お祝いとさよならと-3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
実験の結論としては、調理盤でもって高温の調理をしても火事の心配は無かった。
天ぷらも串カツも危なげなく揚がったし、魚介の鍋もちゃんと出来上がった。
調理中に調理盤は温度を一定に保つ機能を持っている事も皆よく解ったので、ロビンも長い時間がかかる煮込み料理を作るためにも厨房用にこれを設置して欲しいと、マーロンに進言していた。
調理しているところしか見ていないマーロンも、その前からタウ達が安全を確認しているから、調理盤を飛行船の台所に乗せることも決定してくれた。
勿論、普通に海の上を行く帆船にも乗せる予定になった。その場合は鍋が転ばないように揺れを考慮した別の装備が必要になるけれど。
「船内でちゃんとした温かい料理が食べられるのはいい事だな」
飛行船で国内を巡回する際にも、いつでも温かいお茶が飲めるし、道中が短くてもちょっとした軽食も作る事が出来る。
今後は他国に会談に赴くこともあるだろうから、移動中の食事も、冷蔵箱と冷凍箱もあるから新鮮な食材を鮮度を保ったまま持って行ける。
その船の安全な航行を支える魔獣の探知装置も、実物をもってタウの報告を受けた。やや癖があるけれど、今までにない機能を持っているようだし、パスカール領では既に数台が実稼働しているというから、急いで作らせなければならない。
どれもこれも小さな魔工具ではあるけれど、それ故に持ち運びが簡単で実用性は高い。
小さいこともあって制作費を考えても、国家予算へ大きな影響は無い。
それに貴族達にもプレゼンをして希望者に販売すれば元が取れるだろうし。
料理については、天ぷらはシンプルながら美味しいし、最近は定期的にブルックスからの魚介運搬が始まったから、この先も食べる事が出来るだろう。野菜でもなかなかいける。
鍋料理の方はコストダウンしたものを騎士団用のスープとして出してもいいかもしれない。
「ふむ、これならばリバヒルからの大使をこれ以上無い程に迎えることが出来るだろう」
ライアのところにもアリシアの料理が行ってしまっているようだけれど、それは極々一部。まだまだ全然自慢出来る。
何よりアリシアが作る料理は見た目も、この国にはそれほど無かった、味だけでなく目を楽しませる外見も持っている。リバヒルからの客人達もさぞ驚くだろう。
「ワッフルが美味しいナ」
ルビィが食べているけれど、網の目のような形も面白い。
「これにアイスを乗せてもいいよ」
「熱で溶けないカ?」
「それがいいんだよ」
焼いたばかりの温かいワッフルと溶けていく冷たいアイスクリーム。わざわざ凍らせたアイスクリームをあえて溶かしながら食べるとは、想像するだけでも贅沢すぎる行為だ。
「アンナマリー嬢がうらやましいゾ」
「まったくあの娘は」
* * *
大成功な実験が終わって、今後のことを考えるためにタウ達は帰っていき、続いてリバヒルからの客人に振る舞う料理の会議となった。
これには王と王妃も参加した。
「ワッフルは出しましょう」
王妃は焼きたてのワッフルをもぐもぐ食べながらそう言った。
「それはいいんですけど」
「アリシア君には一日目の晩餐をお願いしたいのだが、出来たらこれまで厨房に伝えられた料理とは違うものを希望したい。二日目の夕飯は我々だけで作る事になるのだから」
勿論、元々存在する宮廷料理も出すけれど、それとは別に、アリシアからもたらされた料理を出す。
「この王都ラスタルでも魚介が食べられるようになったという事を示したい。先程の天ぷらという揚げ物が是非やりたい」
油で揚げてはいるけれど、元々の魚介類は加工品の干物ではダメで、素材の鮮度が重要な料理。
「あれの出し方なんですけど」
ここでアリシアは提案した。
出来るなら揚げたてを食べて欲しい。厨房で揚げてお皿に盛って運んでいっては、時間が経って衣がちょっとしんなりしてしまう。
だから、専門店のように、晩餐会場で、調理盤を持ち込んですぐ側で揚げて、出席者に揚げたてを食べて貰う。
「それはいい考えだ。私は今揚げたてしか食べていないので何とも言えないが、アリシアが言うのであればそうなのだと信じよう」
早速調理盤の出番がやって来た。
なるほど、火が出ないから建物内にある晩餐会場で料理をすることも出来るのかとロビンも頭の中で、色々と良さそうな料理を想像した。
続いて、アリシアは記録盤を使ってどういう料理がいいかをプレゼンした。
「料理は、こういうのも出したいのと…、お米って手に入ります?」
「お前が持って来たパエリアを二日目にやるので、調達しているぞ」
ロビンは以前にアリシアが言っていた大きなフライパンまで鍛冶屋に作らせて用意してある。
「あのー、カレーがやりたいんです」
「セネルムントのあれか。カレーは一日目にやればいいのではないか?」
カレーと聞いてランセルは口を開いた。
「お前がわざわざ口にしたというのなら、館で食べたあれをやる気なのだな?」
「ええ、材料は見つけていますので。煮込みに調理盤が使えますからね」
「うむ、あれはいいものだ。そうか、とうとう…」
アリシアの返答にランセルはしみじみ言った。たった一度しか食べていないけれど、ランセルの心を今も離すことはない。
「ランセルよ、お前の言うカレーはそんなにいいものか?」
マーロンも以前にセネルムントに出向いた時にカレーを食べている。確かに今までにない美味しい食べ物であった。巡礼者によって各地にその噂が広まってはいるけれど、今回のような他国からの客人を招いての晩餐に出すものではない気がする。だがあのランセルは、いいもの、だと言う。
「それはもう、ビーフシチューとどちらを食べたいかと言われれば迷うほどに。以前アリシアの館に行った時に、我が娘が勧めてきた意味が解るモノでありました」
ランセルほどの男がしみじみと言うのであれば、ああこれは自分が見たカレーとは違う食べ物なのだな、とマーロンも察した。
そうであれば反対する理由は無い。
「お前が言うのであれば、そうなのだろう。ではカレーを作るがいい」
「パエリアは、お昼ご飯に出して貰えません?」
「お、おお、アリシア君がそう言うのであれば、ランセル将軍も認めるというカレーが気になる。予定を変えて是非カレーを作ろう」
「晩餐ですからね、こういう感じで出しましょう」
アリシアは洋食屋のコース料理の写真を見せた。カレーはその内の一品という形。
たしかに画像のカレーは、セネルムントのカレーとは雰囲気が大きく違う。
スープに近くてナンと食べるのではなく、ビーフシチューのような濃厚な色のカレーで、それがライスの上にかけられている。
あれこんなに違うの? とマーロンだけでなく、王妃も目が釘付けになっている。
「いいじゃないか。だが二日目の話ではないか。お前はいないだろう?」
「一日目に作っていくので、シチューと同じで一晩面倒を見て貰えませんか?」
「なるほど、解った。やろうじゃないか」
「あのカレーが遂にこの世界に来るのか」
娘も同じような台詞を言ったことがあったけれど、パパさんも同じようにしみじみ言った。
これが成功すれば…、いやアリシアだから出来る事を確認しているのだろう。やっとあのカレーが日常的に食べる事が出来るようになる。
庶民には悪いけれど、自宅でお腹いっぱい食べたい。そうなると領地でお米の生産を増やしたい。
「ところでアーちゃん、クラウディアは今回の訪問では来れないそうだゾ」
「え、来れないの? 霞沙羅先生にも紹介したかったのに」
「学院同士で連絡を取り合っているのだが、予定していた付き人がおめでたで来られなくなって、代わりのが見つかったのだが、ちょっと色々と教える事があるそうなのダ。だから学院に来るのもちょっと遅くなると言っていタ」
そういう事なら仕方がない。クラウディアにも色々と食べて貰いたかったけれど、まあ結局はフラム王国にしばらく滞在するのだから、機会は色々とあるだろう。
「なぜカサラ殿なのだ?」
ランセルも、エルフにはあまりいい思い出がない。
「エルフに会いたいみたいなんですけど」
「なぜかレミリアを気に入ってしまっテ」
「クラウディアは社交的でいいエルフじゃないですか」
「カサラ殿はキール君のところのレミリアを気に入っているのか?」
マーロンも二人のことを知っているけれど、よくいるタイプの美意識を拗らせたエルフであるレミリアはあまり得意ではない。
それに比べてクラウディアは何度か学院に来ているので、その性格は解っていて、今回の滞在も歓迎している。
「珍しい…」
「そういえばカサラ殿があのガーディアンを的確にバラバラにしてくれたので、学院での研究が捗っているようだな」
「あの熱線装備を船の防御兵装として積めないか研究中でしたな」
え、あんなの積むの? と思ったけれど、飛行中に魔物に襲われることもあるから、追い払う装備は必要だ。
通常は、乗っている魔術師が魔法を放つのだけれど、空中戦をやるわけにもいかないから騎士の出番がない。なら、騎士は熱線の発射装置を操作すればいい。
それに魔術師の負担を減らすにはいい装置だ。
「いつかカサラ殿には我々の騎士団を見てもらい、意見を頂戴したいものだ」
話は逸れてしまったけれど、料理については決まった。
「その…、将軍からも聞いたがエリアス殿にも来て貰うことでいいのだな?」
マーロンもエリアスを一度見ているし、あの外見のエリアスが来てくれる事には期待している。
「丁度今、館の方ではアンナマリーお嬢様から宮中マナーを教わっているところです」
「確かにアンナマリーは子供の頃からこの城内に来ているからな」
二代連続で将軍職を出している家のお嬢様だ。そこからレクチャーを受けているのであれば大丈夫だろう。
練習中とは、エリアスもやる気があるようなので、それを聞いたマーロンも安心した。
「よし、リバヒルからの客人をしっかりもてなそうではないか」
これはいける、とマーロンは声をあげた。
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