大晦日の過ごし方 -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
やどりぎ館に住んでいる人間から出ていった人間に対しては、メッセージを送るしか連絡手段はないけれど、所定の手続きを行えば、すぐに対象者に連絡が届く。
もしくは管理人権限を使って裏の扉から直接会いに行くというのも手だけれど、相手にも事情があるだろうから、まずは普通の手段で純凪夫妻にメッセージを送った。
「返信が来たら教えるわね」
館に一人残っていたエリアスが手続きをしてくれた。
「ところで1月2日の午前中に横浜でやる新年の礼拝とコンサートの話しをしただろ。招待客用の席が空いたらしいから来るか? 私は一曲だけ弾くんだがな」
9時始まりで、横浜神殿の僧正様の有り難いお話しの後、所属する神官や有名な信者による演奏会が行われる。その内の一人が、霞沙羅だ。
何十年と長い歴史を持つイベントで、一般参加者は結構倍率の高い抽選となる事で有名。
最近はネットでもリアルタイムで配信しているけれど、やっぱり音の問題で現場で見るのが一番と言われているので、人気は落ちないどころか参加希望者は増えている。
それとは別に来賓や関係者の身内などの招待者席があるのだけれど、先日の事件の後処理で、寺院庁や魔術師協会から欠員が出た。
「お前にとっては他の神さん達のイベントだがなあ」
「何人分なの?」
「3人分だよ。横浜への往復はお前1人ならいいが…、伽里奈にでも頼むか?」
「その言い方だと、先輩2人をメンバーに考えてる?」
「前にやったインタビューの時に行ってみたいとか言われたぜ。急な話だからあいつらの予定が空いてるかどうかもあるがな。まあ声でも掛けておいてくれ」
それはエリアスも見たい。先輩2人にはいろいろお世話になっているから、そういう事なら声をかけておこう。
「ところで伽里奈の姿が無いんだがどこに行った?」
「今はガレージにいるわよ。最近は色々作ってるから。冷凍の箱が人気らしいじゃない」
「そりゃあ小型の冷凍庫だからな。お前の世界の台所には無いだろ?」
氷系の魔法が使えればアシルステラであってもアイスクリームくらいはわけないだろうが、一般的にはは使用人で魔術師というのはいないそうだから、それも難しいし、貴族本人なら魔術師もいるだろうけれど、具合が解らない。
それが伽里奈のセンスで温度調整したあの箱があれば苦労もしないでアイスがいつでも作れる。
本来の役割とはかけ離れているけれど、世界感的に好評なのは解る。
軍の方の担当部署でも冷凍食品が運べるからと、一部の人は何個か作っておいてもいいかもと言っているようだ。
どうせ今は研究も行き詰まっているわけだし、伽里奈がいる工房を見てから帰ろうと決めた。
自分の家に移動し、一階のガレージに入っていくと、中では伽里奈が作業をしていた。
作業といっても道具を使っての手作業だけではない。素材の加工には専用の魔法もあるので、現在はそれを使用して小型探知機の画面部分の成形作業をしている。
球体に発現した魔力フィールドの中で、クリスタルが平面の板に形を変えている。
この辺はプロ中のプロである霞沙羅が教えただけあって、伽里奈はきちんとマスターしている。
「冷凍箱は何個か出来たようだな」
「なんか急かされてますからねー」
もういくつか作ってコツを掴んだようで、必要な素材は学院から貰ってきているので、滞りなく製造が進んでいる。
「それはどっちの探知機だ?」
「軍用ですよー。学院用はとりあえず一個作りました」
見た目と操作性はタブレット端末を参考に作っただけあって、こっちの世界では持ち歩いていたとしても目立たない姿をしている。
相変わらずついているアンテナは、重力波の発射と探知の機能を持っているので、外すことは出来ない。この点だけがタブレットと違うけれど、機能上必要ならば仕方ないし、昔のガラケーのように収納式。なので通常は機体表面に出っ張りはない。
ずっと前に作ったという旧型に比べると形もちゃんと考えてある。それだけ伽里奈がこっちの世界に馴染んでいるというところか。
「画面が出来ればあとはもう組むだけですからね」
伽里奈の横にはボディー部分と魔術基盤が埋め込まれた板が置かれている。ちょっと騒いだのが数日前だけれど、もう地球版の設計は終わっていたというけれど、これはまた随分早く仕上げてきたものだ。
これでシスティーのサポートはありながらも、やどりぎ館の仕事はこなしているのだから恐れ入る。
「ワタシもなんか適当に作るか」
最近は他人の物を研究しているばかり。ヒルダとルビィ用の制御装置はアシルステラ向けで楽しかったが、本体ではない。
シャーロットの杖はそろそろ仕上げに入るし、新作として自分用の武器でも作ってもいいだろう。
本気で。
そういえば、ハルキスやらイリーナは自分達の武器をどうするのだろうか?
「お前、ライアに会いに行く予定はあるのか?」
「次に作る冷凍箱はライア用ですよ」
まずはヒルダとルビィ用が出来ていて、次がハルキスとライア用。イリーナ用は一応作る予定だけれど、神殿で使うのだろうか?
「行く時は私も行きたい。あいつの本気の戦い方を体験したいんだよな」
「そうですか、ああ見えてとんでもない動きをしますからねー」
それを武器に反映するのが面白そうだから見たいのだ。
この前は軽くサーベルの腕を見ただけ。それはそれで悪くなかったが、話しを聞かされて興味が沸く。
「頼むぜ」
* * *
「そっちの世界は年越しなのね」
冷蔵箱が出来たのでヒルダに納品に来た。
このまま渡すだけだと凍らせる料理がないこの世界ではお肉の冷凍くらいにしか使えないので、ちゃんとアイスクリームを教えて帰るのだ。
ついでに湖の魚の天ぷらと、エビの入ったかき揚げを教えて帰る。
天つゆがないので、しばらくは塩で食べて貰おう。塩といっても天ぷらにとっては食材の持っている味を引き出す事が出来る一級品の調味料だ。
「向こうの人だけの問題だけどねー」
「向こうは新年で何かやるの?」
「行政も学校も多くの仕事場も学校も休みで、こっちで言う神殿とか教会に行って、初詣っていう新年のお祈りをしたり、家族とか親族で集まって食事をしたりするかなー」
「色々やるのね」
こっちの新年は公として休みになるようなことは無く、どうするかは領主や地域に任されている。それで礼拝を行う為に神殿や教会には行く。あと場所によっては町で祭的な事をやる所はあるくらい。
王都であるラスタルは中央広場という広場があるので、そこで露店が出たりして町の人で飲み食いをするようなイベントがある。
カリーナの宿は日常的な営業があるのでイベントにはずっと不参加だけれど、普通の露店や単純な食堂が並ぶ。それで住んでいた頃はちょっと見にいったりはしていた。
「ところでカレーはどうなったの?」
「それぞれのお店で形になったから、明日から一斉にメニューとして出すのよ」
あれから各自で練習をして、騎士団の厨房の協力も得て、満足出来る形になった。
慣れていないので、当面は1日20人分くらいから対応するそうだ。
「湖の魚のフライはあっちの町で商品化してるのよ」
ウスターソースは厨房に教えてあるから、湖の町のいくつかの宿ではフライの提供が始まっている。
「じゃあこれでしばらく置いておいてね」
バニラアイスクリームの液体を箱に収めて蓋を閉めた。
「シャーベットはまた今度教えに来るよ」
「これであのアイスが毎日食べられるのね」
「毎日はないかなー」
ヒルダのお腹なら問題無いだろうけれど、それなりのお年の祖父母と両親に、ごく普通のレオナード。まだ幼い子供には無理だろう。
「この天ぷらはどうやって食べてるのよ」
「おかずにしたり丼…、まあライスのお供とか蕎麦…、麵の上に乗せたりしてるけど、これだけ楽しんだり、これを肴にお酒を飲んだりはこっちの世界でもいいかな。今日は二種類しか作らないけど、鶏肉とか
芋とか茄子とかキノコを揚げてもいいと思うよ」
変わり種でアイスの天ぷらもあるけど、それを言うのはやめておこう。
魚を3枚おろしにして衣をつけ、かき揚げとしてエビと人参とタマネギを混ぜて、適当なサイズにして油で揚げ始めた。
「こうやって作ってたのね」
「塩で食べるのもいいけど、いつかいいタレを作れるようにするよ」
カラッと揚がった天ぷらはちょっと油を落としてから、すぐに食べて貰った。
「あら、サクサクで熱々でいいわね。何となくお魚がフワッとしてる」
そして用意しておいたワインを飲む。これがまた合う。
「野菜も揚げるとまた別物になるわね」
「長く置いておくと衣がへたっちゃうからね、なるべく早く食べるのがいいかな」
「湖の魚も色々使えそうね」
実際はライアの所の方が海の幸が色々と手に入るので、教え甲斐があるけれど、湖の魚はいまいち人気が無かったので、先日のフライを含めてこれでまた人気が出て欲しい。
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