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まずは新しい年の始まり -2-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 楽しい昼食も終わって、アリシアはアンナマリーを連れてエバンス家の屋敷にやって来た。


 屋敷の前の門番はアンナマリーお嬢様が見慣れない服装をしているので驚く事になった。


「向こうの民族衣装なんだ」

「そうなんですか。なかなかお似合いですよ」


 髪型も、いつもの片方寄せのポニーテールではなく、後頭部でアップにして髪飾りもつけた、ちょっと賑やかな髪型になっている。


「お父様がいるな」


 ランセルが出勤する時に乗っている馬車が玄関先にいる。今日はお休みなんだろうか?


 そんな事を疑問に思いながら、今日もスーツ姿のアリシアを連れて屋敷の中に入った。


 出てきた執事から家族が集まっている部屋に案内してもらうと、中ではランセルが屋敷の警備担当と家族を相手に何かを話している所だった。


「あの、お取り込み中ですか?」


 実家ではあるけれど、妙に真面目な話をしているので、アンナマリーは遠慮がちに入っていった。


「おお、アンナマリーか、折角だしお前も…、アリシア君がいるじゃないか」

「ボクになんかありました?」

「先日、ファースタイン家のリアーネ嬢を助けたのは君だったな?」

「ああー、そうでしたね」

「なんだ、リアーネがどうしたんだ?」

「何日か前に、なんか町中で誘拐されそうになってたから、助けたんだけど」

「ええー」

「結局あれって何か、裏でもあったんですか?」

「所持していた魔工具の入手経路を調べたら出てきたよ。首謀者は取調中だが、それよりもこの屋敷の警備体制を一度確かめておこうとしていてね」


 アリシアはお城の人事関係は知らないけれど、その内の中間くらいに位置している人物がファースタイン家に脅しをかけようと、人を雇ってリアーネを誘拐しようとしたそうだ。


 それもあって、他の家もちょっと慌てているとのこと。


「そうですか、じゃあまあボクはそういう気密情報は聞かない方がいいので、一旦失礼しますね」


 貴族のお屋敷の警備状況など下手に聞かない方がいい。それに警備として雇われているわけでもないから、アリシアは屋敷を出ていった。


「折角だし、劇団にでも行こうかな」


 劇団はもう公演が始まっているだろうから、ひょっとすると今は入れないかもしれない。そうなったら出直そう。


「休みの間に見に行かないとねー」


 それは約束だし、あのマリナが自分をどう演じているのか気になる。


 とりあえず公演時間を知らないので、それも確かめないとダメだ。


 劇場に近づいていくと、ちょうど公演が終わったのか、中から人が出てきている。劇の内容からいって、この服装だと何か言われかねないので、適当な家の屋根の上に隠れて、人の流れが落ち着いたところで劇場に近づいた。


「あのー、アリシアなんですけど」


 観客を全員送り出して一息ついている劇団員さんに声をかけた。


「アリシア様じゃないですか。本日一回目の公演が今終わった所なんですよね」

「そうなんですか」


 入り口付近には看板が出ていて、公演時間が描かれている。毎日2回やっているようで、お昼過ぎと夕方に予定されているようだ。


 見に来るならお昼過ぎを狙うのがいいだろう。


「あ、アリシア様、ちょっと今時間あります?」


 入り口からドレスを着た女の子が1人出てきて、アリシアの手を掴んできた。


「え、まあ時間はあるけど」


 アンナマリーの用事はさっきの件もあるだろうからもうちょっとかかるだろうし、少しくらいならとアリシアは中に引っ張られていった。


 劇場内では客席エリアの清掃が始まっているけれど、その座席の一つにマリナが座って舞台の方を見ていた。


 服装は冒険者っぽい軽装の鎧姿。物語の最後に旅立つから、劇のメイン部分とは服装がと違うのだろう。


「マリナ、アリシア様が来てくれたよ」

「え、ああ、アリシア様、私を抱いて下さい!」

「ええー、なんでさ」

「マリナ、そういう話じゃないでしょ。あのですね…」


 事情を聞いてみると、マリナはちょっとスランプらしい。


 劇の方はは特に、劇団の皆もちゃんと出来てると言うけれど、本人的はなんか納得していないという。


「こっちのキミがお嬢様役?」


 アリシアを引っ張ってきた女の子は、ボディーガード対象のお嬢様役。


「ど、どうです? ご婦人にも話しを聞いて演技をしてるんですよ」


 さすがに劇の衣装なので、本物のお嬢様と生地は違う、と思いきやなぜか出来がいい。


「それ本物?」

「ちょっと違ってまして、折角やるんだからってご婦人から当時着ていた別のドレスを頂いたんです」


 なるほど、あの当時お嬢様だった、いまやどこかの貴族婦人も公認している劇なのだ。


 ここまでやってるんだし、もう本人の中では若い頃の良い昔話になっているのだろうか。


「マリナはモートレルで本物のアリシア様に会ってから、なんかだんだん考え込むようになって」


 本物に出会って、ちょっと話をして、そうしたら「本物とは?」と考えるようになっていってしまった。


「折角だから演技を見て貰ったら? アリシア様も同じ服を着てるんだし。私も付き合うから」

「アリシア様、いいですか?」

「いいけどー」


 時間も全然あるから、ちょっとくらい付き合ってもいいと思う。


 そうしてマリナは一旦楽屋に引っ込むと、執事姿になって帰ってきた。


「いいじゃんいいじゃん」


 それでもアリシアの方が背が高いけれど、同じような服装でマリナの横に立ってみる。


「でもちょっと違うなー。あれ以外でもこういう事は何回かやったけど、ボクはずっと髪が長いからねー、仕事の邪魔になっちゃうじゃん?」


アリシアはマリナがただ後ろで一本に結わえていた髪を、三つ編みにして、右の肩から前に垂らした。


「今はツインテールにしてあるけど、こういう時はこうしてたねー。ルーちゃんはちゃんと教えなかったのかなー」

「他に何かあります?」

「えー、なんだろうねー。何かボクこんな感じの服を着ると動きが男っぽくなるらしいんだよねー。ボクねー、普段はやや内股っぽいみたいなんだけど、ああやっぱり」


 今のアリシアの脚は微妙に左右に広がっている。


 なのでマリナも角度を合わせて姿勢を変えてみた。こういう細かい事でも気持ちは変わってくる。マリナの表情も真剣さを帯びてきている。


「じゃあ演技やってみよー」


  * * *


 アリシアが見ている前で舞台に立ったマリナ達は、お嬢様の部屋での二人きりの場面の演技をやってみせた。


 劇団は休憩中でセットや小道具がないので、せめて椅子だけ置いてお嬢様のお部屋での一場面。


 貴族の箱入りお嬢様だったからあんまり屋敷の外に出ることも無く、出たとしても馬車の中からだったり、よそのお屋敷くらい。そんなに外の事も知らなかったから、普通の男とはちょっと違うアリシアを気に入って、寝る前には親が子供に昔話を聞かせるように、色々と訊かれたモノだ。


 そんなワンシーン。


「ど、どうです?」

「いいと思うよ」


 なんとなく、女の子同士という場面に見えてしまうけれど、よく出来ている。


「これ、なんかすごくいいです」


 マリナ的には三つ編みが良かったらしく、手で弄っている。やっぱり本人からのアドバイスというのが大きかった。


「じゃあ今日の第二部からこれでやりましょうよ」

「うん、そうする」


 マリナもちょっと持ち直したようで、2人は舞台から降りてきた。


「あのアリシア様、夜ってどういう話をしてたんです?」

「えっと、冒険者としての話とか、魔法学院での話とか、あとは平民はどういう物を食べてるのかとか聞かれたなー。あんまりお屋敷の外を知らない子だったからねー」

「物語だとたった一日でお屋敷の仕事を覚えちゃったって話じゃないですか?」

「規模とか設備とかは違うけど、ボクは宿屋の子供だよ。洗濯も清掃もベッドメイクも出来たからねー。でも厨房には入れてくれなかったなー」

「アリシア様といえば料理が欠かせないのに?」

「平民の冒険者だからねー。でも結局厨房の人は平民出の人ばかりだから、仕事の合間に料理の話とか町で有名なお店の話とか、したなー」


 アリシアと面識なんかそんなにないのに、劇場に引っ張って来ちゃって、演技も見て貰っちゃって、そんな事に普通に付き合ってくれている。


 本物のアリシアはとんでもなく強くてすごい人なのに、男なのか女なのか解らない、どこかなよなよした動作を交えて、とっても距離の近い位置で話をしてくれる。


 だったらもうちょっと、本の中には描かれていない、普通のアリシアを知りたいと思って、2人とも冒険者時代の話しを色々と聞かせて貰って、劇場から出る頃にはマリナはスランプを脱していた。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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