心躍る日々の始まり -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
次の日は、朝から歓迎会である夕飯の準備をしつつ、また榊が鍛錬をしたいと言うので、モートレルに連れて行った。
でも今日は鍛錬自体は簡単にして、ヒルダとハルキスに気の技を伝えることを主体としている。
ヒルダとハルキスの2人だって、まだ上手くいっていないにせよ、斬り合えばイメージもつくだろうし、相手になる榊の技を見ればヒントになるだろう。
まだ初心者なので、よく解らないことを一人で悶々とやるよりは、集まって試行錯誤する方がいい。
「今日は私でがんすよ」
シールをアリシアに見せる事については、吉祥院から簡単にOKが出た。どうなっているのか解らないんだから仕方がない。
ちょっとでも手がかりになる可能性があれば、今はそれに頼るのが一番だ。
「ルーちゃんの知恵も借りるよ」
「錫杖が作られた世界の魔術は、そんなには解らないゾ」
「大丈夫、ここのに要約するから」
ルビィもゴーレムが作れるので、不明部分の解析に一役買って貰うことにする。
そして今日の鍛錬場所はヒルダの屋敷の前。庭に結界を張って、それが見える応接部屋を借りて、解析を行う。
「そういえば最初にここに通されたっけ」
レイナードからキャンプ飯の依頼をされた時に使った部屋だ。
「館があの状況だってのにまた何か作って来やがったな」
「フロマージュですよ。何かテレビでやってて」
上に苺のゼリーが乗っているチーズケーキ系のお菓子を作って持って来た。
勿論やどりぎ館用のものは「食べてね」と冷蔵庫に入れておいた。
「地味な見た目だが美味しそうじゃないカ」
「これは後で食べようねー」
自分専用の、おか持ちタイプの冷蔵箱に一旦戻した。
「神官さんも来ているでありんすよ」
窓の外にはイリーナの姿もある。転移が出来るようになってからは好き勝手に行き来が出来るので、便利になったものだとモートレルの店舗経営者達にも好評だったりする。
「それじゃあ始めるぞ」
シールの術式はヤマノワタイのものなので、ちょっとしか触っていないルビィには解らないけれど、アリシアが訳しながら今解っている範囲の解説を進めていった。
「これはかなり危険なアイテムなんじゃないカ?」
「私らはこれと同系統の魔術に振り回されてるからな。これがなければ私も占領事件の時に大暴れが出来たのに」
このシールの技術は、術式自体は違うけれど系統としては横浜の辻斬り事件の武器にも通じるものがある。
「あそこに先生までいたらあの残党達も気の毒だっただろうナ」
なにせ戦力的にはアリシアがもう一人いるようなものだ。これはまずい。
「それはともかく、この部分なのでありんすが」
基本術式に拡張されている細かい術式。いくらアリサさんからヤマノワタイの魔術を教えられている吉祥院でもよく解っていない。
「ああこれ、人格系の設定の塊ですね。ものすごい細かいですけど、戦闘データ的なものも含まれてるかも」
「なんダ?」
「これほら、ゴーレムとかガーディアン系の命令部分に構造が似てる」
アリシアが不明部分の読み取り方を教えると、ルビィはすぐに理解したようで
「ホムンクルスとかそういうレベルだナ。人格データそのものダ。このシールとかいうのを持った人間にこのデータを植え付けるようだナ」
「使用者の人格は弄らないで、行動とか判断に影響するみたいだね」
「すごい安全が確保されてるナ。普通こんなの一度でも植え付けたら人格崩壊しそうだが、本人の自我に影響無しときていル。間に武器を挟んでいるからカ?」
ルビィは早速アシルステラの魔術に変換すべく、メモを開始した。
「当たりかよ」
しかも人造人間の話まで出てきた。
さすが機械や科学では無く、魔術が優先されている世界だ。地球でもクローン技術とは別に魔術業界で研究はされているけれど、なかなか成功例を見かけることは無い。
こっちではどうなんだろうか。
「アリシア君とルビィ君、ワタシらに説明出来そうかい?」
「ちょっと時間をくれたら、アシルステラの技術で説明は出来るゾ」
「アシルステラのなら構わないよ」
どうもアリシアが訳してルビィが中心に説明を考えるようなので、それは仕方が無い。
霞沙羅も吉祥院もアシルステラの魔術は解っているので、説明を受けた後で自分達で地球向けに訳せば報告書は出来る。
「ちょっと外行ってくるぜ」
これは纏まるまで静かにした方がいいと、2人は庭に出ることにした。
* * *
「吉祥院、2対2の状態でやりたい」
今日は運動がてら1対1で軽く流していたところだったようだけれど、榊がそんな提案をしてきた。
2対2って、剣士の3人は良さそうだけれど、1人だけ剣士ではないのが混ざっているのが気になる。
「そっちの神官殿はそこに混ざって大丈夫でありんすか?」
「私もやったが、そいつ結構強いぜ。なにせ持ってる称号が聖女じゃ無くて聖騎士だからな」
実力的にはアリシアには及ばないけれど、時には前衛としての役割を担ってもきているので、イリーナは弱くはない。少なくとも霞沙羅と腕試しが出来る程だ。
「アリシア君が魔法騎士なのに、聖騎士でやんすか?」
「そこは神官なので、教皇様が下さったからなのよ」
イリーナは強い、と霞沙羅が言うので、少し大きめな結界を作ってあげて、榊とイリーナ、ハルキスとヒルダの2組に別れて動き始めた。
「想像以上にパワフルな神官さんだったでござる」
「しかしイリーナの武器は耐えられるのか?」
そこは自力で【聖剣化】をしているから、霞沙羅の作った練習用武器にも、今の所は耐えている。
「神官は我ら3人とは範疇が違うだっちゃ」
「あの七光りも戦争中に随分と伸びたが、さすがに聖騎士を貰える人間はレベルが違うな」
バカ息子、七光り、コネ入社、と厄災戦時には霞沙羅に散々バカにされた空地桜音にも見せてやりたい本物の神官がここにいる。
少なくとも跡取りという自覚は芽生えたので最近は大夫マシにはなっているけれど。
そのイリーナはきっちりと神聖魔法で攻撃をしてくる。魔術師のような派手な攻撃魔法ではなく、神の力を借りた粛正の意味合いを持った、打撃的な性質。
イリーナは後ろにいる機会が多いので、前にいる榊の後ろに入った際は的確に魔法を撃ち、榊の方も常に後ろから飛んでくる吉祥院の魔術を意識していたので、はじめてにしては連携が取れている。
イリーナがいることで遠距離攻撃が飛んでくる事になるので、それをヒルダとハルキスは警戒して、2対2という状況もあって、これまでと違う戦いに発展している。
「右と左、それぞれにアリシア君と霞沙羅がついたらまた変わるのでありましょうなあ」
「今度やるか」
今日はシール解析の件で来ているので参加は出来ないけれど、強い連中が集まって楽しそうな事をやっているなというのは解る。
その分結界の維持が大変になりそうだ。
その後は、組み合わせも変えてやっていた。
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