英雄様のお引っ越し -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
外から戻ってきたレイナードと一緒にヒルダがジェラルド将軍との挨拶を終えると、まずは誰からやるかの順番決め。今回は総当たり戦というか、それぞれ2人と戦う予定だ。
榊もやりあうだけでなく、動きの研究としてヒルダとハルキスがやりあうところを外側から見てみたかったので、早速それが叶うことになった。
「今度は外でやらない? リミッターの調子を見た外の演習所があったよねー?」
「今日は野外演習をしてるのよ」
先約がいるなら仕方が無い。
「先生、今度でいいんでちょっとオレの魔剣も相談に乗ってくれないか?」
「お、改造する気になったか? いいぜ」
ハルキスのハルバードも攻撃力は高いけれどそこまでピーキーな性能ではないので、相談は恐らく力の変質だろう。霞沙羅としてもそっちの方が面白い。
ただ、今日は持って来ていないので、また次回だ。
そして 第一戦目は榊とハルキス。
これに対してはアリシアと霞沙羅で結界を作成して、早速2人が鍛錬を始めた。
霞沙羅が作った練習用の剣とハルバードは英雄である2人の腕を持ってしても壊れる気配が無く、安心して全力を乗せられるので、嬉々として斬り合いが続いている。
「ねえねえ、ハルキスも気をちゃんと扱えているから、今日は気を使った技法を教えて帰るねー」
「やっとなのね」
以前に一度だけアリシアがさらっと見せてくれたり、霞沙羅が見せた妙な技。それがようやく自分でも使えるようになるのかと思うと、気持ちもたぎってくる。
でもその前に鍛錬だ。
「瑞帆のヤツ…」
思わず霞沙羅が名前で呼んでしまったけれど、榊はとても楽しそうにハルキスとの斬り合いをを行っている。
霞沙羅が北海道に行ってしまい、所属の横須賀だけでなく全国を探せば猛者と呼ばれるレベルの人間は、警察を含めてそれなりにいるのだが、やはり3人のリーダーである霞沙羅の腕は軍の中では大きく飛び抜けている。
それが遠くに行ってしまい、たまにしか一対一で自分の実力を出せる霞沙羅との鍛錬が出来ないし、指導の仕事が増えてしまったので不満のある生活が続いていたけれど、先日からはこの異世界の英雄であるヒルダとハルキスとの緊張感のある鍛錬を行う事が出来る。
その嬉しさが顔に出てしまっている。
それであればこの2人とは別の人間も紹介したいので、霞沙羅はアリシアに質問をした。
「この前の、ドラゴンに乗ってたキールとかいうのはどの程度の腕なんだ?」
「キールは、地形の恩恵がないライアくらいかなー」
それでも大陸では名の知れたかなりの実力者ではある。
基本的には2人だけで冒険者をやっていたのだから、そのくらいあっても不思議ではない。
ちなみにルビィに弱いと言われていたレミリアの魔術の腕は、アリシアにも劣るけれど、魔術師業界から見た位置的には、キールと同じ程度といえる。
「霞沙羅さんもキールに会ったのね?」
「先日サイアンで一悶着あったからな。その時にな」
「キールは霞沙羅さんを神官だと思ってるみたいだけどね」
ザクスン王国では神殿でオルガンを演奏した時に、今も着ているこの戦闘服を着ていたのが大きい。
「あの国では斬り合いをしてないからな」
しかも音楽を使った神聖魔法を使ったので、剣士兼魔術師というスタイルを知らない。
「キールで思い出したけど、そういえばアーちゃん、天空魔城で借りたままのランサーを返すわよ」
「あ、忘れてた。最後の方はシスティーの青い剣を使ってたから、ぶら下げてただけだったねー」
「なんだ、こいつが槍を使うとか聞いてないぞ」
「どこかのダンジョンで見つけて、誰も使わないから、ヒーちゃんかボクがたまに馬に乗った時に使ってただけなんですけど。だからそんなに上手くないんですよ」
最後の戦いの時に、リーチの長い敵対策のためにヒルダにランサーを貸していた。
それをアリシアが帰ってきた時のために大切に保管をしていたけれど、これまでのゴタゴタですっかり忘れていた。
「後で見せろよ」
「いいですけど、槍っていうかランサーですからね」
2人の戦いを見ながら雑談をしているところに、驚いた表情でジェラルド将軍達ご一行様がやってきた。
「な、何が起こっているのだ?」
結界の中で何やら人影が高速で動き回っているのは解る。しかし2人の武器がぶつかり合う度に大小の火花のようなものが散っている。
「ハルキスと、アリシアのいる世界の英雄が鍛錬をしているんですよ。この後は私もやるんですけど」
「いや、しかし、これは」
ジェラルドは槍の名手。ずっと将軍というわけではないから、ワグナール帝国が周辺国相手に頻繁にちょっかいを出していた若い頃はちゃんと前線に出て、その槍で数々の敵を討ち取って、フラム王国を守ってきた猛者の一人でもある。
ハルキスはローテーションで近衛騎士団に駐在することがあって、若い頃慣らした腕前でもって相手をして貰うこともあって、その腕前は解っているはずだったけれど、どうやら大夫手加減されていたのが解った。
こんなのの相手をするのは無理だ。
「これが大陸を救った英雄なのか…」
じゃあ相手は誰なのよ、と興味が沸く。向こうの世界の英雄とか言っていたけれど、互角の戦いを繰り広げている。
いや、相手の方がやや優勢だ。
「…」
将軍の護衛の為にラスタルからついてきた部下の騎士達も、目の前で起きている超人同士の戦いに言葉が出ずに、ただただ目が離せない。
それとこんな2人を閉じ込めている結界を作っている、アリシアのもう一人も気になる。
「今日は霞沙羅さんなんだな」
「吉祥院が最近来てねえだろ」
「アンナマリーはこっちの女性を知っているのか?」
アンナマリーが霞沙羅と会話をしたので、事情を知れると思い、ジェラルドは質問してみた。
「下宿の同居人ですよ。その、あの中にいる人と同じ、向こうの世界の英雄の一人です」
「将軍、少し前の火山対策を提案した人なんですけど」
アリシアが追加説明すると、ジェラルドは思い出した。
確かに以前に見たことのある顔だ。
「あの指輪を王から渡された女性か。タウ殿も一目置いているとかで色々と聞いている」
先日もラスタルを襲ったガーディアンの多くをバラバラに解体したことも聞いている。
ランセルからもラスタルにちょくちょく姿を現しているとは聞いていた。
今日の霞沙羅はいつもの戦闘服状態で、謁見で会った時の制服姿ではないので、ぱっと見では解らなかった。服装の印象というのは結構あるものだ。
「あの子の実力は解らなかったけれど、あれだけの結界を作れるのね。アリシアちゃんと互角っていうのも、本当なのね」
将軍と一緒にやって来た、天望の座の一人、賢者ルーシーは、霞沙羅が魔法を使うところを初めて見て、評価した。
ルーシーは80才を超える老人だが、見た目は40歳くらい。これは有り余る魔力がなせる技で、威厳が欲しいので老人の姿のままも多い中、彼女の場合は若い姿を保っている。
「アリシアちゃん、パスカールのお家の料理はどうなっているの?」
「お金を出してくれるからボクとしても優先状態になってまして、騎士団で出せないお値段高めな料理はヒーちゃんが屋敷で食べてますよ」
「今晩はささやかながら酒宴を催させて頂きますよ、賢者様」
「そうですか、期待させて頂きます」
この人、何しに来たんだろうか。以前のハンバーグパーティーの時も参加していたけれど、他のお爺さん達と一緒にはしゃいでいたのを見ている。けれどさすがに食べに来ましたという事は無いだろう。
やがて2人が動きを止めたので、結界を解いた。
「いやー、お前は底が知れないな」
「これからは楽しみだな。ここまでの人間と気軽にやれるんだからな」
男同士でがっちりと握手をして、第一回目の鍛錬を終えた。
ハルキスは21歳、榊は24歳。ちょっと年の差はあるけれど、この場でそういうのはいい。お互いに強い、まだ何回かしか会っていないのにとっくにそういう信頼が芽生えている。
「よしよし、次は私ね」
引き続き、ヒルダが向かっていく。
「やっぱあいつ良いわ。鍛錬もいいが、なんだろうな、互いの技を語りながら、実演し会う機会も欲しいぜ」
やっぱり語り合う時間も欲しい。その辺はまあ、榊がハルキスをやどりぎ館に客人として招けばいい。そしてそれは今後出来る。
「ヒーちゃんにも言ったけど、この後『気』を使った技を教えるからねー」
「おう、前に先生が使ったようなヤツだろ。頼むぜ」
ハルキスは一息つくために側にあったベンチに座った。その顔はこれ以上無いほどに満足していた。
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