大晦日の過ごし方 -4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
翌日の大晦日の日にはルビィにも冷凍箱を渡して、今晩の夕食である年越し蕎麦の準備も終えた。
蕎麦は向こうでも採れるので、いつかこの麵料理としての蕎麦は持って行きたい。めんつゆ問題が解決すれば…。めんつゆに頼らない食べ方があったような気もするので、調べておこう。
「年越しだといって、なんで特定の食べ物を食べるんだ?」
エビ天を揚げて、エビ天蕎麦とミニ牛丼が今日の夕飯だ。
アンナマリーとシャーロットは蕎麦をフォークで食べている。
後は大晦日のまったりした雰囲気の中でお酒を飲もうとしている女神様がいるので、ついでにおつまみも作った。
「諸説あるみたいだけど、長い食べ物だから長寿とか健康への願いとか、切れやすいから厄との縁切りみたいな意味があるみたい」
「こんな麵に意味があるんだな」
「こじつけだと思うけど、この国の人は勝ちたいからトンカツを食べるとか言葉の響きを運勢に繋げる傾向があるから」
「気持ちの問題であろうよ。ゲンを担ぐというてな、事象を契機と捉えるのじゃよ。起きる起きないかはともかく、これをやったからいけそうだ、という気持ちの切り替えに良いであろう?」
「この国の人って食べ物の名前や見た目にも意味を持たせるのね」
フィーネはもう焼酎を飲んでいる。
「霞沙羅は飲まぬのじゃな」
「この後鍛冶をやろうと思ってな」
「このような時に?」
「まあ色々あるんだよ」
明日も研究は続くので、適当に切り上げて寝るけれど、とりあえずは基本設計は作っておきたい。
「今年は色々ありましたねー」
「多くが小僧関連ばかりじゃ。管理人になり、住民の入れ替わりがあり、英雄として戻り、事件が発生し、まあとりあえずこの館は新年を迎えるわけじゃな」
アンナマリーが来て、国へ復帰し、二つの世界の英雄が顔を合わせて、後半三ヶ月が結構色々あった。
「この後はどうするんだ?」
折角なので地球とは関係の無いアンナマリーも年越しの瞬間というヤツを体験する気で、明日は休みなので夜更かしするつもりだ。
「テレビでも見て、何となくぼんやりかなー」
年末にテレビなんて、少し前まであったこの国の文化も最近は衰退し始めているけれど、何だかんだで一部の番組内容が明日のネットニュースになるくらいには残っている。
「アンナの部屋にはテレビがないけどどうするの?」
「そこのソファーで何となく誰かが見てる番組とやらを見ているよ」
自宅に帰る霞沙羅はともかく、誰もが何となく年越しまで談話スペースにいるような事を言っていたので、アンナマリーも付き合う予定。
「おじさんがお店で料理を食べるだけのドラマがあるんでしょ?」
「何だよそれは」
「アンナマリーは格闘でも見る? あ、こっちの人は命はかけないからね」
「見世物で命をかけないのか?」
「お前らの世界には簡単に命をかけるイベントがあるのか?」
伽里奈とアンナマリーがあまりにも軽く命のやり取りの話しをして来たので、霞沙羅がツッコんできた。
「あるにはありますよ。闘技場もあって元罪人の剣奴とかいますし、市民には人気のイベントです。まあ神官が側にいるので、即死じゃないなら腕がちぎれても元通りです」
「文化が違うんだな」
とにかく夕飯が終わると、霞沙羅は温泉に入ってから家に帰り、それぞれ思い思いの時間を過ごした。
「ネコちゃんは私が連れていっていいのよね?」
鍛冶の作業があるからと霞沙羅はアマツを置いていってしまったので、今宵はシャーロットが面倒を見ることになった。
伽里奈はアンナマリーとシャーロットがおせちみたいな感じの物を食べたいとなったので、明日の夕飯を全員お弁当形式にするべく、容器を出したり、下ごしらえをして、エリアスとシスティーは、明日の朝から着る事になる袴をまた出してきて準備しておいた。
「なんかソワソワするな」
伽里奈達がいつもとは違う動きをしているし、何となく見ているテレビ番組の内容も所々で「年越し」「今年も終わり」を訴えているので、関係ないアンナマリーも雰囲気に飲まれてくる。
何てことは無い、いつもと同じく明日になるだけなのに「年越し」という言葉にはなぜにこうも特別感があるのだろうか。
一人で酒を飲んでいるフィーネが予め用意していたおつまみを追加して、皆でちょいちょいつまみながら、おじさんが行く先々のお店に入っては料理を食べていくだけの番組のせいでお腹が空いてしまったので、伽里奈には異様に美味しい焼きおにぎりを作って貰ったり、まったりした時間を過ごした。
そして番組もカウントダウンになっていき、午前0時を回った。
「こ、これで新年になったのか?」
「一応な。今年もよろしく頼むぞ。ロンドンの小娘はまずは卒業と進学じゃな。準備はどうじゃ?」
「いきなりそんな話とか。でもそういう事を今度パパとしてくるんです」
「そうか。まあ久しぶりの実家の空気も堪能してくるのじゃな」
それだけ言ってフィーネはソファーから立ち上がった。
「初詣はいつ頃じゃ?」
「10時くらいに出掛けます?」
最寄りの寺院はやどりぎ館から歩いて15分から20分程度でそんなに離れていない。
「あれをまた着るんだな?」
だから袴が三着、ロビーに出てきてぶら下げられている。
「今度こそ屋敷に見せに行くぞ」
初詣から帰ってお昼ご飯を食べたら、アンナマリーを連れてエバンス家に行かなければならない。どうしてもあの袴姿を家族に見せたいというので、屋敷に連れて行く。
だったらアンナマリーが家で話をしている間に、向こうの時間があえば劇団に挨拶に行こうかと考えている。
「私も夕方になったら一回家に顔見せに行くわよ」
シャーロットは新年の挨拶だけ。その後三日ほど家に帰るから長居する必要は無い。
それぞれの予定を話して、年越しが終わったので、この会は解散となった。
* * *
さて、と年越しも終えて部屋に戻った伽里奈とエリアスはPCを立ち上げた。
少し前に「オフィスN→S」が行った霞沙羅へのインタビュー企画の第一段がオープンしているはずだ。
スマホでも見られるけれど、やっぱり大きな画面で確認したい。
早速事務所のHPに行くと、予定通りに記事がオープンになっている。
「霞沙羅さんが発狂しなきゃいいけど」
「それは大丈夫でしょ。ずっと付き合いのある吾妻社長が編集してるんだし、求められている事にどうすればいいかはお手の物よ」
記事へのリンクを押すと移動までがちょっと重かった。これはページへのアクセスが集まっているからだろう。
表示された記事は、まずは霞沙羅と吾妻社長との出会いと、広報誌のページを立ち上げた時の裏話が半分と、そこから先輩2人によるインタビューだ。
あの時撮った画像もふんだんに使われていて、美女ばかりの画面になっている。
「社長さんの画像はないんだね」
「あくまで主催者というスタンスなのよね」
モデルでもない元編集長の画像なんか載せてどうするのよとは言っていたので、全く載っていないのが潔い。
本格的なインタビューとなる次回は一週間後に続く、というところで今回は終わっている。
「エリアスは次の記事かなー?」
エリアスからの質問とかツーショット写真とかも使われているといっていたけれど、今回はいない事になっている。
「先輩2人が主役だもの」
「反響も大きいといいね」
業界的には話題になるだろうけれど、この三が日はメディアの動きもそんなに無いだろうから、個人が主体のSNSなんかでは、動きはあるだろう。
折角会場としてやどりぎ館を提供したのだから、反響が大きいと嬉しい。
「今晩は、部屋に帰ってもいい?」
「うん、このページを見るんだね?」
大体こうなるだろうと予想していたし、エリアスの勉強の邪魔をしたくない。
年始なのにちょっと寂しいけれど、これは仕方がない。
エリアスは謝る意味で伽里奈にキスをしてから、自分の部屋に行ってしまった。
「ボクもやりたいことをやってるしね」
壁の向こうになんとなくエリアスがいるのを感じながら、伽里奈はベッドに入り、部屋の電気を消した。
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