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今年最後のお勤め -1-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 モデル事務所「オフィスN→(ニーズ)」も今年最後の営業日。本当のところは吾妻社長と小松川さんで掃除なんかをして仕事納めをして、エリアス達所属モデル3人が年末の挨拶をしに来て、みんなでちょっとお菓子を食べて話をして、くらいを想定していた。


 各方面のクライアントも今年の仕事は終わり、モデルの仕事も終了している。けれど来年のファッションショーに向けて、冬季休業期間でも、やどりぎ館にいるエリアスが歩き方とか振る舞い方とかの練習をしたいと言うので、じゃあこれをやっておきなさいと先輩2人も事務所に来てくれて、空いているスペースでこれまでの写真や映像を参考に、ウォーキングの練習に付き合ってくれている。


「悪いわね、伽里奈君」


 エリアスについてきた伽里奈(アリシア)は、オフィス内の清掃の手伝いをしていた。


 オフィスN→(ニーズ)の事務所はテナントビルではなく、マンションの一室を使っていてあまり広くはないので、掃除の方は社長と小松川さんと伽里奈(アリシア)の3人で、さっさと終わりにした。


 この後は、伽里奈(アリシア)が作って持って来たスィーツを皆で食べる準備中。


 2人の先輩モデルを気にして、オートミールを使ったリンゴケーキと、おからを混ぜた焼きドーナツ、豆腐を混ぜたアイスはカロリー控えめに仕上げてある。それとハーブティーを煎れて、簡単な納会を行う。


「低カロリーのお菓子なのに普通に美味しそうね」


 ぱっと見はお店に並んでいるような普通の商品と変わらないのに、材料を聞くと確かに低カロリー。


 低カロリーというとやっぱり見た目が…、という思い込みがあるけれど、ケーキにたっぷり乗っているスライスされたリンゴとか、普通にいい。しかもアイスまである。


「揚げてないドーナツは見た目にもあっさりしていていいですね」


 と小松川さんは並べられた食べ物の写真を撮っている。納会の様子、と今年最後の会社ブログとしてこの後アップする予定だ。


 それらを会議室に運んで準備が出来たので、エリアス達3人にも声をかけて、会社公式SNSにあげる写真も撮って、ささやかな納会が始まった。


「今年は後半から色々いいことがあったわね。2人にテレビの仕事が来たのがホント、一番大きかったわ」


 これも先輩2人がずっと頑張ってきた結果。今のエリアスはそれに乗っかっているだけなので、来年は戦力となるようにしていきたい。その為の今日の練習だ。


「ほんと美味しい。伽里奈たん、このアイスってホントにお豆腐で出来てるの?」

「お豆腐そのものって訳じゃなくて量を誤魔化しているわけです。材料を混ぜて冷凍庫に入れればいいだけなので難しい話じゃないんですよー」


 女子が大好きなお菓子が並んでいるけれど、カロリー面で気を使ってくれているので、モデル2人は喜んで食べている。


 材料の関係で、確かにあっさり気味だけれど、見た目も味もちゃんとしている甘いお菓子が気兼ねなく食べられる。仕事納めだしカロリー気にせずスィーツを楽しみたい。


「新城大佐の記事のセッティングも終わっているし、年明けが楽しみね」


 元旦の0時に現在シークレットとなっているページが閲覧可能になる。3回にわたる連載で、週に一度記事が開いていく。


 霞沙羅のインタビュー記事なんて軍の広報誌を除けば、大手出版社くらいしか機会が無いのに、札幌のこんな小さなモデル事務所の企画で扱えるのは、これまで吾妻社長が軍広報ののアドバイザーをしてきた結果だ。


 今の「オフィスN→(ニーズ)」にはこれまでの苦労の芽が出てきている。


 今回の独占インタービュー記事で良い反響が来るといいなと吾妻社長は期待している。


「来年もいい年にしましょうね」

「エリアスの力も発揮して貰うわよ」

「はい、がんばります」


 楽しくお菓子も食べ終えて、今年一年を振り返っていると、インターホンが鳴った。


「そうそう、今年最後の来客があったのよね」


 吾妻社長はいそいそと玄関に向かっていった。


「こんな年末なのに仕事の話かなー?」

「フィーネさん、何しに来たのかしら」


 さすがにエリアスなら見ないでも解る。


「え、フィーネさんが来たの? 占いでもするのかな?」


 フィーネが来てくれるっていうのは、相当の事だ。


「占い師の? 魔天龍さん?」

「そうですけど」


 先輩2人が会議室のドアを開けると、相変わらず黒いドレスのフィーネが入ってきたところだった。

「ど、ど、どうしたんですか?」

「ああ、お主らの出ておる番組から出演のオファーが来てのう。その件でこの社長に相談に来たのじゃ」

「ままま、魔天龍さんが、ですか?」

「うそー」


 番組内で共演出来るのかとモデル2人は話しを聞くべく、来客スペースに行ってしまった。


「年末最後のタイミングで変なことになって来たねー」


 道内の企業にスポットをあてた番組なので、個人事業主とはいえ、有名占い師のフィーネの所に話が来ても別に変ではない。


 ただこの人はこれまで雑誌とかも断っていたような気がする。


 とりあえず伽里奈(アリシア)としては、食べ物が無くなったので食器をかたして、台所で洗うことにした。


 エリアスの方もショーの練習は終わったので、後はもうやどりぎ館に帰るだけ。


 夕飯の準備もあるのでどうしようかと思っているけれど、何となく社長がフィーネの扱いに慣れていないので、管理人である伽里奈とエリアスに残って欲しそうに、チラチラと視線を向けてくる。


 これに関しては見えないところで転移して帰ればいいかと、残ることにした。


 今日の夕食は、昨日から仕込んでいる味噌ラーメンと焼売だ。そういうことで多少は時間に余裕もある。


 そのフィーネの依頼としては、テレビ局とのお金を含めたやり取りが解らないので、間に事務所が入って欲しいという内容だ。勿論手数料として事務所に間は取られるけれど、その道の人に臨時のマネジメントをしてくれという事。


 単発なので事務所としてはそんなに儲けの出る話ではないけれど、吾妻社長としてはこれまでフィーネには色々とお世話になっているので、儲かる儲からないの話ではなく、人として受けることにした。


「なんぞ、悩みでもあれば個人的に出向いても良いぞ」

「そ、そうですか、あの、今年の春から、今は川崎にいる夫と娘を札幌に呼ぶことになりまして、それでどこに住んだらいいかとか、その件でお話が」


 この事務所を始めるにあたって、夫は元々別の会社に勤めていたので、そのまま神奈川県住まいを続けてもらい、娘は川崎市の学校に通わせていた。


 子育てをするには普通に夫の収入もあるし、2人からも夢を後押しされて、単身札幌に拠点を構えていたわけだ。


「ウチの娘に魔術の適性が認められて、今は附属高校の受験勉強をしているんです」


「あれ、川崎に住んでるなら横浜校では?」


 横浜校は確かに3校の魔術学校の中で一番程度が良いけれど、だからといって小樽校を受ける生徒が受からないわけではない。特別学級があったり、上が多いだけで、平均的な生徒は3校とも大きくは変わらない。施設の質は違うけれど。


 座学も魔術師としての適性を見る為に受験のハードルではあるけれど、一番の重要ポイントは魔力適性が基準を満たしているかどうかだ。


「私か夫の両親に預けようと私もそう思ったのだけれど、家族一緒がいいって。それに新城大佐がここにいるのがいいみたい。やっぱり女子は憧れてるもの」


 魔術士としては吉祥院の方が有名で、当然いつか吉祥院の授業を受けたいという夢を持つ魔術士見習いは多い。


 けれどやっぱり霞沙羅に憧れる人間はもっと多い。


 吉祥院はやっぱりその、クセが強いから。


 霞沙羅は北海道が気に入ってしまっているので、余程のことがない限り横浜校に帰ることはしばらく無いだろう。


 だからまあ、その子が大学まで行ければ、霞沙羅の授業を受けることも出来るだろうし、霞沙羅がいる学校で勉強が出来るというモチベーションが働く。


「あの小僧に一度勉強を見て貰ってはどうじゃ? あやつは友人を2人共小樽校に送り込んでいる上に、今はイギリスの名家の娘の大学進学をサポートしておるぞ」

「え、伽里奈君て普通科じゃなかったっけ?」


エリアスと同じ普通科クラスで附属高校にいるという話だった。


「…横浜大の卒業資格持ちです。なのでボクは正式な魔術師資格を持ってます。色々あって、少し前に編入したんです」


 普通の人は見たことはないだろうけれど、魔術師の資格カードを見せた。そこにはC級1位の記述がある。


 ただ霞沙羅と付き合いのある吾妻社長は解る。


 何といっても霞沙羅と付き合い始めた時に、彼女はC級だったから。C級という値であってもこの歳で持つことはまず無いという事を。


「伽里奈君てこんなすごい人だったの?」


 フィーネにバラされたけれど、伽里奈(アリシア)からもエリアスの居場所を作ってくれたこの人に恩返しがしたいので、正直に答えた。


 多分、未来が見えるこの邪龍神様の導きだ。それを受け止めることにした。


 事態が見えない先輩モデル2人もエリアスに解説されて驚いていた。


「小樽校を受けるなら、去年友達に使った勉強用のテキストデータを渡しますよ」

「そ、そうしてくれると助かるわ」


 吾妻社長のプライベートのアドレスを貰ったので、今晩にでも送信しようと思う。


「お主の夫は北海道に来てどうするのじゃ?」


「今の職場は札幌に支社があるんです。娘が受かったら転勤の願いを出そうかと。本社勤務者からはあまり人気が無くて、人も足りていないという話もあるそうなんですよ」


 厄災戦の東京崩壊により地方分散が進んだといっても、関東の人間からすれば札幌は「寒い」という理由もあって、進んで勤務したい人は多くないそうだ。


「小僧よ、一家の平穏な生活かかっておるぞ」

「ちょ、ちょっと、そんなプレッシャーかけないで下さいよー」

「伽里奈たんも大変だなー」

「伽里奈、社長のためにまたひと踏ん張りよ」

「エリアスまで」


 エリアスも吾妻社長に恩を返したいので、まあここはエリアスの分も含めて、ちょっと手助けしようかなと思う、


 まさか社長の娘が魔術師志願者とは。


 入学出来たら後輩になるのか…、そもそもこのまま学校にいられるのだろうか。


 ダメならダメで仕方が無い。とりあえずは年明けからの新たな仕組み作りがあるし。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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