金星の接近が始まる -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
榊との演習が終わって、怪我の手当てをしている一組目に声をかけると、面白そうだ、と賛成してくれたので、少し休憩してから幻想獣型ゴーレムと戦って貰うことにした。
「いやー、平和でいいですね」
横浜のバングル騒動とザクスンの魔物騒動が終わってから、この年末年始は実に平和だ。
2人ともそれぞれサイドの事情に巻き込まれてはいるけれど、それは日常の範疇。
「それがそうとも言えないんだな」
「あの2人の件ですか?」
「そうじゃねえよ」
と霞沙羅は空を指さす。と言っても空には青空か雲しかない。
「金星の状態が良くない。そういう時期なんだがな」
金星と地球の接近。
そうなるとマリネイラの影響力が強くなるので。警戒期間が始まる。
この天体ショー事態は頻繁とは言わないまでも、584日周期で起きるので危険な時期は容易に予測が出来る。
そろそろ政府からの発表があるだろう。
「まあそれもあって、お前が良さそうな技術を持っているから、備えておけないかと考えたわけだ」
「そんな時期でしたね。でもボクってちょっと前からゴーレム使ってません?」
「シールの件であんだけ高度な技術を持っているとは知らなかったんだよ。何でお前がガーディアンの命令中枢を持って行ったか解ったよ」
「まあ、学校用のゴーレムがありましたからねー。教材なので、生徒に怪我をさせたくないですから、何か参考にならないかなと」
調整用途とストッパー用の技術が含まれていないかの確認をしたかった。本人や関係者に危害を加えないための仕組みがあるだろうから、それを参考にしたくて中枢部分を持っていったのだ。
霞沙羅は知らない装甲素材と武装の研究をしたかったので、本当に魔術の視点が違うのが面白い。
そして休憩が終わったので、早速待機させていた幻想獣型ゴーレムと戦って貰った。
たった一体とはいえ本物並みと言われるゴーレムに、隊員達は戸惑いながら戦っている。
「ちょっと強すぎだろ」
「調整します?」
モデルにした猫型の出現率は多くて、軍でもデータは揃っているので、VR訓練ではどの隊員も結構な頻度で経験をしているけれど、ゴーレムとはいえ実体となるとちょっと変わってくる。
「連戦てのもあるだろうし、後で意見を聞いておこう」
参考にスマホで動画を撮っているので、後でそれぞれの隊の隊長から意見を聞かないといけない。
ただ、自分達は軍人なわけで、遊びでやるわけにもいかないので、緊張感のある疑似戦闘訓練の経験も積んで欲しいから、強いのと弱いので二種類用意するのもいいかなとは思う。
「無事終わったな」
さすがに幼態モデルの一体しかいないので、訓練を積んだ軍人が落ち着いて対処すれば苦戦はしない。破壊されたゴーレムは雪原に消えていった。
「後でメールを送るから感想を聞かせてくれよ」
「私としてはとても面白い試みかと思います」
「そうか、解った」
伽里奈は安全を確保する事に余念がないようなので、採用が決まったら実力を遺憾なく発揮して貰うとしよう。
* * *
今日はいい機会なので、以前に霞沙羅に作れと言われていた改良型の幻想獣探知装置を持って来ている。
演習所の隣は北海道でいくつか残っている立ち入り禁止区域だけれど、東京の旧23区に比べれば、幻想獣の発生件数は圧倒的に少ないから、あまり期待していなかった。
けれど先程霞沙羅から金星接近の話しを聞いたので、ちょっと悪いけれど幻想獣の発生を期待している。
と言っても霞沙羅の方でも、場所が場所なので幻想獣の警戒はしている。
演習自体は順調に進み、榊との対戦も終わり、ゴーレムの試験運用も今終わって、後は怪我人の治療をして、設営したテントを撤去して札幌駐屯地に帰るだけ。
「残念だなあ」
試験も出来ないまま吉祥院に渡すのも何だかな、と思っていると、探知範囲内に3つの光点が現れた。
伽里奈はすかさず重力探知を発動させて、その姿のスキャンを開始する。
「おー、ちゃんと動いてる」
熊型の3体の幻想獣。マニュアルに載っているような、オーソドックスな幻想獣の幼態だ。でもモデルが熊なので、猫型よりも体が大きく、戦闘力は高い。
「おい、出たのか?」
「3体出ましたよ。あの、この方角に」
「全員手を止めて武器を持て。疲れてるとこ悪いが、本物の幻想獣が出たぞ」
隊員達の間に一気に緊張が走る。全員が持って来ていた、対幻想獣用の武器を装備した。
「ゲストの俺はどうするんだ?」
「あいつらの経験値にしてやりたいんだよな。だから私らは後ろで待機だ」
榊が出ていけば素手であろうともすぐ終わるだろう。その手際を見せるのも勉強になるけれど、レベルが違いすぎて参考になるかどうか。だから実戦をさせる一番良い。勿論ただ傍観することは無く、状況を把握しつつ危険となれば霞沙羅も手を出す事になる。
真っ黒でヒグマよりも大きな幻想獣はゆっくりと霞沙羅達がいる所に向かってくる。
「各隊、一匹ずつあたれ。足場が悪いから近寄らせるな」
相手は巨体もあって、あまり雪の影響を受けずに歩いてくる。北海道を守る軍人だから、雪であっても歩行は慣れているけれど、人の姿の無い雪原だから、わざわざ危険を冒してまで接近戦をせずに銃火器と魔法でゴリ押しした方がいい。
それぞれの隊長の号令で、それぞれがターゲットとして決めた幻想獣に一斉に攻撃を始めた。
「グォアアッ!」
「ブロウワァ!」
まあ所詮は幼態。発生したばかりで何も考えも無い幻想獣はただただ直進する事しかせずに、演習で人数の揃っていた隊員達の攻撃を受け、一体、また一体と殲滅されていった。
「いい状態だったな。しかしまあもう金星の影響でも出ているのか?」
「横須賀でも話に出ていたが、関東では今の所はそうでもない」
実際の所、金星が接近しても、マリネイラの機嫌次第では幻想獣の動きが活発にならない事もあるので、必ずしも、というわけではないけれど、基本的にはどの国も備えるというのは常識だ。
「まずは…、探知機だろうな」
伽里奈は頼んだとおりちゃんと地球版を作ってくれた。
アンナマリーの話によると、モートレルの方でも持ち運びに優れていて騎士団でも重宝しているというから、幻想獣の出現に迅速に対応するためにも、ゴーレムは後回しにして、探知機の整備を優先した方がいいだろう。
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