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侮れない技術 -3-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 今はもう深夜。郊外の、こんな時間には人が寄りつく事の無い山の中を一人の少女が歩いていた。


 背中に荷物の入ったリュックを一つ背負って、森の中を進んでいくと、この世界にはあまり見ることの無い、石作りの家だった建物の廃墟を見つけて、寄っかかったら倒れるんじゃないだろうかというような、一枚の壁のようになっている正面部分の前に座り込んだ。


 溜息を一つついて、通信端末を弄っては、保存されている色々なメッセージを見たり、配信されている漫画をしばらく見ていた。


 漫画を一巻分読み終えて、端末の電源を切った。そして少女は一度祈るように目を閉じ、再び目を開けると、持って来たペットボトルの水と、多めの薬を上着のポケットから取り出した。


 本当にバカみたいな話だけれど、もうこんな事にでもすがるくらいしか無い。果たしてどうなるかなんて知らない…。ああなんてバカなんだろう。そして薬を飲んだ。


  * * *


「困るんですよね、我が家の敷地内でこういう勝手なことをされると。あまり人の手が入っていないように見えても現役で人の家ですのよ」

「いやー、これはまずいわー」


 カナタとアオイの足下には17歳くらいの一人の少女が転がっている。息はまだしているけれど、かなり弱々しくなっている。このまま眠るように死んでいくのだろう。そういう薬だ。


「こんな所で人死にとか出ると、捜査のために人が入ってくるじゃないですの」


 カナタは強力な解毒の神聖魔法を掛けて、あっさりと薬を無効化した。弱った体は回復にしばらくかかるだろうけれど、これで薬の効果で死ぬことは無くなった。


「えー、なになに」


 横に置いてあったリュックを物色したアオイは、今時古風にも程がある紙の便せんにしたためられた手紙を発見して、その中を確認した。


「魔術師の卵ね。通ってる魔術学校でなんか上手くいかないから死ぬって。そんで異世界に転生してそこで上手くやり直したいってさ」


 学生証もある。成績を示す物は入っていないのでその腕前の程は解らないけれど、年齢的には進学がちらついている頃だ。


「昔から生えては引っ込みを繰り返しているジャンルの一つですわね。あんな都合のいい転生なんてシステムがこの世にあるわけないじゃないですの」


 無いから次の世代に技術を渡すために、最後まで人はあがくのだ。魔術はその繰り返しの果てに今あるモノ。それが解っていない魔術師などあり得ない。いてたまるか。


 とにかくこの不届き者には今すぐにご退居願いたいが、警察に突き出して家に帰したところで、結局この学生はまたどこかで同じ事をやらかすだろう。


「だったら行ってもらおうじゃないですの、お望みの異世界とかいう場所に。死ぬ程までに悩んで望んでいるのなら、現地で死んでも文句は言わないでしょう」

「ああいうのって、異世界に行ったらなんか向こうで有効なすごい能力を貰ったりして、それが開花して大活躍ってのが相場なんじゃない? なんか道具でもあげるの?」

「私はただの人間ですの。そんな都合のいいモノなどありませんわ。行きたいと言っているのだからそのまま行って貰いましょう。現実は甘くありませんわ。妄想に溺れて努力を放棄した人間は嫌いですの」


 自分がどれだけ努力をしているのか、説教したところで無駄だろう。


 少女の持ち物の中にはスティックタイプの魔法の発動体がある。あと、護身用なのかキャンプ用品のナイフが一本。この世界以外では使えるわけも無いキャッシュカードと魔術の本と着替えも持っている。通信端末は家に置いてきたのだろう、持っていない。


 なぜ未使用の砂糖と塩と胡椒等の調味料をもっているのだろうか。お菓子も入っている。


 まあ食料くらいは持っていた方がいいだろう。


「あー、この子、隣の県にある料理屋の子だわ」

「行く先にはガスも電気も電化製品もありませんけどね」


 ここに来るまでに誰かの目に触れているかもしれないし、捜索願を出した警察が捜査に来るかもしれない。だから持ち物は残らず全部リュックにねじ込んで。少女を抱え上げて、カナタは扉を開ける。


「君は、生き延びることが出来るか? ですの」

「なによそれ?」

「魔物類は試しましたが、人はどうなるんでしょうね。魔術がロクに使えない魔術師は、ハッキリした科学も無い魔術ばかりの世界でどう戦ってくれるのでしょうね。どうせ死ぬ気だったのですし、望みを叶えてあげましょう」

「それでどこにするの?」

「そうですねえ、最近見たあそこは一年中過酷すぎますし、黒い神の龍がいつ蘇えるのか解りませんしねえ。だったら大きな戦いから一息ついてるあそこにしますか」


 今の所、あの世界での仕事は無いし、仕事とは関係なくこれまで色々と送りつけたから、それらがどうなったのか暇があったらちょっと観察するついでに、見にいってみよう。


「あの中でもせめてお米が食べられる場所にして差し上げましょう」


 カナタは扉を開けて、アシルステラへと繋げる。自由に場所を指定出来ないけれど、一国の王都に繋がっているので、放置して朝になるまでにいきなり魔獣に襲われて野垂れ死ぬことはないかもしれない。


 念願の異世界への…、転生ではなくて転移になってしまうけれど、何の能力も与えられてないけれど、ここより厳しい場所でせいぜい生き残る努力をすればいいと思う。


 この館だったモノはこれとはまた別にも存在するから、ひょっとしたら生きて帰ってこれるかもしれない。


 カナタは少女を抱えると、アシルステラへ入っていった。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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