表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/525

入居者のお手伝いは管理人のお仕事 -8-

 事情が事情なので、2人は屋敷にあるヒルダの執務室に移動した。その際に人目もあるので伽里奈状態に戻した。


「それで、どういう事があったのかしら?」


アリシアが帰ってきたことと、これまで目の前をウロウロしながらも別人を装っていたことが解って、嬉しさと怒りで気持ちがぐちゃぐちゃになりながらも、ヒルダは何とか冷静を保っている。


 変わった性格の人間だったけれど、仲間思いだったので、正体を隠していた事に何か理由があるはずだ。


「ボクさあ、宿屋の三男じゃん」

「ええそうね」

「皆はそれぞれ目標とかあって旅をしてたけど、ボクはなんとなく、解散したらどこかで宿屋を開きたかったんだよねー。でもさー、ボクら強かったじゃん。それでこの国にも認められちゃって、ヒーちゃんとハルキスが王宮に顔が利くから魔女戦争じゃ色々と国に依頼されて、いつの間にか騎士に任命されて、魔女を倒したら爵位をやるぞなんて言われて、ボクは嫌だったんだよねー。英雄呼ばわりされて爵位を持った人の宿屋なんていないじゃん?」

「そうだったの?」


 それには気がつかなかった。自分は次期領主としてこの国のためにと思っていたし、ハルキスも次期部族長と国の為という意志があり、ルビィは学院に戻った時の地位の為であったし、ライアは劇場購入の資金、イリーナは神官としての役目を語っていた。


 そういえばアリシアは目標が何も無かった。てっきり名を挙げてあわよくば士官とか貴族とか、もしくはルビィと一緒に学院に戻るかと思っていた。


「これさ、魔女さんの部屋に入る前に愚痴っててシスティーに呆れられたよ」

「でも魔女は倒したんでしょ?」

「ここから先を話したって事で、ヒーちゃんにはこの後ギャバンさん達からも話があるからね。あのね、ボクは魔女を倒してないんだ」

「どういう事? それとギャバンさんって、まさか戦神の?」

「うん、そうだよ。それでね、魔女の部屋に入ったら魔女さんがいたんだけど泣いててね。やりたくなかったって1年間の事を後悔してたから、事情を聞いたんだ」

「あれだけの事をしておいて、後悔なの?」

「それには理由があってね。ワグナール帝国が出来てからフラム王国周辺の国は対帝国の協力体制になったからいざこざが落ち着いたんだけど、それでもこの大陸はずっと国家間の小競り合いが大小あったでしょ? 神様達はそれが気に入らなくて人間にテストをしていたんだ。それでアーシェルさんが作り出した女神が魔女役として人間に戦争を仕掛けたのが、魔女戦争の真実だよ」


 アリシアののんびりした口調で言われてはいるけれど、それが真実なら自分達はとんでもない存在と戦っていたのだ。まさか神々が人間を試していたとは思いもよらなかった。


「女神様は、最初は帝国みたいな迷惑な国を潰すのに躊躇はなかったんだけど、人間が国の枠を超えて戦うようになった頃に、人の命を奪っていることに嫌気がさして来たんだ。人間同士がが協力しあうことで神様達が望んだ結果は出せたんだけど、最後に罠が張ってあったんだ。それで戦いが終わる直前にその女神様はそれが怖くなって、そこにボクが辿り着いたの」

「罠って?」

「どういう理由であれ、魔女を一方的に憎んで戦いを選んだら失格で、大陸の歴史はリセットされるって事になってた。でも魔女と話をして戦いを挑まなかった場合は合格だったんだって。ボクは魔女さんをなだめて話を聞いて、そしたら戦う気になれなくてね。こんな事は初めてだって神様からも驚かれたけど、ルールだからって、リセットは無くなったんだ」

「そ、そんな事って」

「過去に滅んだ文明があるじゃん。あれってそういうことだったみたいで、初めてみたいだよ、文明が続いたの」

「じゃあアーちゃんはその、世界を救っちゃったって事?」

「そういう事みたい。実感は無いけど、魔女さんていうか女神様はとても喜んでたよ」


 その話を聞いてヒルダは背筋が凍った。何かの間違いでこのアリシアが1人で魔女の部屋に辿り着いたからよかったけれど、もし全員が揃って部屋に辿り着いた場合はこうはならなかったかもしれない。そうであれば今は無いのだ。


改めてこの元リーダーに感謝する。ヒルダは思わず祈りのポーズを取った。


「それで、この後何がしたいって神様が言うから、ボクの事を誰も知らない場所で宿とか下宿がやりたいって言ったら、このアシルステラとは違う世界にある、夢のために努力していたり、ちょっと休みたい人向けの下宿を紹介してくれたから、この世界の人にはボクが大怪我して休んでるって事にして貰って、今はその下宿の管理人をしてるんだ」


 あまりにも突拍子の無い話を聞かされたけれど、どうしてもこれが嘘だと思えない。


 よくよく考えれば、伽里奈という人間の下宿がこの町にあるとか聞いたことが無いし、アンナマリーから聞く話も微妙に世界観とずれている。伽里奈がこの世界で知らない料理を持ってきたのも、異世界にある料理なのだろう。


 見た目は違うけれど、アリシアの性格は変わっていないし、でもそれに気がつかなかったのであれば、人知を超えた力で、その存在に細工がされていたのだろう。


「下宿は地球って世界にあって、ちょっと前にようやくアンナマリーが宿に選ばれてここの町に繋がったんだ。それまではこの世界には来られなかったからさ」

「それでシスティーまでいなくなっていたのね。じゃあ聞くけど、その魔女役の女神は今どこにいるの? アーシェル様の元に戻ったの?」

「ううん、下宿でボクのサポートをして貰ってるよ。彼女も心を病んじゃって、誰も知らない場所でゆっくりさせることになったんだ。それでまだこっちの世界に戻るのも早いかなって思って、ボクは他人のフリをしていたんだー」

「なんか、大変な事になってたのね」

「下宿の管理人は入居者のお手伝いがあるんだけど、アンナマリーの周辺が正体隠していられる状況じゃなくなってきちゃって…。女神様もこっちの世界を見てたから、今晩はボクが出てきたってワケ」


 衝撃的な話の数々を聞かされて、ヒルダは頭が混乱し始めたけれど、とりあえずアリシアが帰ってきた、という事実だけは受け止めようとする。


「それで、事件の状況が解らないならボクがいるって事は戦術上隠しておいた方がいいかもね。アリシアに対する準備をされない方がいいでしょ?」

「そうね。この町もこんな状態だけど、王都の魔法学院の方も大変なのよ」

「学院が? なんで?」

「魔女戦争の時に帝都跡地から奪ってきた王者の錫杖ってあるでしょ。あれが盗まれたみたいなの」

「あれって宝物庫の一番奥の方に保管して貰ってなかったっけ?」


 帝国の建国に関わる非常に危険なアイテムなので、もう誰の手にも触れないように、宝物庫最奥のエリアに置いて貰った。あれを盗み出すのは至難の業のハズなのは伽里奈も解っている。


「保管品の確認をしたら無くなっていたそうなの。その調査と捜索でルビィは今走り回っているわ」


 しかも盗まれたことに気が付かないとかあり得ない。


 この国の歴代の賢者達が作り上げたダンジョンから、セキュリティーに引っかからないで最重要品を盗み出すのは不可能だ。


「ルーちゃんが悪いわけじゃないんでしょ?」

「宝物庫の管理者ではないけれど、学院の上の方が総出で情報の収集中よ。物が物だけに表沙汰にも出来ないから、限られた人間だけでやってるのよ」

「王都も大変だなー。とりあえずさ、まだモートレルも大変みたいだし、ヒーちゃんがいつまでもボクと話をしているのも変だし、そろそろ帰るよ」


 外の方はもう大夫落ち着いているようだが、町の確認もしなければならないし、情報の収集、それから冒険者達からも話を聞かなければならない。伽里奈から貰ったレポートも解る人間に見せる必要もある。


「これを置いて帰るから、お昼頃に話をしようね」


 伽里奈は、手のひらからちょっとはみ出るサイズのクリスタルの板を机の上に置いた。クリスタルは金属の枠にはまっていて、枠には小さな何かの石がついている。形状は、と言われるとスマホみたいな感じだ。


「ボクから連絡するから。このクリスタルにボク側の映像が映るんだ。ボクはボクで同じ物を持ってるから、そっちにはヒーちゃん側の映像が映るよ」


 アンナマリーと連絡が取れるようにした方がいいかなと思って作ったけれど、これはヒルダに渡した方がいい。


 ルビィほどの専門家ではないけれどアリシアも高位の魔術士だ。ヒルダの記憶ではこういう道具作りはあまり得意では無かったけれど、定住するようになって、霞沙羅の影響もあって、色々と研究するようになったのだ。


「冷蔵の符はルビィが驚いていたわよ」


「あれねー。旅の途中じゃどうしても研究が出来なかったから。向こうの魔術を学ぶうちに、こういうことをやるようになったんだ」

「いいわ。今の状況が落ち着いたら今後の話をしましょう」

「じゃあボクはそろそろ帰るよ。エリアス、回収お願い」

「エリアス?」

「女神様の名前だよ。じゃあね」


 伽里奈の姿は部屋から消えた。なかなか騒がしい夜になってしまったけれど、一つだけいい事があった。アリシアが帰ってきたのだ。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ