国家のお仕事-7-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
時間は少し遡って、場所は地球側、横浜市の東戸塚駅近くにあるマンションの一室。
「この部屋は我が社の社宅という事になっている。滞在中は自由に使ってくれ」
男は「人形遣いのアイザック」を滞在用に使うマンションに案内した。
他人に変装をして、空路では無く韓国からの高速船経由で日本にやってきたアイザックは、一旦福岡支店の社宅に滞在してもらい、今日になってようやく横浜に到着した。
横浜の中心地区からまあまあ離れた、交通の便も悪くない場所。社宅というのは本当ではあるけれど、使わせるのは主に金星の虜の協力者や、実働部隊の教官として雇った傭兵など。
部屋は3LDKの間取り。最低限の家具も揃えてあるから、滞在するには問題無い環境は揃えてある。
築20年少々のやや古めのマンションだけれど、ちゃんと入り口はオートロックなので、ある程度のセキュリティーもあったのが購入理由。
「それで例の4人を脱走させるわけだが、これが施設の見取り図と周辺地図だ」
男は施設データの入ったタブレットPCを渡した。
「よくこんなモノが手に入ったな」
周辺地図はともかく、日本国内で事件を起こした魔術師を収監しておく建物の詳細な地図には驚く。
表面上は企業をやっているけれど、大企業というわけではなく、組織的にはそれほど大きくは無いハズだが、よくこんなモノを手にいれたたものだとバルザックは感心する。
「魔工具を頼んでいる業者が手に入れて来た。人間を忍び込ませていたらしい」
「すごいな。これならどうにかなるだろう」
脱出後には会社の人間が例の4人を車で運ぶ事になっているので、アイザックの仕事は、その車まで誘導すること。
「決行はこの日時だ。それまではひとまず旅の疲れを癒やしてもらっていい」
「そうさせて貰うが、私の方でもこの設備の確認は行っておこう。当然だが、人形にやらせるのだがな」
「あまり無理をするなよ」
「ああ、深入りをするつもりはない。あくまで施設と周辺の確認だけだ。ところで訊きたいのだが」
「なんだ?」
「この辺りでいいラーメン屋を知らないか? 横浜は家系というジャンルの発祥なのだろう? 地元民のお勧めでいい」
「あ、ああ、それなら何軒か教えよう」
まあ初来日というし作戦上、横浜の土地勘は持って欲しいから、ここ2、3日は海外からの観光旅行者でも装っていて貰うとしよう。
* * *
お茶会を前にして、アンナマリーとリアーネも会場に入った。
それにしても両家の母親が見ても驚くほどに、今日の2人の仲は良好だ。
「子ネコが見たい」とアンナマリーは朝からファースタイン家の屋敷にやって来て、本当に子ネコと遊び、リアーネとネコ談義に花を咲かせていた。親猫は苦手そうにしていたけれど、そこはそこ。
リアーネの方も、折角だからとモートレル騎士団での出来事を楽しそうに聞いていた。
やっぱりアンナマリーが旧帝国残党による占領事件のど真ん中にいただけに、あれこれと知られていないような細かい話しをせがんだ。
何だかんだと、将軍を父に持つ人間として、自分には出来ないことをやっているアンナマリーの事は心配でもあり、羨ましくもある。
そして、まるでこの10年くらいの不仲な時間を取り戻すように、お互いの話しをしている。
「一度アンナさんの下宿に泊まりにいきたいわね」
「お父様も一度来ているし、ルビィ様やヒルダ様も時々来ているから、全然大丈夫だ。宿泊用の部屋はまあ私達の部屋に比べれば狭いが、不満は無いな。それに何といっても夜中以外はいつでも入れる温泉がある」
屋敷に比べれば建物も小さい。でも今なら雪でたっぷり遊べるし、体が冷えれば温泉でゆっくり暖まればいい。
リアーネも気になる黒ネコのアマツもいるし、何よりアリシアの手料理が食べられる。部屋は狭いと言うけれど、アンナマリーが受け入れられているなら、ちょっと非日常な空間を味わってみるのもいいかなと思う。
「入居者はちょっと癖があるが、悪い人じゃないし、結構気を使ってくれるんだ」
「そうなの?」
リアーネは日々、特に何かをやっているわけでもないので、アンナマリーのお休みに合わせて宿泊してもいいかなと思っている。
そして会場にはボチボチと人が集まり始めていて、給仕役の手でお茶が煎れられ、とりあえずの焼き菓子が厨房から運ばれてきて、テーブルの上では準備が進んでいる。
席については、子供といっては何だけれど、未婚の若い人間と、婦人である大人は席が分けられていて、もう既に、一番年齢の低い王女が座っている。
これは王家の人間として、将来に向けた勉強の機会。
「「王女様、ご機嫌麗しく」」
王女の年齢はまだ一桁代で、この会最年少。それでも2人とも、生まれた時から知っている顔見知りだ。将軍の娘という事もあって、比較的顔を合わせる機会も多く、姉のいない王女にとっては親しくして貰っている。
王妃から離れた場所にいて何をすればいいのか解らないという顔をしていた王女は、馴染みのある年上の知り合いが来て、ホッとした顔をした。それにアンナマリーには色々と聞きたいことがあるから話も弾むんじゃないかなと思った。
「大人の方は大人の話がありますから、私達子供は私達のお話をしましょう」
「姫様、お茶会ですからね。難しい話は無しですよ」
「うん」
ただしアンナマリーはお菓子についての説明が求められそうなので、大人にも近い席についた。
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