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次なる課題へ -3-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 5日の夕方になり、シャーロットがロンドンから帰ってきた。


 向こうはまだ朝。こっちはもう少しで夕食時。時差はすごいけれど、シャーロットはちゃんと対策を立ててきている。


 今日は朝の4時くらいに起きて、そこから勉強をするなどして、朝ご飯は食べずに、家族に挨拶だけして日本に帰ってきているから、伽里奈(アリシア)が準備を始めている夕飯は食べるし、明日もお休みなので、日本時間での深夜まで勉強をして、明日はお昼頃に起きる予定。


「ケーキも買ってきちゃった」


 やどりぎ館に続く路地の左右にあるお店の片方はケーキ屋さんなので、昨日の内に買ってきたケーキを持ってシャーロットは帰ってきた。


「これが、これがウチの国発祥の、世界的に元祖ショートケーキよ」


 白いクリームに包まれた日本のショートケーキとは違う、ビスケット生地を使ったロンドンのショートケーキ。生クリームと苺を使っていることくらいしか共通点は無いし、そもそも苺だけにこだわらず、それ以外も使うという。


「これはこれで美味しそうだな」


 アンナマリーも興味深そうに現物を見ている。ちょっと地味な見た目だけど。


「サクサクしてそうだねー」


 お菓子、という感じの見た目で、クリームは少なめだからこってりしていないように見える。


 今度の料理実習はこれを作ってもいいかもねー、と伽里奈は思う。普通のショートケーキよりも、折角シャーロットがいるという異国要素を使ってもいい。


「逆に今度日本のショートケーキを食べたいって言われたから、持っていてあげるの」


 家の目の前だから、ケーキ屋のご主人とも面識があって、そういう事になったようだ。


「じゃあ食後に皆で食べようねー」


 ショートケーキは一旦冷蔵庫に保管して、シャーロットは改めて榊に挨拶をして、早速温泉に入りに行った。


「ジェイダンさんから貰った宝物ハンターの件ってどうしたんです?」

「警察の知り合いに任せたぜ。一応協会と軍にもコピーを提出したがな」


 キャメル傭兵団を捕まえているのも警察だし、現在は捜査のために各国から警察関係の魔術師が集まっているから、彼らの知識も借りつつ、協会にも協力を要請して対策を立てる予定だと、その知り合いからも聞いている。


「北海道には来ないですよねー?」

「さあ。相手の意図もわからんしな。イギリス側で阻止してくれるのが一番良いのだが」


 有名な人物だけれど、イギリス生まれ、イギリス最高学府卒業者、そして各地を転々としながらも基本はイギリスを根城にしている。


 ただし、どこに住んでいるのかは警察もイギリスの協会も完全には追えていない。


 姿と名前を変えながら、国内を転々としていて、時々海外にも足を伸ばすような生活をしているようだ。


「人を操ることに長けているから、誤魔化しもきくんだろうぜ」


 名前を変えるのも役所の人間を操れば可能だろうし、転居した先の周辺の人間だって誤魔化せる。結構高度な技術がいるだろうけれど、簡単に話を聞くだけでもそれが可能な人物なのだろうと想像出来る。


「警察にはお前の作ったテキストも渡してるんだし、もーちょいちゃんとやって欲しいもんだぜ」


 テキストデータを渡してまだ一ヶ月も経っていないけれど、検証もしているだろうし、警察組織内でもどう使うか検討はされているだろう。もう使っていてもいいだろうし。


「それで、お前はどうする気なんだ?」

 今日は榊からの申し出で、伽里奈(アリシア)にもどの程度の魔術知識があるのかを確認して貰った。


 確かに、霞沙羅や吉祥院から教えて貰っていた事もあって、大学生くらいの魔術知識はあった。けれど、魔力を操るほどの技術は無かった。


「伽里奈君がよければ、時間を貰って教えてほしいものだが」

「その辺はいいですよ。そんなに突っ込んで習得する気は無いんですよね?」

「何か牽制用と補助と、出来れば治療くらいでいいとは思う。君の所のヒルダやハルキスもそういう使い方なのだろう?」

「そうですね、一番気にするように教えたのは、魔力感知だったりしますけど、初歩の魔術は今でも問題無く使えるはずですよ」

「榊さんも魔術の勉強をするのか?」

「アンナマリー君から見て、伽里奈君の教え方はどうなんだい?」

「私の、まあ憧れの人ってのもあるんですけど、実戦での経験が豊富だから、色んな場面の対応方法とか教えて貰えて、ためになりますよ」

「あの2人からも最初は反対されましたからねー」


 オレらは剣でいいじゃねえかとか、2人も魔導士がいるからいいじゃないの、とか言われた。


「榊さんは軍人で、周りにも人がいるからホントに保険って程度に身につけておけばいいと思いますよ」

「訊いておきたいが、君はなぜ魔力探知にこだわるんだ?」

「ボクら魔術師は常に魔力探知をしてるみたいなもんですけど、普通の人には仕掛けられた魔力を感じる事が出来ません。いつ何をされているか解らないから、意識した時でもいいので、何かされそうだって、警戒なり、魔術への対抗をしておくとか出来るようにした方がいいですよ」

「こいつは何でここまで慎重なんだろうな」

「冒険者ですから。あとちょっと強すぎるのに大雑把すぎるメンバーがいますからねー」


 本人達だってバカじゃないから、強力な剣士としての感覚で警戒はしているけれど、魔術には対応していなかったので、せめてそこに魔術があるかないかくらいは解るようにさせた。


 あの2人だから、剣士として研ぎ澄まされた精神力でもって、例えば精神的な魔術にはめっぽう強くて、幻術なんかもってのほかだけれど、予め警戒しておくことに意義がある。


 一方の榊。対魔術戦では、厄災戦の時は霞沙羅と吉祥院の2人に任せればよかったし、戦後も別のチーム内に魔術師はいる。けれど基本的に先頭に立って戦う自分が、ある程度周囲の警戒が出来て悪いわけでは無い。


「君がそう言うのなら頼むか」


 修行の一環としてここに住むと決めたのだ。霞沙羅とは違う経験を持っている、異世界の英雄の知識を借りるのもいいかと、魔術の基礎部分の習得を決めた。


  * * *


 食後にロンドン土産のショートケーキを食べ終わってから、シャーロットは今後の予定を教えてくれた。


 最後のレポートが残っているそうなので、それをあと数日で作り上げて提出する。そこからレポートを元に、各専門家とのディスカッションが控えている。その間にも実技テストを行うそうだ。


 この為にこの冬季休暇が終わって一週間後くらいに、またロンドンに帰って、10日ほどをかけて卒業試験の為に実家へ滞在するそうだ。


「杖も完成させないとな」

「それはレポートが終わってからでいい?」

「なら準備をしておくぜ」


 随分時間がかかっているけれど、レポート作成の合間に、将来のために杖の製作工程を見せて貰っているので、進みが遅かった。


「卒業試験が終わったらどうするんだ?」

「日本の学校は3月まであるんでしょ? それは最後まで見たいわ。伽里奈のやってることにこのまま関わりたいし」


 しばらくいない期間があるけれど、海外留学者に進級も何も無いし、来て早々に小樽校の一年が何を勉強するのか中身を解っているから、いようがいまいが関係ない。


「休みだってのに、教授のヤツが機材の試作品を完成させたらしいぜ。今度見に来いってよ」


 移動型の結界装置の件だ。


 製作を引き受けてくれた教授は早々に資材を集めて、もう組み上げてくれていた。


「いいですねー」

「ゴーレムもちゃんと覚えて帰りたいわ」

「そうだねー、間に合うかな…」

「何が間に合うんだよ?」

「ガーディアンから中枢部分を取ってきたじゃないですか。あれの制御技術を教材用ゴーレムに使いたいんですよねー。あとあの、シールの事とか」

「シールって、あれか…」


 先日のバングル事件で回収したシール。そういえばあれには不明部分がある。あの現場で基礎部分の魔術基盤は見ているようだから、あれがどういうモノなのか伽里奈(アリシア)も解っている。


 こいつ、やけに細かい設定のゴーレムを作ってなかったか? と霞沙羅は思い出した。


 冒険中には盗賊対策にダミーの傭兵団とか村人を作っていたというし、ゴーレム? というようなモノを作るようだから、ひょっとしたら何か解るかもしれない。


「吉祥院に聞いてみるか…」


 研究は難航しているし、伽里奈(アリシア)に詳しく見せていいモノかどうか聞いてみよう。


 そもそもシールが研究出来るまで時間を稼いでくれたし。これまで軍には散々協力してくれているから、文句を言われることは無いと思うけれど、断っておかないといけない。


「それから、実技試験の練習がしたかったら言えよ。休み中だし大学の施設くらいなら借りてやるぜ」

「はーい」


 霞沙羅の家には、魔工具や魔装具製作に必要な強力な結界装置があるからそこでも練習しているけれど、かなり狭い。たまには少し広い場所で魔法を放った方がいいだろう。


「それで、シャーロットは明日どっかに出掛ける予定とかある?」

「無いわよ。レポートやらないと」

「じゃあ榊さんの歓迎会は明日やっていいかな?」

「いいわよ。何食べるの?」

「中華だよ」

「またずらって並べるの? 並べましょう。そうしましょうよー」


 歓迎会と聞いて勝手にテンションが上がるシャーロット。この数日間の実家生活で、家の料理がいまいちだったのかなと邪推してしまう。


「餃子、餃子なら作るわよ!」

「じゃあ、餃子を包むのは任せようか」


 料理を覚えようというのだから、料理に自信を持ってくれるのはいい。


 折角の自信を傷つけないように、餃子包みは任せようと思う。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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