このところの来客につき -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
本当に日本に来たのかどうかの事実は置いておいて、「人形遣いのアイザック」については警察案件の為に、今の所は軍人である霞沙羅や榊が動くことは出来ない。
それに今はそんな事を気にしている場合では無い。軍人としては日本全土に影響が予想される、金星の接近に備えなければならない。こちらは時期が来る度に軍の重要な仕事となる。
ただ、アイザックは宝物ハンターとして有名なので、軍とは別に大学に所属している霞沙羅と吉祥院は、それぞれが所属する大学の宝物庫のセキュリティーに気を配らなければならない。
相手の目的と目標が解らない以上、まだ何とも言えないけれど、関係各所はとにかく警戒を強めることとなった。
「まあボクは今の所裏方なんだけど」
アイザックはこれまで欧米を中心に動いているから、やどりぎ館の管理人として、イギリス名家のホールストン家のシャーロットに何かをしてくることには警戒しないとダメだけれど、今の所は金星絡みで軍の活動に協力をするという事はない。
また巻き込まれたら別だったり、あとは学校が始まったら警備の部門から何らかの依頼が来るかもしれない。
「小樽にいる間のシャーロットは私も見ておくわよ」
「うん、ありがとうね」
「ありがとう、じゃないでしょ。任せた、よ」
同じ管理人なんだから、アリシアの仕事はエリアスの仕事でもある。
…家事はちょっとあれだけれど、住民の安全確保にかけては間違いなくエリアスの方が上だ。
人間社会の中であんまり女神の力を使わせたくないアリシアの心遣いは好きだけれど、住民の命に関わるのであれば別だ。
「あはは、そうだね、一緒にやろうねー」
「そうそう、それでいいのよ」
見るだけにしても本人のプライベートもあるから力加減がいるけれど、アシルステラでの女神の仕事に比べると圧倒的に対象者が少ないから楽だ。
それにアリシアには内緒で、女神の大先輩であるフィーネから力のセーブのやり方を勉強している最中だ。その成果を見せるいい機会でもある。
本人の居場所では人間の賢者として、人間に力と知恵をこっそり与えているというくらいに、フィーネの力の使い方は上手い。エリアスよりも上位に位置する彼女に出来るのなら、自分だって出来る。
そうすればアリシアの負担を減らすことが出来るだろう。
身長差はあるけれど、ぎゅっと腕を組んで、話をしながら二人はラスタルの町をある場所に向かって歩いている。
目的地にぴったり転移しないのは、こうやってちょっとイチャイチャする為。わざわざ到着位置をちょっとずらして、2人だけの時間を捻出している。
その目的地はマリナが所属している移動劇団が公演をしている劇場。
ようやく時間を取って、以前に約束したとおりに公演を見に来た。
評判の劇団なので、各地をぐるりと回って久しぶりにラスタルまで来たという事と住民達の要望もあって、長期滞在で三つの公演をしていくらしく、もうそろそろアリシアとご令嬢の話は終わり、次はまた別の内容になるそうだ。
「私はこの頃は特に見ていないのよね」
アリシアが冒険者1年目の時期には、まだエリアスは準備期間で、戦いのストーリー作りのために人間の国家を大雑把に見ていただけ。国家運営をしている貴族や地方領主など、そこにどういう人材がいるのかは見ていてたけれど、大局に影響の無いフリーランスの冒険者は除外をしていた。
それが魔女戦争を仕掛けた途端、突然王者の錫杖を奪いに来た時から、国家から外れた妙な集団がいる事に注視するようになった。
普通は、挨拶代わりに帝国を潰して宣戦布告した直後に、いきなり攻めてくるとは思わない。
しかも、人間に対してクエストの一つとして用意しておいた王者の錫杖奪還をあっさりとやってしまう6人のリーダーがどんな人間なのか気になっていた。
見ていなかった時の事は、全てが終わって落ち込んでいた時にアリシアからたっぷり話しを訊かせて貰っているけれど、それが演劇にまでなっているのだから、やっぱり英雄なんだなと納得する。
そのアリシアは、今日はゆるくセットしたシニヨンも似合っているし、黒のジャケットもシャツも短パンもニーソもブーツも似合っている。これなら「あ、アリシアが見に来てる!」と演劇の邪魔にはならない。
いきなり奪還しに来た時は女子だと思っていたけれど、見ていてすぐに男だと解って、驚いたモノだ。
でもかわいい男の子がいたっていい。
「劇団も上手くいってるみたいだし、マリナちゃんを救出出来て良かったー」
「でもあの事件では色々恥ずかしい事になっちゃったわね」
「あれはまあ、ほら、魔剣のせいだし」
アリシアをやらされたらアリシア本人とその仲間と、それなりに冒険者時代を知っている町の人達に囲まれてしまい、魔剣に操られていたとはいえ、マリナは公衆の面前で随分な恥をかいてしまった。
あの事件を演劇にする日は来るのだろうか? にっくき帝国の再興を打ち砕いた、国民を沸かせた物語は、ちょっと複雑すぎるので、どこまでやればいいのだろうか。
当事者の一人なんだからと、なんかルビィに執筆の依頼が来ていると、先日聞いた。
それはまあいずれ…。
話をしていると劇場が近づいてきた。
さすがにもう何日も公演しているので、並んでいる人の列は短くなっているだろうけれど、それでもガラガラというわけでは無い。
「モートレルでも大歓迎されてたけど、人気なのね」
「マリナちゃんのことで殴り合いの喧嘩をする人がいるくらいだからねー」
入り口の扉が開いて受付の人達が出てきた。そろそろ開場時間のようなので、二人は列に並ぶことにした。
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