まずは新しい年の始まり -6-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「これ、すごすぎよね」
実家に持って行くのよと、昼食後からシャーロットは餃子作りに励んでいる。
伽里奈が用意した材料を、魔法で細かく刻んで、混ぜて、調味料で下味をつけて、中の具を作り、今は100円ショップで買ってきた道具を駆使して、餃子の皮と具を包んでは、36個の目標を掲げた餃子を作っている。
伽里奈は慣れているので手作業で綺麗に包むけれど、完全初心者のシャーロットが作るとなると、もうこれしかない。
耐久性とか、包む具の量とかで、伽里奈的には「プロ仕様の方が良くないかなー」とは思うけれど、出費はたったの100円。それでも形は揃っているし、シャーロットは満足しているから、悪くはないだろう。
プロ仕様といっても2000円くらいなので、滞在を終える時にでもお土産として買って帰ってもいいかもしれない。
ロンドンで餃子の皮が手に入ればだけど。
包み上がった餃子は、さすがにロンドンの実家で焼ける人はいないし、シャーロットも無理なので、伽里奈が代理で焼いてあげて、お昼か夜ご飯時に電子レンジで温めて食べて貰う。
餃子のタレもスーパーで買ってきてあるので、それも一緒に持って帰る。
「袋麺の作り方も覚えたよね?」
今日のお昼ご飯はシャーロットだけ袋麺だった。弟妹が泊まりに来た後にも一回作ったけれど、その確認の為の行動に、何としても実家で食べるという彼女の意気込みを感じた。
「ちゃんと作れるわ」
「心強い答えですね」
システィーから見ても、シャーロットは一歩一歩料理への道を歩んできている。
次は自分の手で何かを焼いて貰うのがいいだろう。ナポリタンは出来たけれど、ハンバーグでもいいし、目玉焼きでもいいし、焼き物をちゃんと自分で完結させるのが重要だ。
出来上がった餃子は伽里奈がきっちり焼きあげて、時差対策でちょっとお昼寝をしたシャーロットは、裏の扉からロンドンの実家に帰省する時間になり、ちょっとした荷物を持って部屋から出てきた。
「なんかお土産が多いみたいだから、持ってくけど」
食品系のお土産が多い。北海道は色々有名なお土産品があるし、日本全体で見てもレトルトとかインスタント品も多い。路地裏から家までちょっと歩かないといけないから、重い方は伽里奈が持ってあげて、裏口から出ていった。
家と家の間の路地を抜けて通りに出て、道路を渡って、ホールストンの家への帰省はあっという間。
サイズ的には、今ルビィが住んでいる屋敷より少し大きいくらいの、こぢんまりとした建物だ。
自分がいつかラスタルに建てる事になるだろう家も、こんな感じでいいと思う。その時は間取りとかを参考にさせて貰えればと思う。
「ちょっとパパが挨拶したいって」
シャーロットに招かれて、屋敷の中に入っていった。
時代的にはアシルステラよりはもっと近代に作られたであろう建物なので、伽里奈もあんまり馴染みがない洋館だけれど、日本の、例えば中瀬とか早藤の住んでいる日本的一軒家よりはよっぽど肌に馴染む。この国の普段の生活というのもちょっと体験してみたいものだ。
「パパー、今帰りました」
家族は朝食を終えている時間。こちらも新年で職場もお休みなので、居間で新聞を読んでいたシャーロットのパパに声をかけた。
「ああお帰り、シャーロット。後ろの彼が伽里奈君かな?」
「あ、はい、お邪魔してます」
「引き留めてすまないが、娘が世話になっているから、挨拶がしたいと思ってね」
シャーロットのパパさんはきちんとスーツを着た、ジェントルマンと言った風貌の男性だ。とても落ち着いた感じ。この国には「紳士」という言葉があるが、まさにそれ。
シャーロットがお土産や餃子を片づけている間に、ママさんや祖父母も挨拶をしてくれて、部屋に引っ込んでいたロイドとリイナも顔を出してくれた。
アンナマリーのパパさんはジェイダンという。これからシャーロットの通う事になる大学の教授の一人であり、協会所属の高位の魔術師である。そして、警察に協力する魔術アドバイザーもやっている顔の広い人。
もう引っ込んでしまったけれど、お爺さんは「編纂会議」という魔術師協会のトップ集団の一人で、本当にシャーロットはこの国のエリート実家育ちだと解る。
そんなジェイダンさんからは普段の娘の生活を訊かれたり、先日のロイドとリイナの滞在について、とても良くしてくれたとお礼をされた。
「パパはこれから出掛けるの?」
「ああ、こんな時だが、協会の臨時対策会議があってね」
スーツを着ているのはこの後出掛けるかららしく、これがなければ普段はジーンズのようなラフな服装で過ごしていたりする。
「伽里奈君はキャメル盗賊団を取り押さえた一人だったね?」
「ええ、そうです」
「あの連中が逮捕されて魔術師達は一息ついていたところだったが、また別の宝物ハンターの動きが確認されてね、新城大佐か吉祥院中佐にこれを渡しておいてほしい」
ジェイダンさんは側にあった書籍に挟まれていた封筒を伽里奈に差し出してきた。
「パパのお出かけの目的ってこれ?」
「ああそうだ。狙いは我が国の宝物ではないようだが、他国に移動する前に対策をしておきたい。出来れば逃がしたくはないが、かなりの実力者でもある。どこかはまだ絞れていないが、先に日本にも情報を渡しておいて欲しい。新城大佐が判断するだろう」
「はい、わかりました」
また面倒事かなー、と伽里奈は中を確認しないようにして封筒を受け取った。
* * *
ロンドンから帰ってきて、伽里奈はジェイダンさんから預かった封筒を霞沙羅に渡した。
霞沙羅は中の書類を確認すると
「まあ軍とは関係ないだろうが、明日にでも協会に提出しておくか」
実際は警察案件だけれど、一旦は協会に目を通して貰ってから、警察に情報が流れていくことになる。
「そういえば、宝物庫の情報交換てどうするんでしょうね」
「そうだよな。こんな手紙も貰ってるしな、吉祥院にも訊いておくか。お前の方も、あの賢者達が楽しみにしているようだしな」
その話し合いになると、双方の技術に通じている伽里奈が間に立たないとダメだから、出席することになるのだろう。
それに吉祥院の所にいる時に宝物庫を見せて貰っているので、全部ではないにせよ、横浜校の宝物庫のセキュリティーは解っている。
「榊さんは何日に引っ越してくるか訊いてます?」
「あいつの出張は明日までだから、明後日かな」
既に殆どの荷物は運び込んでいて、いつでも住めるように部屋は整えられているから、後は来るだけ。
「シャーロットが帰ってきたら、歓迎って事でちょっと良い夕飯にでもしましょうねー」
「ジンギスカンか中華料理にしようぜ」
年末年始も仕事だったので、その代わり霞沙羅と同じで休暇がずれる事になっている。
「休みの日程が重なりましたけど、2人でどこか行くんですか?」
「おまえ…」
「札幌くらい案内するんですよね? 北海道用の服も買いたいみたいですし」
2人で、とか言うから早とちりしてしまったけれど、言わんとしていることは登別とか旭川に旅行で一泊とかそういうデート的な話ではなくて、単純に生活圏の案内をしないのか? という話だったことで霞沙羅は顔を真っ赤にして伽里奈の頭をはたいた。
「何するんですか」
「お前が変なことを言うからだ」
「えー、ひどいなー」
「いいから飯でも作ってろよ」
ホントに困ったお姉ちゃんだなー、と苦笑いしつつ、夕飯を作るべく伽里奈は厨房に引っ込んだ。
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