大晦日の過ごし方 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
横浜中華街という一大観光地に隣接した地区にあるとはいえ、カナタのアクセサリーショップは年末年始の一週間ほど休業日にすることにした。
ヤマノワタイの暦は地球とは違うので、先日の聖誕祭も含めてやや違和感があったけれど、どうせアクセサリー販売はダミー営業だし、地球のお店なので世間体に合わせて休業にした。
ではその間どうするのかというと、ヤマノワタイの自宅工房に帰って、次の準備や、自分が魔術業界に健在であることをアピールするために、レポートでも一つ提出することにした。
どうやら政府の機関が周辺を調べているようだけれど、生まれ育ったヤマノワタイでは最終段階になるまではもはや実験するような事も無いので、今うろついたとしてもどうすることも出来ないだろう。
ただまあ、本業の鍛冶については昔から誰とでも商売をする気質なので、胡散臭い家だという部分はどうにもならない。
誰にでも最高の鍛冶を行うのがモットーなのだ。それが世界を救う者であろうとも、自分の邪魔にならない程度に悪事を働く者であっても扱いは平等。
渡した相手がヤマノワタイを滅ぼすような事があったら? それは、販売した物の効果が示されたら破壊しに行けばいい。
渡した相手が自分を殺そうとしたら? 返り討ちにすればいい。
そもそも製造者である自分には依頼者が勝てるはずはない。どういう事が起きるのか、どういう武器なのか、渡した相手がどの程度なのか解りきっているのだ。
道具に頼るような人間が、それを作る自分に敵うことは絶対にない。
さて、休業日前最後のこのお客は、この地球で何を望むのか、何を見せてくれるのだろうか。
今日来たのはまたもや世間的に「金星の虜」と呼ばれる集団に属する人間達。でも今回は先日の「バングル」とは別の集団の2名。同じ神にすがりついているのに色々と種類があるものである。
店舗内の商談スペースで、計画の概要とそれに必要な道具は何なのかを相談されている。
カナタの営業活動はこれまでと同じで、何かをやりたいが力が足りない、と悶々としている人間を探し出して、向こうからアクセスさせるかカナタが会いに行くかのどちらか。
そして今回はアクセスしてきた。こちらの世界はネットが使えるので、営業活動の選択肢があっていい。
「肝心なアイテムはまだ入手出来ていないのですね?」
「場所は解っている。今は仲間を潜り込ませていて、どう盗み出すかを調査中だ」
「金星の虜と呼ばれているのに種類は色々といるんですのね」
今回はあるアイテムを入手して、それの持っている記憶を引き出すアイテムを作るという話だ。それさえあれば、仲間達全ての戦力を引き上げることが出来る。
カナタは何回か聞いているけれど、基礎技術自体は確立されていて、それが使えることは確認させて貰った。ついでに修正も。
「入手にはもう少し時間がかかる。気の早い話のようだが、準備を進めておきたいのだ」
「そうですの。それではこちらはデザインでも作って待っていますわ。ところで奪取するにしても人のあてはあるんですの?」
「同じ志を持つ者に声をかけてある。じきにこの国に入る手筈になっているから、そこは心配ない」
また別の国から来るのかと、ちょっと前にミスター何とかと名乗るコレクターの仕事をさせるからと、道具を用意した事があった。
あれはたった4人だけの窃盗団。集めた情報によれば世界中で被害を出しまくった中々の手練れだったし、確かに途中までは悪くは無かったけれど、厄災戦の英雄が相手ではちょっと無理があった。
さすが厄災戦を終わらせた3人の内の1人だった。
商売相手達は一応結果は出してくれたけれど、対応が恐ろしく早かったので大きな被害は出ていない。何かのはずみで出てきてしまった化け物、もとい幻想獣も大した事は出来なかった。
さて今回はどうだろうか? 多少被害を出してくれる方が研究的には面白い。今回の連中は上手くやってくれるだろうか。
「ところでサンプルで貰ったあのシールだが、もう少し手に入らないモノだろうか。勿論今回は買わせてもらう」
「構いませんよ。今は10枚ほどしかありませんが」
「それでいい。全部売ってくれ」
弱い人間向けに、ある人物の戦闘データを参考にして、擬似的にその人物を再現させるシール。
アシルステラの移動劇団のただの女優には、小説を参考にしてアリシアとかいう現地の英雄を模した人格とほんのちょっとの戦闘力を乗せて魔剣を作ったけれど、あれで良かったのかはともかくとして、シールはそれの簡易版だ。
他にも二本細工したっけ。一本は軍内部の権力争いの片棒だったけれど、結果はどうなったんだろうか?
バングルとかいう集団にも売ったけれど、さすがに英雄が3人も揃った現場に持って行ったところで、一矢報いることすら無かっただろう。成功したという話は聞かないし。
ただ、戦闘力の底上げにはもってこい。
アシルステラの普通の魔術師にも渡しておけば良かったかもしれない。自分には魔族がいるとか言うから、引き下がったけど。
カナタは注文を受けたシールの在庫を持ってくると、10枚全部を販売した。
大きさ的にはウェハース菓子のおまけに入っているシールくらい。安っぽいアクセサリーレベルの魔術回路がプリントされているけれど、その模様の中に細かい、本物の魔術回路が仕込まれているので、多少お勉強した程度の魔術師では解らないし、地球の術式ではない。
「ふむ、確かに」
財布に一個くらい入れてたとして、職務質問か何かで見せろと言われてもそうとは思われない。
「しかし、明日から休業か?」
「周囲のお店も半分以上がお休みですからね。この辺は中華街と違って人通りも減るでしょうし、開けていても逆に目立ちますの」
「それも一理あるな」
「お店は閉めてもやることはやっておきますわ」
「ああ、頼む」
話を終えた2人は帰っていき、終業時間になったのでカナタは今年最後の営業を終えて店を閉めた。
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