1-
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地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
吉祥院が大学に許可を取ったので、横浜大構内の空きスペースに新型魔術の実験と称してダンジョンの生成を行う事が決まった。
あのミニチュアはまだ初心者が作るコア部分だというのに、2人のこだわりが大きく反映された、かなりセキュリティーガチガチの部屋へと成長していた。
教授達も「ダンジョンを作る」という前代未聞の実験なので、主に建築や設備関連の専門家が集まることとなった。
これについては吉祥院と霞沙羅だし、と信頼を置いてくれている。確かに、いつの間にかほぼ完璧に出来上がっていた魔術というのは驚きだけれど、その中でもやっぱり一番驚いたのはミニチュアの存在だ。
魔術の説明をする時に出した時に、誰もが「設計のプレゼン用なんだな」と思わされたけれど、説明を続けるとこれが魔術基板における設計図の役割を担っている事を知って、慌てて全員が取り囲んだくらいだ。
ただ、実際に見て貰って、このミニチュアにも魔術基板が仕込まれていることを確認すると納得してくれた。
確かに面白い魔術だ。けれど日本の建築技術は非常に高いので、実際に使えるのかどうか、という意見も出たけれど、結局は全員魔術師。知らない魔術を見せられて黙っていない。
とにかくやってみようと、全員乗り気で許可は下りた。こんなものを見せられてやらないという選択肢を取る人間が魔術師なわけは無い。
そして当日、本場の技術を持っている伽里奈も巻き込まれて、横浜大にやって来た。
「午後からはフィーネさんに付き合いますからね」
番組撮影の話ではなくて、あちらの世界での料理の話。
魔物が現れる時期のピークは過ぎたらしく、戦いはだんだんと落ち着いてきている。とはいえこれからも戦いは続くし、この時期に戦士と民衆へ新しい料理という小さな希望を与えておきたい、と邪龍神様は仰るわけだ。
それでこちらの実験では、魔法を仕掛けたら、後はもう待つしか無い。それを見届けるくらいなら時間はある。
入り口は地面から外に突き出ることになるのだけれど、ダンジョンそのものは地下にあるので、残念ながらどうやって出来上がっていくのかは外から見ることは出来無い。
それでも、出来上がるであろうまでの三日間は、吉祥院が定期的にやって来て、地面を探知用の魔法でスキャンすることで、記録をすることにしている。
「それじゃあ始めようぜ」
魔術を使用するのは吉祥院。伽里奈に渡された解説書を手に、参加者には所定の場所にいくつかの触媒とミニチュアを設置して貰って、術式を起動した。
今回も予定通りにミニチュアを設計図兼コアとするように、地面に広がった魔術基盤に溶けていった。
「大体三時間くらいで、ある程度の形が出来上がりますので、観察するならそこからでしょうね」
といっても、突然ダンジョン小部屋の姿になるのではなくて、ある程度の壁や通路が出来上がって、範囲内の土が壁に吸収されていき、岩のように硬くなり、部屋の形が出来上がり、更に硬くなり固定化されていく、という流れ。
三日ほどすれば床も壁も天井も、中に入っても大丈夫なくらいの堅さになる。
この魔術はその後もまだまだ長く続き、二週間も経てば堅牢な岩壁になるだろう。
「まさに魔術って感じだね。いやー、いいよいいよ」
これは三日後が楽しみだ。もう何を保管するのかも決めている。
地球では初めて本格的に作ったダンジョンだけれど、さすが日本の二大魔術師が作り上げた物なので、それなりに慣れている伽里奈から見ても完成度が高い。
この魔術の成功が確認されたら、ここにいる人達で研究しまくるんだろうな、と思いつつ、伽里奈はこの後の予定のために小樽に帰った。
* * *
フィーネ改め、邪龍神ネルフィナがいるのは「ラーナン」と呼ばれる大地。
12月の初め頃に一度来て、その後にもう一度来て、うどんみたいな麵料理のために天ぷらを提案したら、喜んでくれて、今日もまた料理を作りにやって来た。
アシルステラのようにはあんまり来ないのは、フィーネが調整していたから。フィーネは日本にいるけれど、こちらの大地の状況を常に見ていて、発生しまくる魔物と戦う人間達の邪魔をしないためだった。
「ひとまず落ち着いたみたいで良かったですね」
「時期が終わっただけじゃよ」
瘴気が強くなったり弱くなったりと波があり、これで人々はしばらく休息を取ることが出来る。
それでもまた次の時期が来るまでには壊れた施設の修理や、武器の補充もしなくてはいけない。
人がやった事の結果、だと聞かされたけれど、それにしても過酷な状況だ。
まあアシルステラの方も、ワグナール帝国が存在していた頃は、ちょくちょく小競り合いがあったし、他の場所でも大なり小なりの侵略目的の戦争が続いたりして、神様が怒って魔女戦争になったわけだけれど。
そして今回も会う人間は同じ。
元弟子のイザベラさん。
「これで一息つけるのう」
「今回も皆よくやってくれました。どこかで労ってやりたいモノですが、今はまず被害の修復が先決です」
「その辺りは、我も時々手を貸してやろう。人知れず我からの使者を行かそうではないか」
例のトカゲ人間を、人々が休んでいる時間に出現させて、瓦礫撤去などでひっそりと作業させるという話。イザベラも弟子なので、フィーネが何をしようとしているかは解る。
「それではまた何か料理を作らせるとしよう」
「あの天ぷらは良かったですよ。一つ乗せるだけでも麵の味が変わると評判です。こちらでも他に天ぷらに出来る食材が無いかも考えているくらいですよ」
戦いの合間に食べる料理。麵を作るのはやや手間だけれど、調理も食べるのも楽だから頻度も高く、そのせいで飽きてしまうし、ちょっと物足りない部分があった。でもそれに天ぷらを載せることで食べ応えが出る。
それに天ぷらの種類も幾つか提案していったので、都度味変も出来る。
「カレーうどんなんですけど」
カレーとはなんだという話だけれど、麵のスープを、色々と具の入った辛いスープにするという説明をすると納得してくれた。
あと、天ぷらとは違うけれど、やはり茶色い食べ物は美味しいということで、串カツとウスターソースを教える事にした。
とりあえず大量に作れて、味も濃くて、満足感のある料理がいいと思う。戦いの合間には酒の肴にもなるし。
フィーネからこの辺で手に入る食材リストはこの前貰っているので、日本のカレーにはならないけれど、なるべく近づけるようにスパイスの配分も決めてある。
そもそも「うどん」という名前の麵では無いから、名前はそっちで考えて貰うことにして、料理のために人を集めて貰った。
「それと小僧、あれを出すがよい」
「はーい」
これはアンナマリーとのやり取りを知っているフィーネから頼まれていた物。
「フィーネさんから教わっている内容を、教本として纏めたものです」
いわゆる魔術の教科書だ。それも実用的なもの。
「中級の入り口程度までしか纏まってはおらぬが、次の季節までに新兵の教育をするが良い」
神聖魔法まである。女神であるフィーネが監修した、全宗派対応のテキストになっている。
ここにだって首都や王都に行けば養成機関はあるけれど、学生向けではなく現場での応用に関する内容だ。
「師匠、ありがとうございます」
「小僧が料理を作っておる間に、我は怪我人でも見て回ろう」
女神様、今回は大奮発である。
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