国家のお仕事-2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「カタラーナ!」
王妃の分も作る、という約束をエレオノーラが取り付けて、城内の厨房を借りて、アリシアはカタラーナを作った。というか作らされた。
いくらお嬢ちゃんが住民とは言え、ランセルのところばかり優遇するのは狡いのではないのかとまた言われてこれだ。
それでちゃんと女性騎士14名も連れて、会議室を一つ借りておやつタイムが始まった。
勿論護衛任務を前にした練習をやってくれというのは本当の話だけれど、デザートを作って貰うのも目的としてあったようだ。
プリンのようでそうでないデザート、カタラーナ。
元々はプリンの失敗作とも聞くけれど、濃厚なカスタードクリームとちょっと焦がしたカラメルのパリパリした食感の組み合わせに、全員が舌鼓を打っている。
以前に置いていった冷蔵箱は厨房にあるけれど、それだと焼いてから冷やすのに時間がかかるので、弱い冷凍魔法で冷やして、仕上げのカラメルも同じようにバーナー代わりに火魔法で焦がしたので、さすがに厨房のロビン達では真似出来ない、手抜き調理法で作り上げた。
急に作れと言われたのでさすがに厨房に教える時間も無かった。
「アンナマリーお嬢ちゃんはこんなものを毎日食べているとか?」
「いえ、さすがにそれはないですが」
そんな話をいったい誰から聞いたのだろうか。やどりぎ館は金持ち専用の下宿ではないのに。
「アリシア様の話はルビィ様の物語を読んでいるのですが、料理はすごかったのでしょうね」
ラシーン大陸初となる、美味しいカタラーナを食べる事が出来て、女性騎士もあの冒険していた2年間は何を食べていたのか興味が湧いてきた。
「食事はまあいろいろやってたけど、さすがにデザート系は、果物を凍らせたり冷やしたりくらいしかやってないですよ」
「アリシア様の実家で最近そういうデザートが出てくると聞きますよ」
「義姉さんが学院出身の魔術師なので、作り方を教えたんですよ」
「とにかくアリシア、異世界で得た技術をリバヒルにしかと見せつけるのですよ」
「母様、とても美味しいです」
王子2人と王女もやってきて、結構な人数でカタラーナを食べている。マーロン王は外で視察のお仕事だそうだ。
「今回はボクが直接作ったわけですが、ここはお城の中なんですから、警戒とかそういうのはないんですか?」
「言いたいことは解りますよ。ですが貴方は食べ物で人を殺すような人間ではありません」
「それはどうも」
毒殺とかそういう話。
美味しく食べて貰う事を第一に考えている人間が、食べ物に毒を入れるわけが無い、と王妃様は、それほど長い付き合いがあるわけではないけれど、そう思っているようだ。
アリシアの方は、王家の人間が食べる料理について、やっぱり部外者は警戒するだろうと思ってこれまでロビン達に作って貰っていたけれど、信頼してくれているなら、お茶会用のデザート類にも堂々と手を出してもいいだろう。
当日はロビン達は晩餐の準備があって、手慣れているアリシアがやらないと間に合わないし。
「しかし、そろそろ貴方の物になるはずだった農園で栽培する作物を決めなければなりません。希望の物は決まりましたか?」
「ええと、お茶と芋を作りたいんですが。聞いている場所ならお茶も気候的にも具合がいいかと」
「そんな作物でいいのですか? 他の所でも作っていませんか?」
「カレーとかシチューとかフライドポテトとか、他にも芋を使った料理を持って来たいんですよね。それと、今は紅茶として飲んでいるお茶ですけど、緑茶としての飲み方も提案したいんですよね」
「緑茶とは?」
「試しに飲んでみます?」
アシルステラの茶葉を緑茶とした分は、少しずつヒルダを始め、何人かに飲んで貰っているので、日本で売られている緑茶と同じように作れることは確定している。
持って来た茶葉は、元々はヒルダが管理している茶畑から分けて貰って、アリシアが加工したものだ。時期的に新茶でもなんでもない時期の茶葉だけれど、日本だって季節に分けて出荷している事もあるのだから問題は無い。
急須が無いのでティーポットを貸して貰って、国王にも意見出来る女性2人を含めて、試しに飲んで貰う事になった。
「色が慣れないと抵抗がありそうなんですが、茶葉を摘み取って発酵をしないようにすぐに加熱加工した、緑茶という物です。だから緑色のままなんです」
澄んだ緑色。抹茶のようにどろっとしたような濃い緑色では無いけれど、通常は赤みがかかった茶色であるお茶とはイメージが違う。初見ではなんだか雑草を煮込んだようでもある。
「こちらの人間で誰が飲みました?」
「ヒルダとルビィと、向こうの世界の茶葉ではアンナマリーとランセル将軍です。アンナマリーは館に常備しているので、食後とかによく飲んでますし、ランセル将軍も宿泊した時に気に入ってました」
あら、結構な身分の人間が飲んでいるのねと安心して、王妃はまず香りを確認した。
紅茶とは違う、どこかフレッシュな、そして落ち着く香りだ。
液体の緑色から連想されるような、庭園や草原の葉っぱの匂いとは違う。飲めると解る柔らかな香り。
「砂糖やミルクは入れないのですね」
「紅茶は渋みが強いですが、緑茶はどこかしら甘みを感じるので、何も入れないです」
「あら、なかなか」
エレオノーラも香りを嗅いでみるが色の割に、ザ・草、という香りはしないことに驚いている。ハーブティー的な落ち着く香り。でもそこまで主張はしてこない。
これは大丈夫そうだと、王妃は一口分を口に含んだ。
「なるほど」
飲んだ感じえぐ味は無く、口当たりもさっぱりとしている。
「味だけじゃなくて、薬じゃ無いんですけど、茶葉が本来持っている殺菌作用が残されていて、食中毒の予防効果が期待出来るので、そこもいいかなと思ってます」
「このお茶にそんなものが」
「向こうの国では生魚を食べる料理があるのですが、食中毒を防ぐための知恵として一緒に出すのが昔からのルールみたいになってますしね」
刺身とかお寿司である。
「それと、春先を皮切りに摘み取る時期によって味が微妙に変わっていくので、季節によってそういう違いも楽しめます」
「このような飲み方があったのですね」
多分昔の人が上手く加工が出来なくて、ただ渋いだけの緑色の飲み物になってしまったから、熟成させて飲んだ、のかもしれない。
地球だと、遠い他国から運搬している内に紅茶に熟成したとかいう話だったっけ。
「抹茶とかほうじ茶とかウーロン茶とか、また別の飲み方もあるのですが、今はとりあえずこの形の緑茶を提案したいです」
高価な砂糖を使わないので、庶民への普及ハードルも低いはず。
「良いのではないでしょうか。マーロンにもその意図は伝えておきましょう。また後日、紹介しては?」
王妃達は緑茶を受け入れたようで、カップについだ分は全て飲み干してくれた。
それにここにいる女性騎士達は全員、大小ありながらも何らかの貴族の家の子達なので、家に帰れば家族に伝えるのだろうから、「飲んでみようではないか」という希望者がいれば飲んでもらって、国内に広げられたらと思う。
とはいえ実際に糖分は含まれていないから本物の甘みは無いので、さすがにまだまだお子様である王子と王女はあんまり美味しそうにはしていなかったけれど、大人向けならいけそうな気がする。
国内に普及するには時間はかかるだろうけれど。
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