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金星の接近が始まる -1-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 札幌駐屯地にある新城大佐用の部屋で、霞沙羅(かさら)は今日の訓練スケジュールを見て悩んでいた。


 果たしてこれでいいのだろうか。


 やどりぎ館の隣に住み始めてそろそろ5年目になるけれど、ここ一ヶ月ほどはそれまでに無い程の濃厚な経験をしている。


 かなり特殊な環境にあるやどりぎ館。住んでいるのは異世界人だけで無く、異世界の神までいるし、運営側の神も時々休みにやって来る。


 多種多様な者との交流があって、最初は面食らったけれど、次第に慣れていった。


 やって来ては去って行った住民の中には、芸術家や作家といった文化人もいたけれど、先代管理人の純凪さんをはじめとして、戦闘関連での実力者も多くて、色々と勉強になった。


 そんな中、ここ最近の伽里奈(アリシア)からもたらされる技術がすごい。なぜ隠していたのだろうかという感じだ。


 まあこっちの世界に合わないからだろうけれど、実際にアシルステラに行って体験したり、例の2人組が残していく魔工具のせいで、今回はとても助かった。


 実際は地球側にもある技術なのだけれど、今使っているのは一部の好事家くらいというモノも多い。それを現役で使っている世界の人間は持っている技術もひと味違う。


 最近、学校で使っているスノーゴーレムは大した事が無いなと思っていたけれど、あれは教師達にも使えるようにかなり簡易的にしていたようだ。


 学校用にやれとは言ったけれど、この前ヒルダの所ではレベル違いのゴーレムで訓練をやっていたのを見て、これいいよな、と考えている。


 あれは人型だけれど、系統的に上位タイプのガーディアンが鳥形だったのも見ているので、試しに幻想獣型も作って欲しい。


 正規軍人であっても定期的にVRを通しての教育はしているけれど、どんなに映像をリアルにしてもやっぱりあれはお遊び。ゴーレムとはいえ体を動かしての実戦に敵う体験は無い。


 今日は久しぶりに伽里奈(アリシア)が演習に加わってくれるわけだから、カリキュラムを変更してもいいかもしれない。


 そこにドアがノックされる。


「大佐、そろそろ出発の時間です」

「ああ、解った」


 ドアの向こうからの連絡に、霞沙羅は椅子から立ち上がった。


  * * *


 千歳市にある立ち入り禁止区域に隣接する、軍の演習施設にやって来た。


 真冬なので当然見渡す限りの雪原だけれど、勿論それを目当てで来ている。足場の悪い雪原での戦闘訓練は北海道地区配属者なら当たり前に行われなければならない。


 天気はやや雲はあるけれど晴れている。雪が降るような予報もない。単なる訓練にはいい天気だ。


「今日は榊中佐が相手をするぞ」

「おおーっ!」


 部下達が歓声をあげる。


 あの榊中佐が演習の相手となればテンションが上がる。横須賀勤めの榊が北海道まで来ることはなかなか無い。


 敵わないことは解っていてもやっぱりやりたい。この英雄にどれだけ自分達の実力が通じるのか試したい。


 いやー、怪我するんだろうな。でもいいっ! そんな感じ。


 今日のテーマは幻想獣ではなく、単純に強い金星の虜やテロリストを捕まえることを想定している。


 絶対勝てないけれど、そうではない。圧倒的な強さを体験することが、今日の目的だ。


「今日はよろしく頼む」

「こちらこそっ!」


 榊はまだ24歳。年上も多いというのに、礼儀正しくどこへ行っても歓迎ムード。警察に貸してやるときもでもそうだけれど、本当に妙なカリスマ性がある。


 女性隊員はこの雰囲気にちょっと引いているけれど。


 ここの所、同格のヒルダとハルキスとの連戦で、これまでに無いほどの緊張感のある鍛錬を経験している榊だけれど、今日のこれは仕事。


 軍の人員育成は今は急務だから、中佐ともなれば、物足りない時間だけれど重要な任務だ。


 そういえば領主や次期族長の彼らも育成をやっているんだよな。そう思えば苦では無い。


 そうして10対1で一組目の演習が始まった。


「なあおい、ちょっといいか?」


 雪を撤去して、待機用のテントを設置し終えた伽里奈に、霞沙羅は声をかけた。


「幻想獣っぽいゴーレムは作れるか?」

「出来ますよー」

「出来るのかよ」

「学校の件なんですけど、最初はそっちの方がいいかなって思ってたんですけどねー、怖いんじゃないかなって、なんかゲームのキャラっぽい現実離れした騎士にしたんですよねー」


 魔法をちょっと実戦的に楽しく学ぶのが目的なので、高校生にいきなり現実的な物体を相手にさせるのはやめようと思った。


 実際に伽里奈(アリシア)が幻想獣を相手にすることは、普通は無いけれど、色々と資料やら映像は見せて貰っているし、元々魔物も魔獣も魔族も獲物としては経験豊かなので、数体分はデータが出来ている。


「やってみせろよ」

「えー、そうですか? じゃあ猫タイプで」


 猫というより虎とかライオンのような大型猫タイプ。これは幻想獣としてもメジャーだ。


 調整はしていないけれど、伽里奈は一体のスノーゴーレムを作成してみせた。


「全身真っ白だが、雰囲気は出てるな」

「素材が雪ですからねー。それでも多少色は変えられますよ?」

「おー、大佐、何してるんです?」


 伽里奈(アリシア)が魔法で何かを作ったのを見ているので、「幻想獣だー」と驚くことは無いけれど、伽里奈(アリシア)は霞沙羅とは違う魔術を見せることがあるので、次の準備をしている隊員達も気になりはじめた。


 それで軍曹さんが声をかけてきた。


「こいつがゴーレム作りに長けているから、雪で幻想獣モデルを作らせてみたんだよ」

「へえ、よく出来てるじゃないですか」

「あっちが終わってからやってみるか?」

「そうですね。伽里奈君、これ強いの?」

「本物と同じくらいの強さです」


 伽里奈(アリシア)の答えに軍曹はちょっと躊躇した。なにせ榊とやった後のもう一回と考えると不安になる。


 ただまあこの北海道でもよく出てくる幻想獣だし、相手をするのは一体だけみたいだし、我らが新城大佐は今後の訓練の事を考えているようだし、隊員達はやってみることにした。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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