次なる課題へ -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
伽里奈とエリアスが飛行船での旅をしている裏で、霞沙羅は榊を車に乗せて札幌を案内していた。
冬の北海道は以前から短期滞在ながらも何度か経験している榊でも、雪の積もった道路を走る車にはいまいち慣れない。
霞沙羅は小樽に来てから4年が経っているので、車が四駆だからとかだけでなく、雪道での運転も慣れているのでそのハンドリングには全く危なげが無い。それでもアスファルトもろくに見えない道というのがなんとも…。
「お前も一応車の運転を求められるわけだから、駐屯地でちょっとでも慣れておくか?」
神奈川っ子24年の榊にそんな技術はそんなにいらないと言えばいらないけれど、急に冬の箱根で事件があったり、北関東に救援で派遣されることもあるだろうから、速度は遅くても、雪道での車の運転を覚えておいていいかもしれない。
「オレも色々課題が出てきたな」
「しっかりやどりぎ館を楽しんでいけよ」
二人きりの車内でデート的な雰囲気になる事を恐れていた霞沙羅も、結局会話が軍人としての技術についてになってしまうので安心している。
別に夜の藻岩山や大通公園周辺などのムーディーなところに行くわけでも無いし、外出用のコートを買いに行って、ちょっと札幌市街地を車で流すだけ。
大丈夫大丈夫、と心の中で呟きながら車を走らせる。
それはともかく、榊のやるべき事は魔力を操れるようになる事。
剣の腕ではヒルダとハルキスよりもちょっと上ではあるけれど,やっぱりアリシア達の冒険者時代の話を聞くと、初級でいいから、牽制か回復か補助か、何かの魔法を使えるようにした方がいい。
榊に魔力適正はあるので、基礎知識は霞沙羅と吉祥院で教えてきたけれど、実際に魔法を使えるようには教えていない。
「あのアンナマリーも結構早めに回復系の魔法は使えるようになったから、伽里奈のヤツに頼んでみるのもいいかもな」
正直いって、能力的にはそこそこしか持っていないアンナマリーが、今では騎士団内でもちゃんとバックアップの役割も持っているくらいだから、榊なら問題無く使用出来るようになるだろう。
「私はライアがどういう魔法の使い方をするのか見てくるぜ。伽里奈から話は聞いているが、やっぱり実際見てこないとな」
「伽里奈君の所のメンバーは面白いのが多いようだからな」
神官のイリーナはそんなに特徴はないようだけれど、神官でありながら凄腕の鈍器の使い手なので、聖騎士認定されているとか、やはりちょっとおかしい。
両手持ちの武器を持っているので、霞沙羅も気に入っているし。
「しかし上層部がよくこの妙な引越を認めたな」
「それについては、やどりぎ館だからな」
小樽に住んで札幌に勤務する霞沙羅や海外留学の下宿先がやどりぎ館というシャーロットは問題にならないけれど、北海道に住みながら横須賀基地に勤務という馬鹿げた引越が通るのか、というと、それが運営者の神に選ばれた人間の特殊性と言える。
そもそもアンナマリーがしばらく誤魔化せたのも、たかが人間ごときの思考程度を弄れる神の仕業だ。
結局人事部門でも個人データの更新や、税金の納付地の設定をしているけれど、そのおかしさを誰一人気にすることはない。
役所だって所詮お役所仕事として住民票の移動をするだけ。
同僚間でもどこかで会話が破綻しそうだけれど、「中佐は北海道まで転移出来るのかー、いいなー」で終わってしまう。
「まあ楽しんでいけよ」
その後は、コートや靴を買って、狸小路商店街を歩いたり、たまにロケで使用されるテレビ局の正面入り口が見える道を走ってあげたら静かに喜んでくれた。
* * *
やどりぎ館に帰ると、ロビーの広いスペースにフィーネが仕事着兼普段着としてのドレスを10着ほど並べて、伽里奈とエリアスを交えて、写真を撮ったりしていた。
当然全部黒い。
「お店の外には出るんですかねー?」
「企画書を見せて貰ったけど、お店のロケから始まって、その後は予めフィーネと番組で決めた場所までロケバスに乗ってついて行くようよ」
「丸一日拘束されるんですね」
「別にそれは良いのじゃ」
「何してるんだ?」
買い物から帰ってきて、ひとっ風呂だ、とやって来た霞沙羅の目に奇妙な光景が広がっている。
「フィーネさんがテレビに出るじゃないですか。それで吾妻社長から何着か服の候補を提示しておこうって言われて、それを選んでる最中です」
「そんな話しがあったな。何でお前は、前にウチから貰った白い服を着てるんだ?」
フィーネが着ているのは白いジャケットと、大胆なスリットの入った白いロングスカート。中のシャツは黒だったりするけれど、いつもとは違う結構新鮮な服装をしている。
「黒い服を着ておっては見分けがつかぬであろう?」
「霞沙羅さんの白と褐色はいいですけど、フィーネさんの白と褐色と金髪ってのもなんかいいですよねー」
霞沙羅は健康的な日焼けをしてるだけというレベル、フィーネはエキゾチックで南国感のある日焼けというレベルで、濃さが違っていてより白が映える。
そんな事を言った伽里奈の頭をフィーネがはたいた。
「そ、そのようなことを言って我の機嫌をとろうとするでない」
フィーネの肌色のせいで解りづらいけれど、顔を赤くしてなんとなくまんざらでも無い顔をしていた。
「霞沙羅的には良さそうなのはある?」
「えー、私か? いやまあ、ロケの内容もあるだろうし、季節も冬だしな。寒々しいデザインは止めた方がいいだろ。上を着ればいいが、下手したらギャグになるぜ」
出演陣について行くという事は、外に出る機会もあるだろうし、結局上に何か羽織ることにもなるだろうけれど、ロケ車内での撮影もあるだろう。でも季節は冬。北海道の真冬。
肌の露出の多い服となると、見ている方が寒くなる。
「何をする番組なんだよ?」
エリアスが持っていた企画書を見てみると、新春に向けた道央のラッキースポット巡り、だった。
「肌は見せない方がいいな」
「じゃあこれかしら」
エリアスが一つ候補を挙げる。袖もあってショールもセットなのでそれなりに温かそうではある。
「何の番組なんだ?」
榊が、霞沙羅の手の中にある企画書を覗き見した。
「何って、お前が見てる常務がどうとか言う番組だよ。今日は放送日だから見るんだろ?」
「む、フィーネさんはあの番組に出るというのか?」
「そうじゃよ。まあエリアスが世話になっておる、我の常連の2人が出ておるしのう」
「誰の話だ?」
「あの新アシスタントの2人だよ。エリアスはあいつらの事務所に所属してんだよ」
「そんな関係があったのか?」
榊はメインMCのファンであって、新規参入の2人のモデルは必要以上には気にしていない。
それでもこの館の人間があの番組にちょっとだけでも関係していて、ほんの少しだけテンションが上がった。
「フィーネさん、いいなあ」
ほんの少しでは無かった。
「お前にしちゃ珍しい台詞だな」
「有名人のお前も出ればいいのに」
「番組のコンセプトが民間企業紹介だからな。それに2日前の礼拝イベントで全国生放送とネット配信で出たからもういい」
そういえば榊は国民的人気者の彼氏だったんだなあ、と改めて伽里奈は思った。
榊自体も人気があるし、英雄の一人だし、釣り合いは取れているんだけど、霞沙羅のアイドル活動についてはどう思っているのだろうか。
まあエリアスはまだまだ、札幌でも別に大きな仕事をしているわけじゃないからいんだけど、ちょっと今度そういう心構えでも訊いておこうかなと思う。
「じゃあ、この3つを写真に撮って、吾妻社長に転送しておくわ」
「頼むぞ、小娘」
邪龍神様もこのイベントを前にして少し楽しそうだ。
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