英雄様のお引っ越し -4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
夕食後は予定通りにフィーネ達は大人3人で、とりあえずの歓迎という事で牡蠣と刺身と天ぷら等を肴に、根室で買ってきた日本酒を熱燗にして飲み始めた。
「北海道にも美味い酒があるんだな」
「最近は食う方の米も美味くなったぜ。伽里奈のヤツも普段は北海道米ばかりを選ぶしな」
「お主はワインは飲まなんだか? ビールも良いがワインも良い」
「ワインは山梨の知り合いがワイナリーをやっていますよ。買う時はそこから買ってますね」
「ほほう、我が知っておるワイナリーではあるまいな?」
これまで北海道に住んだことはないけれど、何度もやどりぎ館には来ているので、榊はすんなり住民として入ってきている。何人か出入りはあるけれど、フィーネは変わらずにいるし、恋人の霞沙羅も居る。
知らないのはアンナマリーとシャーロットくらいなので、今の入居者からするとどちらかというと古参に入るから、妙な緊張はしていない。
そのアンナマリーはというと、東洋の「騎士」とも言える「侍」というものに興味を持っているので、どういう人となりなのか、榊の会話が気になっているようだった。
榊は性格もあるのだろうけれど、物静かで、歩いている姿はいつも背筋が真っ直ぐだし、今酒を飲んでいるけれど、座り方もだらしなさがない。見るからに高潔で、騎士に通じる精神を感じるので、アンナマリーのいつもの男嫌いは発動していない。
それにヒルダやハルキスに勝るとも劣らないあの強さを見ているので、自分もちょっと相手をしてくれないかなとも思っている。
「あの『気』っての何なんだ?」
テーブルで仲良く酒宴をやっている大人達の邪魔は出来ないので、そこから離れたソファーに座って料理本を見ている伽里奈に話しかけた。
「素手の格闘家のユウトさんが一番上手なんだけどねー、魔力じゃなくて、人間が生来持っている体内エネルギーの事だよ。これは魔術みたいに適性を気にしなくていいから、誰にでも使う素質があるんだー。
ただまあ、日々体を使っている、何らかの武術の下地がないとダメだけどねー」
「だったらシャロでも出来るのか?」
「人間なら誰でも出来るけど、シャーロットは最近杖で護身術をやり始めたばかりだし、それで戦う気は無いから、望み薄かなー。やっぱりその、剣術とか武術とか、日常的に白兵戦が出来る鍛え方してないとダメだから」
あの最強剣士達のバカみたいなぶつかり合いを見て『気』がどうのと言っていたので、アンナマリーも興味を示してきた。
もし自分でも使えるのなら、この家にいる間に身につけておきたいと思う。
「私はどうだ?」
「出来るとは思うけど、アンナマリーだと時間はかかるよ。ヒーちゃんとかは一ヶ月くらいであれだけど、元々無意識でやってただろうし、思ったより張り切って鍛錬してたみたいだからねー」
「時間は別にいいんだが、伽里奈や霞沙羅さんも出来るんだろ? だったら私もやる」
やる気があるのは大いに結構だけれど、果たしてどこまで出来るだろうか。外に出すのは無理にしても、肉体強化くらいまで出来れば、剣士としては上々かとは思う。
「まずは『気』を体内で練るところからだから、毎日短時間で良いから、どこかのタイミングでやるって決めてね」
「はい」
やるというのであれば、とりあえずはアンナマリーの部屋に行って、ベッドに座って貰って、深呼吸をしてから、目を閉じて貰って
「ごめんねー、ちょっとお腹を触るからねー」
伽里奈はアンナマリーのへその下辺りをそっと撫でた。
「え、ええー」
「まずはこの辺にね、力をこめるように意識してねー」
いきなりの事に、危うくひっぱたくところだったけれど、当のアリシア様は「え、何?」みたいな顔をしているので、指摘するのはなんか悪くなって手を引っ込めた。
「この、おへその下辺りだよ」
「は、はい」
まあこの人はエリアス以外は異性として興味ないみたいだしな、と心を落ち着かせて、アンナマリーは目を閉じて、何となく伽里奈に言われた場所に力をこめるように意識を集中する。
「多分ねー、雑音無しに集中出来る、人のいない自分の部屋でやった方がいいと思うよー」
「は、はい」
「お風呂上がりとか、ちょっと体と気持ちが落ち着いた時に短時間でいいから、毎日続けていってね。何となく上手くいったかなと思ったら、今度は剣を持って素振りしたりして貰うからね」
「はい」
残念ながらヒルダやハルキスの時のようにはいきなりは『気』の集中は感じられないので、しばらくはこれを続けて貰おうと思う。
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