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入居者のお手伝いは管理人のお仕事 -5-

 先日の夜に見た召喚魔法については、死霊魔法に属する系統だ。どこかにストックしているゴースト系を任意の場所に送り込む術のようだった。


 それとは違って、スケルトンの方は触媒が必要なのだが、間違いなくゾンビ化した冒険者自身がその触媒としてあの場所に設置されて、手にした杖に降霊術が発動する仕掛けが施されていたのだろう。


 ヒルダに邪魔をされてしまったから実物の杖を持ち帰れなかったけれど、発動の瞬間に近くにいたので断定は出来る。


「相手は何がしたいんだろうねー」


 とりあえず術式についてのレポートを書いてはいるが、渡す相手はいない。ヒルダに渡してあげると対策が立てられるだろうが、それを伽里奈として渡すのは更にドツボだ。


 ルビィが見ていればこれと同じモノを作るなりして教えるのだろうけれど、残念ながら王都にいるから知りようもない。


「やっぱり冒険仲間が心配?」


 今日もエリアスは伽里奈のベッドに寝転がっている。このまま一緒に寝るつもりだ。


「アンナが心配かなー。まだちゃんとゴースト類には対抗出来ないしねー。あの晩からギャバン教の神官さん達も騎士団と一緒に警備をしているみたいだし、町にいる冒険者には襲撃時に協力したら報奨金出すって言ってるみたいだから準備はしてるみたいだよ」


 冒険者なら大概神官が1人はいるから、ちょっと参加してお小遣いを稼ぐには良さそうだ。


「襲撃の混乱に紛れて投函でもしてくる?」

「それしかないかなあ」

「それとも?」

「最終手段だねー。まがりなりにもヒーちゃんの所の町だから対抗手段はあるし、力業でどうにか出来るし」


 強力な魔剣を持った大陸でも有数の剣士として、ヒルダが本気になって一切合切を吹き飛ばしてしまえばいい。とはいえ、町が大変な事になるだろうから、本当にやることはないだろうけれど、ギャバン教もパスカール家から寄付を受けてそれなりの神殿が設置されていて、戦闘が出来る神官も常駐している。


「そして女神から言わせて貰うと、今夜事件が起きそうよ」

「そうなの?」


前回の後に「見ておく」と言っていたとおり、女神の力でモートレルを警戒してくれていたようだ。


 アンナマリーが来てからも、エリアスはなるべくラシーン大陸に関わろうとはしなかったけれど、パートナーの伽里奈が色々と立ち回っているのを見て、気持ちが変わってきたのだ。


「じゃあ行って来るよ。ヒーちゃん達でどうにかなるなら手は貸さないで投函だけにするけど」

「貴方の選択に任せるわ」

「え、あ、うん」

「私も管理人なのよ。気にしないでいいから、アンナマリーを守る一番良い選択をしてね」

「うん、ありがとうね」


 伽里奈は覚悟を決めて、前回と同じ服に着替えると、モートレルの町に向かった。


  * * *

「うわー、っと何か今日は既に嫌な感じ」


 山の方からゆっくりとひんやりとした風が降りてきていて、町には霧がうっすらと立ちこめている。あくまで自然現象なので、事件とは関係ない雰囲気だけなのだろうけれど、この状況で死霊なんかが出たら、耐性の無い人にはさぞかし怖いだろう。


 早速、広範囲に魔力探知をする為に前回よりも高い場所に行こうと、今晩は城壁の上に立つことにした。見張りはいるけれど見張り台の屋根の上は無防備だから安全だ。一旦周囲を確認してからモートレル全体に魔力感知を行う。その辺の魔術士では出来ないアリシアならではの芸当だ。


「エリアスの言うとおりだなー」


 町中に46個ほどの、先日と同じ召喚魔法の反応がある。しかもこの町は二重になっていて、外側の町にもいくつか落ちているし、城壁にもいくつか落ちている。これはもうこれから何かが起きますという準備が整っている。


「何かの法則があるわけでも無いから、鳥でも使役して適当にばらまいたのかなー」


 場所は確定したけれど、ここまでばら撒かれた物を伽里奈だけで無力化していくのは少々手間がかかる。王都ほどではないけれど、この町も狭いわけではない。


そしてすぐ側に石のような物が1つ落ちてきた。


「コウモリかー」


 どこかからやって来たコウモリが石を落としていった。空中を探知をしてももう反応がないので、どうやら今ので最後のようだ。


 そんな事をしていると、徒歩で見回りをしている警備兵が下の見張り台にやって来ていた。


「わあ、止まって止まって、それ踏んじゃダメだってばー!」


 警備兵があまりにも無防備に歩いてくるモノだから、伽里奈は思わず声を出して静止させてしまった。踏むとまたゴーストが召喚される。


「な、何者だ」


声を出したせいで警備兵は屋根の上にいる伽里奈に気が付いて駆け寄ってきてしまった。ついでに見張り台にいた別の警備兵も外に出てくる。


「ちょっとー、止まってっていったじゃん!」


 魔術的な物体が見えていないのだから仕方が無いのだが、その動きで石を踏んでしまった。石は砕けて術式が発動し、中に封じられていた召喚魔法が発動し、ゴーストが5体ほど現れ、宙を飛び始めた。


「うおわあ」

「もう、しょうがないなー」


 ーこれが現実だよー。見えてないから仕方ないけどさー。


 伽里奈はすぐさま【除霊の光球】の神聖魔法を発動。指先から発射された5発の光弾であっさりとゴーストは消滅した。


「な、何が起こった?」

「先日のゴースト騒ぎの続きだよー。今のが町の中に何十個も落ちてる。今って神官さんとか冒険者さんとかに声をかけてるんでしょ。こういうのは彼らに任せて、魔力が見えない人は事態が悪化するだけだからあんまり動かない方がいいよ」


 伽里奈は仕方が無いので屋根の上から通路に降りた。警備兵なら騎士団の本部への連絡手段を持っているはずだからそれを使って貰おう。


「騎士団との連絡手段があるんでしょ。それで伝えてよ、召喚魔法の石みたいなのがばらまかれてるって。今晩は結構大変、って町の方でも始まってるしー」


 町の中でも誰かが踏んだのだろう。2ヶ所で召喚魔法が発動した。


 ひょっとして一見ランダムに巻かれているようだけれど、警備のコース上に置かれてるのではないだろうか。伽里奈にはよく解らないけれど、適当にばら撒くと踏んで貰えないだろうし。では誰かがそのコースを知ってるとか、見てるとか。


「お前は何なんだ?」

「ボクは領主さんが探してるらしい剣士だよ。いいから騎士団に連絡して!」


 城壁に不審者、しかもそれが領主が探している剣士、でもゴーストが現れて浄化してくれて、と混乱する2人。


「あーんもう、いいから早くやって! ボクはこっちの外の町から処理していくから。いいね」

「あ、ああ」


 警備兵が見張り台にある連絡装置の所に行ったのを確認して、伽里奈は【浮遊】の魔法で体を軽くして外の町に向かって飛び降りた。


「外の町も警戒してるけど、人数は少ないねー」


外側に落ちているのは手違いなのか、多くが城壁のすぐ側に落ちているから、警備に踏まれる心配は少ない。とはいえ、すぐに回収して城壁の中に戻らないといけない。


そのまま浮遊で地面から少し浮いた状態のまま、魔剣を後ろ側に向けて単純に魔力を放出。その勢いでホバー移動を開始する。


 城壁の向こうではまたいくつかの召喚魔法の反応があった。まだ見えてない人がウロウロしてるから踏んでしまうのだ。


「早く行かないと」


 ホバー移動で石のような物を回収。封印処理を施してポケットに入れる。


 急いで5個だけ落ちていた石を収納したところで足を止め、魔剣の魔力を鞭状態に変更し、城壁上部の見張り台の柱に巻き付けて、一気に巻き取る。


 勢いに乗って夜の空高く跳び上がった伽里奈は、内側の町に戻った。外にいる間にもう既に6ヶ所で戦闘が始まっている。


 今回はヒルダ側で元々警戒していただけあって、騎士団と神官のグループが町の中に散り始め、報奨金目当ての冒険者も起きてきて、いくつかのグループが宿から飛び出てきている。


「よしよし、今回はいいぞ。んー、あれは」


 別の魔術反応が突然発生した、これはあの晩と同じ降霊術だ。まさかこの前と同じように、残ったパーティーメンバーを使う気なのか。


 すばやく地面に降り立ち、またホバー移動を再開。ついでに手早く1つを回収した。


「おっと冒険者だ」


 神官と魔術士を連れた冒険者が近くを歩き回っていた。これはちょうどいいので、そちらにどうした。


「そこの人、こういうのが落ちてるから、魔力感知で見つけて、回収よろしく」


 今回収した石を冒険者に向けて放り投げる。恐らく騎士団から詳しい説明はないはずだ。変に戦闘が始まるよりも回収させた方がいい。


「え、ああ」

「そんじゃよろしく」

 先程の降霊術の反応の周辺にかなりの数の魔力反応が発生した。その数は20、30ではない、数えるのも面倒なくらいもっとずっとお多い。


「すごい数だなあ。こんな数を相手に出来る神官さんてこの町にいたっけ?」


 召喚術の回収は急遽中止、目的地を変更した。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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