国家のお仕事-1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「全然冬休みって気がしないなあ」
日常的にやどりぎ館の管理があるので、世の中の学生達のようにのんびりという事はないけれど、それにしてもこの冬はイベントが連続している。
去年のこの頃はまだ純凪さん達がいたからやどりぎ館の仕事はサポートだったり、冬休み中は早藤と中瀬の受験勉強に付き合ったりはあったけれど、頻繁に他の世界に行くような事も無く、静かな休み期間だった。
それが、やっぱりアシルステラに復帰したのが大きくて、しょっちゅうラスタルに行っている気がする。
「客人ってそんなに関係してるのかな?」
帝国が滅んでからは、周りは同盟国。まあ同盟国とはいっても他国なので…。
そういえばそろそろハルキスが部族内の当番で、ラスタルでの勤務になる頃だった気がする。
ハルキス達は国の中枢都市を守るエリート集団である近衛騎士団とは違って、王都周辺の魔物や魔獣の狩りを担当する。それとは別に、武闘派集団として騎士団への育成に協力する役割もある。
そうなったら榊とのやり合いはどうするんだろうか。
でもまあ王都の騎士達の育成を手伝えっていっても、ハルキスにとっては弱すぎて手加減することにストレスがたまるだろうから、その辺を解消するためにやって来そうだ。
榊はその辺の気持ちが理解出来るだろうし、付き合ってくれることだろう。
それはともかく、アリシアはお城に入っていくと、案内された場所には14名の女性騎士と、この人は知っている、3人目の将軍の奥さんが待っていた。
この奥さんも若い頃は、時折攻めてくる帝国兵をバッタバッタと切り伏せてと、アリシアが生まれる前に大活躍をした元女性騎士で、将軍の奥さんながらも当時の功績を由来とする子爵の地位を持つご婦人だ。
年齢はもう50代となり、さすがに今はもう部下を率いて戦うような立場ではないけれど、これまでの経験と人望を買われて女性騎士団の相談役に就いている人。
そのエレオノーラ子爵といえば、立ち位置的にはヒルダの先輩にあたるような、女性騎士憧れの存在の一人だ。
「アリシア子爵、よくぞ来ました。リバヒルからの客人を守るこの14名の特別研修を行って貰います」
「ボクは男ですけどいいんですか? ヒルダの方がいいのでは?」
「何を言いますか。今劇場でやっている例の話のみでなく、ザクスンのプリシラ王女を見事守り切ったことをお忘れですか?」
「いやまあ、それであればいいです」
今日のアリシアは剣士として来ているので、まあ剣術を教えればいいのだろう。
実際にアンナマリーのいるオリビアの小隊への対応もしているのをランセル将軍から聞いているそうだし、間違いで呼び出したわけではないのだろう。
「それで何を教えればいいんです?」
「やはり剣術です。貴方のお仲間への悪口のように聞こえたら悪いのですが、どうもヒルダさんとハルキスさんは乱暴というか、ちょっと行き過ぎという感じがするのです。ライアさんは芸術都市ベルメーンに行ってしまいましたし、貴方の剣は強弱が上手いですから、適任でしょう」
さすが相談役、ちゃんと人を見ているようで。
ここは一つ、強い人間と手合わせをさせたいというのがエレオノーラの考えだ。
今名前が出たとおり、女性であり、サーベル使いのライアが最も適任なのだけれど、残念ながら現在はこの国には住んでいないから頼むことが出来ない。
「ランセル将軍からの又聞きですが、アンナマリーお嬢ちゃんも信用しているようじゃないですか」
「そうですか、それであればよろしくお願いします」
やっぱり最近まで平民だったからラスタルの騎士団となればちょっと構えてしまうけれど、将軍の奥さんにこうまで言ってくれれば大丈夫だろう。
集まった14人、一人一人それぞれの紹介を終えてから、訓練所に移動した。
* * *
今回護衛任務にあたる女性騎士達の受け持っている仕事は、日常的には女性専門ではないけれど、要人の警護。
例えば王族関係者がセネルムントに行くような事があれば着いて行くといった任務。貴族がご一緒するのであればそれも含めての護衛。
そして今回のように他国からの客人に女性がいれば、専門的に担当するという。
勿論先方さんも護衛を連れてくるだろうけれど、向こうは密着型で、こっちはやや離れての任務を行う。
武器は基本的には小回りのきくショートソードやサーベルといった軽量気味な剣か、小型の槍のスピア、それとラスタルから外出する際はショートボウを持つこともある。
確かにバスタードソードのヒルダやハルバードのハルキスでは、訓練という目的では相性が悪い。
なのでアリシアは霞沙羅に作って貰った練習用のロングソードでもって、3、4人を一組として、相手をしてあげた。
「ちゃんと連携が取れてますねー」
「チームでの活動を厳守しているんですよ」
仕事の時は距離を保ち、護衛対象を中心にある程度までしか離れることはないことを徹底しているとか。
今日は護衛対象はいないけれど、自分達の決めた距離感でフォーメーションを守っていた。
「さ、さすがに強いです。アリシア様の剣の腕前を見たのははじめてですが」
動きがちゃんとしてるとはいってもアリシアが手こずるような相手ではない。
ちょっと意地悪をして、一人を跳ね飛ばしてフォーメーションを崩してみたり、投げて転ばせてみたり、楯の上から蹴って吹っ飛ばしてみたりと、「練習」にならないように実戦的な敵役を演じた。
暗殺となると真正面から真面目に騎士道を貫くようなのが相手なわけはないから、冒険者的なアウトローな動きの方が経験になると思う。アンナマリーもそうだけど、14人はお嬢様だからかちょっと戦い方もお上品すぎだ。
「意外と教えるのに慣れているのですね」
練習が終わり、エレオノーラ子爵が話しかけてきた。
「あの、管理している下宿の住民に軍の、霞沙羅さんていう軍人の人がいるので、その人が管理してる部隊の相手をしたりしてるんですよ」
「王からあの指輪を賜ったという女性ですね。女性達からも話題になっているのですが、彼女は剣も使えるのですか」
「鍛冶屋だから剣は使えますけど得意なのは、長刀っていう、切り払いをする槍みたいな武器で、ボクよりちょっと強いくらいの人です」
銃火器については当然割愛した。
「中々堂々とした性格のようですし、私も若ければ剣を交えたい人ですね」
まあ格好いいから。
「それと貴方はアンナマリーお嬢ちゃんに魔術を教えていると聞いていますが、参考までに、どういう考えによるものです?」
「そこまで本格的に使うようには教えてませんよ。危険の探知、牽制、簡単な魔術への対抗というところですね。全員じゃなくていいんで、騎士団のチームの中で1人くらいはいてもいいかと」
まあ実際は魔法騎士と呼ばれたアリシアに憧れて、下準備をしていたからでもあるのだけれど。
「私も魔術には疎いですから。今日ではなく、またの機会にでも、貴方が薦める魔術があれば希望者に教える事は出来ますか?」
将軍の奥さんだというのに、この前やっと子爵になったばかりで、平民育ちのアリシアにもリスペクトを感じてくれている。
現役当時は性格的には乱暴な旦那さんとはバチバチのライバル関係だったというくらいの性格だったのに、真面目に強さを求めて騎士をやって来たんだなー、と。そして裏方になった今は国のために後進を真面目に育てている、そんな印象を抱いた。これぞ貴族、そんな感じ。
「最低限の知識が無いとダメですけど。あと、神聖魔法なら、騎士団の何人かに一人くらいは使えそうなんですけどね」
「誰か、神聖魔法の基礎知識がある者は?」
エレオノーラの呼びかけに、2人だけがおずおずと手を挙げた。
「じゃあ神聖魔法にしましょう。あ、ボクはオリエンス教ですけど何教でも対応しますので」
「異世界ながら軍での教育経験もあるというのが面白いですのね。それではまた期待させて貰いましょう。ところで我が夫も知っての通りこの国の将軍なのですが…」
エレオノーラが頼み事をしてきた。
読んで頂きありがとうございます。
評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので
よろしくお願いします。