今年最後のお勤め -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
リアーネお嬢様は、屋敷へと帰る馬車の車内でアリシアを横に座らせて、腕を絡めてきた。
さすがに将軍家の人間に「家に来い」といわれたら断ることは出来ない。なんというか誘拐事件を防いだはずのアリシアが誘拐されているみたいになっている。
「あの…、どうしました?」
「本当にあの英雄アリシアなんですね?」
「ええそうですけど、ちょっと前にこっちの世界に帰ってきた」
「聞いていたとおり、とってもお強いのですね」
リアーネお嬢様は、ついさっき誘拐されそうになっていたとは思えないくらいにご機嫌に、アリシアにしなだれかかってくる。
「このシチュエーションに憧れていましたの」
執事姿のアリシアを従えるように隣に座ること。男としては頼りない外見だけれど、連れていて恥ずかしい姿はしていない。それに何だかんだで王立の学校を好成績で卒業し、国家に認められた高位の魔術師だから、そう考えると結構なインテリ。
「そ、そうですか、それはまた」
「解ります。これは手元に置いておきたくもなります」
「失礼かもしれないけれど、この町では色々と変わった噂を聞いていたもので。でもこうやって見ると、引き留めるのも解ります」
対面に座っているご婦人もやっぱり解るらしい。
あの時は「ずっと屋敷にいるとか、こういう仕事は無理じゃないかなー」と思って断ったけれど、結局今はアンナマリーがやどりぎ館に来た事もあって、似たような事をしているような気もする。
今や愛しのエリアスも、やどりぎ館にたどり着いてしばらくは専用の執事のように世話をしたものだ。
「これは自慢出来ますわ」
ルビィの小説、女性ウケしすぎ。
馬車はそのまま真っ直ぐに進み、とうとうファースタイン家のお屋敷に連れて行かれてしまった。
さすが王国三大将軍の一人。ランセル将軍と同じ侯爵で、数少ない最上級貴族のお屋敷は、エバンス家の屋敷に匹敵する程大きくて、平民出のアリシアからは夢のような、豪華な作りをしている。
まあ、立地としてはお隣どうしなんだけど。
そういう事でそんなお屋敷に連れてこられて、お礼という事でお茶をご馳走してくれることになった。さっき誘拐されそうになっていたはずだけれど、ドッキリ企画に引っかかったのかなと思うくらい、事件は忘れられている。
ドッキリされる理由はないけれど。
そして交わされる会話の内容はといえばやっぱり当時の護衛仕事のことだった。
ルビィが書いている冒険譚はお嬢様の側にいたアリシアの取材が出来なかったので、それなりに近くにいて一緒に護衛をしていたライアと、いまやご婦人となった本人の取材で出来上がっているので、案外足りていないところがあったりする。
そんな物語の外にある話をリアーネお嬢様と侯爵婦人はミーハー根性丸出しで興味津々な具合で聞いていた。
アリシアといえば女物の服を着た風変わりな冒険者という評判が多いけれど、魔法学院での成績は幼なじみのルビィに次いで抜群であったし、実際に剣でも強かったという評価もあるので、戦後に「英雄」となりながらも姿を消していた3年間でその扱いも少しは変わっている。
二人とも「平民出!」というようにバカにしてくることはなかった。
「先日の晩餐は良かったわ」
一通りエピソードを聞いて、話題が食べ物の事になっていった。
「ご夫婦で出席されていましたね」
実際にはアリシアが手を動かして調理をしたわけではないことは聞いているけれど、あの日の晩餐はもう単純に料理が良かった。まだまだレパートリーがあると聞くし、また開催して欲しいものである。
「私も招待されたかったわ」
「さすがに王宮の厨房の人達も慣れない料理ばかりで、沢山用意することは難しかったもので」
王宮主催の晩餐会となるともっと大勢に呼びかけるものだが、色々あって夫婦のみとなってしまった。
そんな話をしていると、将軍が娘の無事を確認しに帰ってきた。
「おおリアーネ、無事か? どこか怪我はしていないか?」
将軍は立ち上がった娘を愛おしそうに抱きしめた。
「お父様、アリシア様がすぐに助け出してくれたので、怪我もなく無事です」
「そうかそれは良かった。それとアリシア君、親として礼を言わせて貰おう」
将軍に頭を下げられてしまった。
「い、いえいえ、たまたま通りかかったもので」
「何か礼をしたいところだが」
「冒険者時代であれば喜んで受けたんですが、一応今は身分もありますから」
「しかしな…、それでは君には一つ借りという事にしておこう。何かあれば当家を頼るといい」
「はい、解りました」
娘の無事を確認して、ホッとして、一杯お茶を飲んでからお城に帰ろうとした将軍が
「アンナマリー君の世話をしているのは解るが、あまりエバンス家ばかりに入れ込むのは良くないと思うぞ」
「そ、そうですか…」
その発言にやっぱりライバルなのかなー、と感じてしまう。
まあ、コネがあるとはいえ一つの家にだけ出入りするのは、身分的にもゴマすりをしているように見られて、良くない気がする。
「あの晩のこともあって、どの家もキミの料理を食べたいと言っているからな」
「そっちの話ですか?」
「城の厨房を信用していないわけではないが、やはり今の君の料理を、晩餐形式でなくて構わないからこの家で食べてみたいものだな」
忠告と言うよりは希望という感じで、娘の無事を確認した将軍はお茶を一杯飲むと、お城に戻っていった。
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