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金星の接近が始まる -4-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 数本だけ残された軍専用の橋で多摩川を渡り、元東京都へ上陸。その後は柵の中に入り、まずは浄化済みの安全エリアに足を踏み入れた。


「吉祥院中佐、これはすごいですね」


 連れてきた観測所所属の隊員達も、新しく出来上がった探知機に興味を示した。


「アリシア君が作った2代目探知機だわよ。かなりすごいんだべ」

「まあとにかくうろついてる3匹を潰しに行こうぜ。そのせいで浄化作業も止めてもらってるしな」


 寺院庁からやって来た浄化専門の人達には、幻想獣出現によって一旦作業をやめて、この安全エリアに撤退して貰っている。


 金星接近で浄化箇所が押し返されることは無いけれど、幻想獣出現による危険が増えるので、地球から遠のくまではしばらく作業が滞るだろう。


 そんな時にこのお手軽な探知機を彼らに支給出来れば現場の安全が確保出来る。


 この探知機とは別に、ドローンに乗せた旧式仕様の探知機も飛んでいき、より広範囲に探知が行われているけれど、今の所は3体だけしか出現していない。


「よし、行くぜ」


 境界にあるゲートが開いて、霞沙羅達が乗る装甲車が中に入っていく。幻想獣がいる現場はここから近いからささっと処理をして、浄化の続きをして貰おう。


「アリシア君がどれだけデータを入れてるかだねえ」


 表示されるのはずっと犬型タイプ9番のままだ。


 形としては大きなブルドッグのようなもの。動きがやや遅めでパワー型。


 さあどうなんだと反応に近づいていくと


「9番だねえ」

「あいつ、ちゃんとやってるんだな」


 3体の巨大ブルドッグが、装甲車の接近に警戒するように足を止めた。


「よしやるぜ。あんなのだが油断はするなよ」

「はいっ!」


 装甲車から出て、戦闘が開始される。


「とりあえず一匹は貰っておく。{黒風懺斬(こくふうざんざん)}」


 辺りに転がっていた塵芥や瓦礫を巻き込んだ激しい上昇気流によって、幻想獣一体が空中に巻き上げられて、巨体が切り刻まれていきバラバラの残骸になった。


「我らも続くぞ」


 猛烈な魔術と火器による集中砲火により、残り2体も危なげなく殲滅された。


 やはり事前に情報があるのと無いのではその差は大きい。早く研究所に戻ってこの探知装置を研究したいところだけど、もうちょっと時間がかかるようだ。


「もう一体いたようだね」


 戦いの最中に反応が一つ増えた。ただその姿は見えない。


「成長体か」


 ちゃんと光点の色が違ってきている。感知器はこんなに小さいのにその個体が持っている魔力もしっかりと判定してくれる。


 地面の中から魔力が増大してくるので、霞沙羅は兵士達を下がらせた。そうするとアスファルトの地面を割って、巨大な人影が這い出てきた。


 一つ目の巨大な人間のタイプ。上半身だけでも5メートルはあるそれが地面から出てこようとして、アスファルトは周囲の瓦礫を巻き上げている。


 さすがに個性が出てくる成長態より先になると探知機では分類は出来ない。


「おお、あぶねえな」

「面倒だから地面ごといくよ。どうせ穴だらけだしね」


 吉祥院が杖を何も無い空間に向けると


「{地渦動圧潰陣(ちかどうあっかいじん)}」

「おいおい」


 巨大な幻想獣を中心とした地面一帯が水滴が落ちた水面のように波打ったかと思うと、広範囲が渦のように周り始めて、ゆっくりと中心部に向かって圧縮されていく。


「ギャアアアッ!」


 幻想獣は地面から這い出ようとするが、吉祥院の魔法に巻き込まれて、ギチギチと、渦巻く地面に引きずり込まれていく。


「さあさあ、元の場所に戻ればいいじゃん」


 遂に幻想獣の体は地面の中に消えていき、地中で何かが爆発したように一回だけドンッと地面が揺れた。


「あー、終わった終わった」


 探知機の画面からも反応が消えて、周囲にはもう何も映らなくなった。


「新城大佐、終了ですか?」

「ああ終わったぜ。地面の中でぺしゃんこだ」

「そ、そうですか」


 地面の中で何が起きたか解らないけれど、成長体が一撃で終わってしまった。いつもながら吉祥院の魔法はとんでもない威力だ。


「しかし昨日の北海道でも3体出たからな。金星接近の影響が出始めているのかもな。私はこっちの人間じゃないから、命令だの何だのって訳じゃないが、ここしばらくは覚悟しておくべきだぜ」


東京の崩壊で、厄災戦以前より首都圏の人口は減っているけれど、それでも国内の人口密度でいえば多い。


 結局、幻想獣は人々の持つ意志の力を集約して生まれるので、人口が多いこの関東エリアが危険な事には変わりはない。


 戦前よりも人口が増えたとはいえ、札幌市周辺地域の危険性はここほどはない。


「しかしだな…」


 以前に道警の担当者から「伽里奈を貸して欲しい」と言われて、結局テキストだけを渡すという事になったけれど、対幻想獣の設備は装備となるとやっぱり軍の方が上だ。


 向こうは一ノ瀬のような宗教や警備会社に個人エージェントとも手を組んでいるけれど、やっぱり予算の差が大きい。


 軍だって幻想獣対策部門のシェアは低いけれど、いざとなれば国防の部門の人間だって戦力として一時的に借りることが出来る。幼態くらいなら軍人なら誰でも何とかなる。


 でも警察は違っていて、普通の刑事や警官は対幻想獣には使えないから、魔術専門の課の人間だけで頑張るしか無い。


 しかし軍は犯罪者の捜査が苦手。


 警備をしていながらもキャメル傭兵団を大学に入れたという失敗はあるけれど、基本的にああいうのは警察の管轄。


 例の2人組を追って貰うには彼らの力が必要なわけで、これからの金星接近に際して『金星の虜』にどんな協力をするのか解らないので、前線で動いて貰わないといけない。


軍は伽里奈(アリシア)作の研修テキストも揃っているし、これまで霞沙羅が考案した魔工具や魔装具もあるから、対幻想獣という点では充実している。


「なあ吉祥院、警察に口利きしてくれないか?」

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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