入居者のお手伝いは管理人のお仕事 -7-
例の剣士が面会を望んでいるというので、町に出ていこうとしていたヒルダはそれを取りやめて、会って説明を聞くことにした。
伽里奈が騎士団の建物内にある一室に案内されて待っていると、戦闘装備状態のヒルダがやって来た。
「あなたの方から出てきてくれるとはね」
「状況が状況でしょ。静かな夜を台無しにされちゃうとね。それと渡したいレポートもあったから、丁度いいかなって」
「とりあえず何者なの?」
「順を追って説明をしていこうね。まずは」
覆面を取った。
「伽里奈です」
「喋り方からしてそうかとは思ったけど。あの晩に私の剣を避けられたのはそういうわけなのね」
「あははー、ちょっと出てくるのが早かったかなーって思いましたねー」
伽里奈は試験の時に自分の剣の悉くを捌いたし、色々と魔法にも詳しかったので、何となく疑ってはいたけれど、直接明かされて納得した。
ただ伽里奈の方はもう一つ言っておこうかなということがある。霞沙羅やフィーネからアドバイスを貰ったし、エリアスからも許しが出た。今晩の状況を見てもう決めた。明日以降にアンナマリーの手助けをするにはもうこの手段しかない。
「はい、とりあえずこの石の件と杖の件、それとスケルトンの件のレポートを用意しました」
杖の術式は先程内容が確定したけれど、先日発動した術は確認しているので、内容は合っている。
机の上に置いた召喚の石と杖は、込められている術式に細工をして、もう機能しないようにしてある。
後で確認をするとして、学院を卒業して教職に就くくらいの人間なら邪魔をしている細工がどれなのか、そしてそもそもどういう術式なのかは見分けられるだろう。
「この町にも学院の分校があるし、ルビィさんに見せれば解るとは思うけど、とりあえずレポートを出します」
伽里奈は数枚のレポートを机の上に出す。
「先日去り際に言いましたけど、ここ最近の9番依頼を受けた冒険者の事って解りました?」
「ええ、どういうメンバーなのか、どういう依頼だったのかはギルドから情報を得たわ」
「こっちの杖の術式は今確定したところだけど、持っている者の体を触媒にしてスケルトンを作り出す魔法だけが刻み込まれているから、そもそもこれ用の人を集める目標だったんじゃないかなー」
「そんな事が、って、あの2年間でいくつか見たわね」
「この町が狙われる理由って何かあります?」
「いえ、この町もここに出来て長いけれど、魔女戦争時に狙われることはあっても、遺跡の上に立っているとか、何かが埋まっているとか、特別な理由は思いつかないわ」
伽里奈も解っている。狙われるとすれば、他の国から領土として狙われるくらいだろう。ここの町は街道の中継地だし、周辺では農耕牧畜も盛んだ。地方領主の町ではかなり栄えていて、そういう意味では価値がある。
「何だろうねー」
「ところで、その剣はどうしたの? それはうちのアリシアが持っていた魔剣じゃないかしら?」
「これ? 本物だよ」
「それをどうやって手に入れたのかしら」
「周りに誰もいないよね?」
ドアの外に人の気配はしていない。今は外の事でそれどころではないからだ。
「館にいる人からアドバイスを受けてるんだけど、アンナマリーのサポートに関して強力な仲間を1人確保しておいた方がいいって言われたんだ。でも残り4人も含めて他の人には言わないで欲しいなー」
伽里奈は術式を仕込んだ髪留め外して、元々の赤髪に戻して、三つ編みにしていた髪をほどいて、ポニーテールに戻した。
「魔剣はちょっと手を入れて貰ってるけど、アリシア本人でしたー」
「ア、アーちゃんだったの?」
「ボクの名前ってアリシア=カリーナでしょ? 伽里奈=アーシアって名前の順番を変えてただけなんだー」
突然のカミングアウトだが、出会ってからの行動や性格から、ヒルダ的には多分本物だと確信した。これでエリアスがかけていた「認識阻害」が解けた。
ただ、最終確認の為に、これまで何人かアリシアを名乗る人物の話を聞いたことはあったけれど、もし出会ったのならこれを聞くことと、皆で決めていた事がある。
「せいけんは持ってないの?」
「聖なる剣は今でも持ってないけど、星の剣なら持ってるよ」
それで確認が取れた。今、目の前にいるのはアリシア本人だ。
「今家にいるから呼ぶよ? ボクの手伝いをやって貰って結構性格変わっちゃってるんだけどねー」
「え、ええ」
「じゃあシスティー、ちょっとヒーちゃんに挨拶してもらえる?」
伽里奈が呼ぶと、その手の中に青く燃え上がるサーベルが現れた。その炎が変化して女性の姿を取った。
本当に久しぶりに見た、これが星の剣だ。
ルビィが、ニセモノが現れるだろうからと世間には「聖剣」として伝えているが、本名は「星雫の剣システィー」であり、本人曰く、その昔に星空の世界からラシーン大陸にやって来た剣だ。
本物の登場で、目の前にいるのがアリシアであることは疑いようがない。
「霞沙羅さんのアドバイスに従ったワケなんですね?」
「フラム王国で妙な事件が続いてるから、アンナマリーを守るには部外者のままじゃダメでしょって事。エリアスも覚悟を決めてくれたしね」
「そうですか。久しぶりですね、ヒルダ」
「し、システィーなのね。あなたもアーちゃんのところにいたなんて」
「色々とあるんですよ。詳しくはマスターから聞いて下さい。ちょっと今バラエティー番組を見ているので、ここで失礼しますね」
そう言ってシスティーは剣ごと消えた。
「事情の説明はするけど、とりあえずボクがいるって事はヒーちゃんの所で止めておいて貰える? なんか今は広めない方が良さそうだから。あと家に住んでるけどアンナマリーも知らない話だからね」
読んで頂きありがとうございます。
評価とか感想とかいただけましたら、私はもっと頑張れますので
よろしくお願いします。