まずは新しい年の始まり -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
元旦の朝は朝食を終えると早速エリアスとアンナマリーとシャーロットは袴に着替えて、徒歩で近くの寺院に向かった。
「霞沙羅は仕事に行っちゃったけど、これで良かったの?」
「霞沙羅さんはあんまり信心深くないからねー」
神様と付き合いがあるのだから信仰心も何もあったものじゃない。
と言ってもシャーロットだって今から行く寺院は自分の信仰する神様とは全く関係ない。でも折角日本にいるのだから、その土地のイベントに参加するという、エンタメを楽しんでいる。
勿論、実家に帰ったら地元の神殿に礼拝に向かうのだ。
「こんな服を着て外に出るとなんかこう、いつもの感覚と違うよな」
霞沙羅から防寒用のショールを受け取って、寒い中寺院に行く道すがら、町の人達も初詣客の姿がある。
「フィーネさんはその服装でいいんですかねー」
黒のドレスにダウンのコートを羽織り、聖誕祭の時にあげたマフラー。一体どこに行く人なんだろう。
「良いではないか」
まあこれ以上ツッコむと怒りそうなので、話題を変えて雑談をしながら寺院にやってきた。
「あそこに並んでいるのは屋台といっていいのか?」
お寺の参道には6軒ほどの屋台が出ていた。超一流のお嬢様なアンナマリーは、ラスタルの町にある屋台で何か買い物をしたことなど無いけれど、雰囲気は似ている。そこには焼き物のお店も出ていて、そこからいい匂いが漂ってきている。
「や、屋台!」
「シャーロット、参拝が終わってからにしようねー」
香ばしいいい匂いが「オレを買ってくれ」と誘ってくるけれど、まずは十円を握りしめて参拝の列に。
「袴姿ってのはいないんだな」
「普通は着物じゃないかなー」
三人は袴姿、しかも全員日本人ではないので目立つ。特にエリアスは背も高いし銀髪なので人目を引いている。
「あ、シャーロット、なんでそんなの着てるのよ」
「うわ、エリアスってやっぱ綺麗だよな」
地元民の中瀬と早藤の2人が先に参拝を終えて前からやって来た。
「なんかここだけ小樽っぽくないんだよな」
金髪3名、銀髪1名、赤髪1名。金髪の内一人は褐色。アリシア一行だけ見た目が日本ではない。ここが観光地なだけに観光客にも見える。
「うーん、屋台の方で待ってるねー」
こんな列の途中で話を続けるのは迷惑なので、2人は向こうに行って待つことにした。
「由布子は着物を着ないのね」
シャーロットは早藤が普通の服を着ていたので、ちょっとがっかりしている。
「日本人だからって着物を持ってるのって、あんまり聞かないよ」
「えー、そうなの?」
「そういう仕事の人じゃないと着る機会が無いからねえ」
周りを見ると、参拝者の中には着物の女性が紛れているけれど、多くは洋服。
「あれはあれで随分綺麗なんだが、あれも高いのか?」
「レンタルの人もいるだろうけど、霞沙羅さんに聞いてみれば解るけど買うとなると高いよ」
確かに生地に施された模様のレベルがかなり違う。
「でもやっぱりこれも特別な服なのね」
「より深く西洋文化が入ってきたおかげで、特別な時に着る服になってしもうたな」
10分ほど並んで、シャーロットはぎこちないながらもお参りを済ませて、中瀬と早藤の2人が待っている場所まで移動した。
「シャーロットすごい気合い入ってるわね。どこかでレンタルしたの?」
「伽里奈のを借りてるんだけど」
「そういやこいつが持ってたな。霞沙羅先生の家から貰ったってヤツだな」
早藤と中瀬でも1回か2回しか見たことはないけれど、伽里奈が女物の袴を持っている事を思い出した。
「折角日本に来たんだから、伽里奈が持っててラッキーだったわね」
「ところであっちの同い年くらいの子は誰なんだ?」
「あ、あれは…」
そういえばアンナマリーはこの2人の前に出たことは無かった。まさか留学生とは言えないし…。
「ロンドンの知人じゃよ。どうしても一度日本に来たいというのでな、シャーロットの父親が転送してきたのじゃ。どうせ明日にはロンドンに帰るであろう? その時にまた回収するのじゃ」
「儀式魔法だしね、一人増えるくらいじゃ影響ないから、折角シャーロットが海外留学してるからって、この機会に泊まりに来てるんだー」
「えー、そうだったんだ。仲いいんだね」
「う、うん。館には宿泊用の部屋もあるから」
「やっぱロンドンは遠いもんな。観光の機会があって良かったな」
フィーネのフォローに伽里奈が乗っかってきたので、中瀬と早藤は納得した。何といってもまだまだ魔術は初心者だ。上級者の伽里奈とシャーロットがそう言うのであれば、転移魔法とはそういうモノなのだ。
「2人はこれからどうするの?」
「どうって…、家が近くだから一緒に来てるだけで」
それはどうかなー。館の仕事があるのでこの2人との初詣はしたことはないけれど、毎年2人だけで来てるような話をしていたよ、と伽里奈は思うけれど、口には出さない。
「これから親類で集まるし」
「色々イベントがあるのね。折角なのに残念ね」
多分もうちょっと2人でウロウロすると思うよ、と伽里奈は何も言わない。
「じゃあオレ達は行くよ、下宿とは方向も違うしな。伽里奈、課題のことで相談があったら頼むぜ」
「うんいいよー。いない事があるけど、メールかなんかで残しておいてねー」
伽里奈もエリアスがいるわけだし、ともうちょっと2人で遊ぶべく、中瀬と早藤は行ってしまった。
「誤魔化せたわ」
未来予知の出来る女神様がいるから、予め自分の話に乗ってこいと言われていた。
「それで何か買って行くの? ボクの料理とかは気にしないで、今しか無いんだし楽しんだ方がいいよ」
と言っても食べる物は焼きそばとたこ焼きとイカ焼きと綿菓子くらい。
「じゃあ全部買うわ」
* * *
シャーロットの奢りで、食べる物を全部買ってやどりぎ館で二人は食べ始めた。
ソースモノが多いので服が汚れないように袖を縛って、紙エプロンを着けさせた。
正直、ああいった屋台の食べ物はそこまで美味しくはないけれど、これもまたイベント。エンタメが含まれた味がして、2人とも満足している。
「このフワフワなのはすごいな。雲か? 雲とはこんな甘いのか?」
「雲じゃなくて、綿菓子。お砂糖を加工したらこうなるのよ」
「すごいな、こっちの世界は」
綿菓子製造用の魔法を作った覚えはあるけれど、火と風の独立複合型魔法なのでとても難易度が高い。さすがにこれの魔工具は無いだろうか?
フラム王国で砂糖の量産が安定した暁には、ちょっと学院に相談してみようとは思う。
「のおエリアスや、我の服はそんなにおかしいか?」
「え、え、どうかしら」
急にフィーネがエリアスを捕まえて、自室に引っ張っていった。
「あれ、気にしてるのかな?」
最近黒い服がどうのと言い過ぎたのか、それともテレビ出演もあるからそれを意識しているのか。でも占い師として番組に出演依頼だし、やっぱり言いすぎたのかもしれない。
「フィーネさんものんびりしに来てるんだし」
それを言ったら自分はどうだという話だ。本人が気に入っているんだから、もうこれ以上は言うのはやめようと決めた。
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