次の事件の始まり -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
今日の夜ご飯は3種類のインドカレーセット。ナンとライスとタンドリーチキン、サラダ、それからマンゴーラッシーもついている。
「正月ってのはやたらとカレーが食いたくなるんだよな」
もう正月では無いけれど。
多分正月らしい食べ物は和風が多くてあっさりしていて、味と匂いが強い食べ物が恋しくなるからだろうか。でもやどりぎ館はそうでは無かった気がする。
「こういうカレーもいいわね。次にロイドとリィナが来た時はこれね」
伽里奈が手間を掛けて作るカレーは確かにいいけれど、どのカレーをナンにつけようかと悩みながら食べるこれはとても楽しい。
「なかなかワイルドな食卓になっているナ」
バターチキンカレー、キーマカレー、シュリンプカレーの3種類。ナンにはチーズナンもあって、全部が一つのお盆…、タールに纏められているので、賑やかでお祭りのような見た目になっている。
「うーむ、すごいな。これは店に来たようだな」
やどりぎ館に入居して、そろそろ一週間の榊も、これはこれで来て良かったと思っている。
今日はさすがに普通に勤務があったのでアシルステラには行っていないけれど、次の休日にはまた行く予定だ。
とても充実した日々に加えて、料理もしっかりしている。今の所お弁当は頼んでいないけれど、一回は試しに頼んでみようかと思っている。
「吉祥院もいい知り合いが出来たようじゃないか」
「専門家同士はやっぱりいいでござるよ」
まだ地球の魔術についての意見を求めることは出来ないけれど、ルビィは伽里奈から少しずつ勉強用のテキストを渡されているようなので、そう遠くない日に議論を交わせるようになるだろう。
それは自分が伽里奈にアシルステラの魔術を教えられたから解る。伽里奈はちゃんと基礎から魔術の学問を習得しているから、吉祥院と違ってゼロから教えるのは得意だ。
逆に伽里奈に日本の魔術を教えたのは多くが霞沙羅だ。
魔術師としては吉祥院とルビィの方が上でも、基礎がしっかりしていて、多くの人に教える事が出来る霞沙羅と伽里奈にはちょっと嫉妬していたりする。
その辺の悩みについては、ルビィと共有してみたい。
* * *
見た目も賑やかな夕食に満足して、ひとっ風呂あびた後は、霞沙羅、吉祥院。ルビィの3人で二人部屋に籠もってダンジョン生成魔法を含めた話しが始まった。
「ダンジョンって魔術で作るのね」
シャーロットもその話しを聞いて驚いた。そもそもダンジョンなんて大それた建物は物語の中にしか無いから、こっちの魔術に慣れたシャーロットはそんなモノを作るとは考えたことも無かった。
「ゴーレム作りをマスターしたら、ちょっと聞いてみようかな」
「ダンジョンを作る必要は無いけど、自宅に研究用の小部屋を作るとかに使えばいいんじゃないかな」
学院の地下室がまさにそれなので、そのくらいなら地球で作っても悪くない。
シャーロットとは、この後待っているディスカッションの予行練習をしている最中だ。
提出したレポートをお題として、大学の教授や協会の研究者を相手に、中には実技も含めて質問と説明や回答を行う。
実際に、シャーロットのレポートに手は貸しても、書き上げたのは彼女だし、ダメ出しをするような事も無いのは、しっかりとした知識と技術を持っていることを、霞沙羅も認めている。
だから今出来る勉強としては、回答することと説明すること。
基本的に優秀な魔術師だから、持っている知識をちゃんと現場で、自分の言葉でもって、相手に解るようにアウトプット出来るかが問われる。
それはシャーロットにとっては低いレベルのE組の子達の質問にも、伽里奈と一緒にしっかりと答えているから大丈夫だと思う。
後は慣れるという事。
「あーん、でも一週間も実家に帰るって、大丈夫かしら、ご飯」
「この前三日間帰ったときはラーメンとかレトルト品とか持って帰ってなかった?」
「さすがにその、毎食それって訳にもいかないから」
やっぱりこう、最初は物珍しさから家族みんなでおいしいおいしいと言って食べたけど、親が作る家庭の料理というものがあって、娘としてはそれを食べなければならない。悲しいことに…。
「試験が終わったらもっと料理を覚えないと」
「手伝ってくれるのは助かるけどねー」
インスタントじゃなくてちゃんとした料理を作るのなら親も文句を言えまい。簡単な材料で済むものでいいから、バリエーションは増やしていきたい。
「あら、パパからメールが…。伝えたいことがあるからビデオ通話しようって」
シャーロットのスマホにパパさんからメールが届いたので、返信して、早速PCを立ち上げた。
「何かしら? 試験のことだったりして」
「ボクも見てていいのかなー」
「ダメならダメって言ってくるでしょ」
伽里奈も横に座って。ソフトを立ち上げるとジェイダンが待っていた。
「ボクはいない方がいいですか?」
「いや、どちらかというと娘よりも君や新城大佐の方がいいのだが」
「ええー、何それ」
「シャーロットはホールストン家の人間としてこの事を知っておいて欲しいだけだ」
「じゃあ呼んできますよ」
霞沙羅が必要なら、残り2人の軍人もいた方がいいだろうと2人を連れてきた。
「榊殿と吉祥院殿もおられるとは丁度いい。政府と協会には後ほど正式に連絡が行くのだが、先に言っておかなければと思いましてな」
「すげーヤな予感がするんスけど」
何となく、霞沙羅と吉祥院はジェイダンが何を伝えようとしているのは予想出来る。当然シャーロットの試験の話では無い。
その話以外で、こんな急に連絡を入れてくるはずは無い
ジェイダンは一度目を閉じてからこう言った。
「すまないが我々は人形遣いのアイザックを取り逃した」
「そうですか」
先日、伽里奈に渡された手紙の中に書き記された人物の名前だ。
「それが解るというだけでも、そちらさんは彼に迫っていたという事でありんすな」
「あの者の研究施設まではたどり着いたのだが、既に出た後だった」
イギリスだけでなく欧米各地で色々な犯罪行為を続ける魔術師。主には人形を使った魔術を得意としている。
「アイザックはアジアの方に来た事が無いのでどの程度の魔術師か知らないダスが、どうやって国を出たかでやんすな。そちらの国もトンネルがあるとは言え島国だっぺ? 転移可能だったりするでありんすか?」
「何度か例があるのだが、人形を纏って化けることもある。転移も確認されているが、どこまで飛べるかは解っていない」
「人形遣いで化けるのか。面倒くせえ奴だな」
「行き先はって、日本の可能性がたかいのでありんすな?」
「そのようだ」
「まあ警察案件だな。私は軍に伝えておくが、榊は警察に知り合いが多かったな?」
榊は先日もそうだったけれど、ここ何年かで何度も研修をしている関係で、全国各地の警察に知り合いがいる。
「とりあえず神奈川には連絡をするか」
「ワタシは協会に連絡をしておくでありんす」
「こちらはこれから対策会議を行う、それから、アイザックの詳細も含めて日本には正式に連絡を入れよう」
「解りました」
ジェイダンは今口にした会議の時間もあるので、とりあえずの一報を伝えると通信を切ってしまった。
「とりあえずワタシは実家に行くでやんす。誘っておいてルビィ女史には悪いでありんすが」
さすがに魔術協会の理事でもある吉祥院は、これから対策を立てなければならない。
霞沙羅は所定の命令系統へ、榊は出来るだけ上にいる知り合いに連絡をする事になった。
「シャーロットは、とりあえず注意をしておいてね」
「ここしばらくは一人では出掛けないことだな。学校が無いのが救いだ」
ホールストン家のお嬢様が日本にいることを知っているのかは解らないけれど、イギリスの魔術協会を揺さぶるために狙われることもあるかもしれない。
今は試験対策であまり出掛けることはないけれど、コンビニとかに出掛けるときは、出来れば伽里奈にでもついてきて貰った方がいい。
この件は霞沙羅が言ったとおり、まだ警察案件ではあるけれど、ある程度は準備をしておいた方がいいかもしれない。
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