お祝いとさよならと-4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「おお、ユウト君、優勝おめでとう」
「いや、何というか、お二人には色々とお世話になりました」
いい話という事もあって、向こうでの予定を変更して純凪さん親子がやって来た。予めユウトの事は伝えてあるので、会うなり大会優勝についての話になった。
ついてきたエナホ君は、早速子ネコに興味津々だ。親ネコは勿論顔見知りなので、久しぶりの再開に双方喜んでいた。
ユウトは一度目は入賞どころか…、という結果だったけれど、あれから3年間以上、この館に関係した多くの人達の協力を得て、鍛錬に鍛錬を重ねた結果、得た名誉だ。
管理人としての付き合いは3年も無かったけれど、その頑張りを見ているから、モガミもアリサも出した結果に感無量だ。
「そうか、遂にこの館を出て行くのか」
「名残惜しいですが士官も決まりましたし、これからは道場と国の二つの仕事に就きますから」
「とにかく良かった。今後は君も忙しくなるだろうから、なかなか会う機会は無くなってしまうが、またいつか拳をあわせよう」
「今日でお別れみたいな事を言っているけど、まだ祝勝会があるのよ」
「ははは、そうだったな」
挨拶を終えると、霞沙羅の車で早速小樽魔術大学へと向かった。
あれから伽里奈が解析した、シールの付属データ部分を反映させたゴーレムの動きを確かめて貰う。
ついでに大学で作っている結界装置の確認もしたいので、レポートを全て提出し終えたシャーロットもついてきている。
「千年世ちゃんも来るのよね?」
アリサさんはとても珍しい、吉祥院を「千年世」と呼ぶ人物だ。
やっぱり年上というのもあるし、ヤマノワタイの魔術を教えて貰ったり、やどりぎ館に来ると色々と世話をしてくれていたので、さすがの吉祥院もやめて欲しい、とは言いにくくてそのままにしている。
その吉祥院は本人の転移魔法で大学に直接来るので、向こうで待っているはずだ。
「10年以上住んでいた町だが、雪がすごいよな」
「北海道の中ではそこそこ程度なんですけどねー」
やどりぎ館から大学までは小樽の市街地を通るわけで、道路の除雪もされているから、ちょっと郊外のような素人では道の位置が解らないような事は無い。
一月になって更に雪が深くなったけれど、やどりぎ館に住む分には、生活にはそれほど影響は無い。
ただ、今モガミ達が住んでいるところは年に数回雪が降る程度だから、気温も全然違う。ヤマノワタイに生活を戻してからもう少しで1年だけれど、改めて見るとすごいところに住んでいたのだなと思ってしまう。
「またスキーがしたいわね」
「スキー場でスノーパークが営業開始されたからエナホ君も遊べるようになりましたよ」
「そうか、日帰りでもいいからまた来るか」
短い乗車時間を経て大学に着くと、吉祥院がもう転移してきて、待っていた。
「お久しぶりでありんす」
「ウチの人間が相変わらず迷惑かけているらしいな」
「実行犯ではないので、何とも言えないでありんすが、どうにか迷惑行為を止めてほしいでやんす」
「水瀬家といってもここまで一方的に悪意のある側に着く家ではないのよ」
カナタが向こうの協会へ提出したレポートの数々は、魔術師達に危機感を覚えさせるような物ではない。
結構実用的な技術もあるし、魔工具と魔装具についても、本家とは別に軍や警察や個人エージェントでも依頼をする事もあり、何の事故も無く評判は上々だ。
モガミとアリサの2人が英雄と呼ばれる事になった大きな戦いでも、まだ10歳くらいであったカナタの考案した魔装具が活躍したほどだ。
勿論犯罪を行うような人間も持っている場合があるけれど、水瀬家が何か事件を起こすようなことは無い。
ただモノを作る。その副産物としてレポートを提出する。それだけ
「家の周囲をうろついて、何となく、プレッシャーを与えるしか無いんじゃねえのか?」
「どうやって世界を移動しているのか解らなければ、当面はそれしかないな」
「今回みたいに技術的な協力はするから、遠慮なく連絡してもらっていいのよ」
「そうさせて貰うよ」
アリサもヤマノワタイではこの人ありと言われる高位の魔術師だ。
「アリシア君が本気を出し始めてるから色々期待してるのよ」
そして優秀な研究者でもある。
「ウチの世界でも衰退したゴーレムを見せて貰うわ」
「そうですか…」
まずはゴーレムの動きをモガミに見て貰うために、雪に埋もれた野外演習所にやって来た。
演習所は中学、高校、大学で兼用だったりする。
「うわー、一面の雪原ね」
11月まで使っていた演習所も、今はもう教師や教授達が実験で使っている程度。そして今は冬季休暇中なので、誰も使っていなくて、一面の綺麗な雪原となっている。
「授業で使わなくなるの解るわ」
演習所の一部は教員の歩行のために除雪機で雪がどかされているけれど、それ以外の場所は体が胸くらいまで埋まってしまいそうなほど深く雪が積もっている。
小樽は豪雪地帯では無いけれど、降った雪を放っておけばこんな感じに雪がたまってしまうのだ。シャーロットでも授業で使わなくなるのも解る。
「三学期になると横浜と神戸から学生達が合宿で来るんだけどねー」
演習所エリアの横にあるのは、小樽校生徒が使わない宿泊所の建物。合宿で来た生徒はここで宿泊して、北海道の冬を体験する授業を行う。
「雪を楽しみに来た奴らは、スキー場をイメージしてくるからな。固められていない雪原ってのは移動するのも苦労するんだぜ。雪原を歩いて道を作ったはずなのに、雪が降れば翌朝には何も無くなってて驚くんだよな」
「じゃあアリシア君は早速ゴーレムを作ってね」
「はーい」
有り余るほどの雪を使って、アリシアはスノーゴーレムを作成した。その姿は体の動きが解りやすいように、胴着を着た男の姿をしている。
「アリシア君はゴーレムに慣れているでやんすな」
「村の自警団のダミーを作ったりしてますからねえ」
「ゴーレムの概念が変わりそうね」
折角なのでアリサさんにはゴーレム製作の指南書を渡してある。アリサはそれを片手に、今アリシアが使用した魔術基盤をしっかり画像として残し、家に帰って研究するつもりだ。
「アリシア君が軍の演習で面白いゴーレムを披露したと、その筋から聞いたでござるよ」
「幻想獣を再現させたんだよ。今こいつに作り方と運用方法を纏めさせているからちょっと待ってろ」
もう高校と大学ではゴーレムが実用化されようとは吉祥院は知らない。それとは別に、春からは各授業に補完用の追加テキストが用意されているし、横浜校から予算を奪うための作戦は着々と進んでいる。
「そっちの世界はなんでゴーレムが無いんです?」
「霞沙羅君のいるここよりも文明が進んでいるからな。オートマタも普通にあるし、四肢欠損もサイボーグ技術で元と変わらないくらいに補える」
「ゴーレムは魔術師しか管理出来ないし、正直オートマタは安い自動車くらいの値段で買えるのよ。医療と介護と農業の分野では当たり前のように導入されているの」
「SFの世界だな」
ロボットも普通に買えるというなら制御AIがどうなっているのか気になるけれど、逆に機械は魔法には無力だろうから、その辺は抑えているのだろう。
「じゃあ行きますねー」
剣を持ったゴーレムが、いつの間にか作られた幻想獣クマ型のゴーレムと闘い始めた。
「おー、早速の幻想獣型じゃん。アリシア君はすごいっぺ」
「ゴーレムってこんなに滑らかに動くのね」
魔術師専門家の2名はゴーレムに釘付け。確かに格闘技センスの無いこの2人に、この人間の動きは誰? とか全く興味は無い。
とにかく、ゴーレムというともうちょっとカクカクして、動きも遅いはずなのだが、両方ともまるで生命体のように動く。
「ほう、なるほど、あの構え、あの剣捌き、動きの癖。アリシア君が知るはずも無い人間の動きだな」
「モガミさんが知ってる人間の動きですか?」
「ああ、もうとっくに現役を引退しているが、国では有名な剣豪の動きだよ。オレも若い頃に何度か相手をして貰った事がある。水瀬カナタは彼の動きをここまで知っているのか…」
シールに書き込まれていた人間のデータは、ヤマノワタイの高名な人間のデータであると、現地のモガミから断定された。
「私も、最高級クラスの武器を作る際は、持つ人間の技を研究するが…」
霞沙羅としても、伽里奈にゴーレムのパラメーターの設定方法を教えて貰ったとして、ここまでの動きを再現出来るかというと今は無理だ。
「こんな動きを一般の人間が再現出来るようになるのでありんすか?」
シールの魔術回路は身体強化の要素はそこまで無いので、その辺にいる一般市民の体では三十秒も保たないで肉体的負荷に耐えられずに卒倒するだろう。
それなりに鍛錬をした人間でも、どの程度保つのだろうか。
「実物にはストッパーがついてるんですよ、小さく書いてますけど。作った本人もその辺は危惧してるみたいですねー」
「じゃあシールではここまでは動かないのか?」
「そうですよ。ストッパーつけちゃうとモガミさんが解らなくなると思ったので」
「お前なあ…」
まあそれでもある程度のトレーニングを積んでいれば、高名な剣士の経験を自分の物と出来るのは大きい。
「これを使った事件は終わったんだろう?」
「寺院庁が隠していた幻想獣の奪い合いが起きてな。とある金星の虜集団はほぼ処分したんだが」
「魔工具の中では量産も効くようでげすから、今後も使われると睨んでいるでがんす」
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