その後のアシルステラでは -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「こういうのは絶対に受けない方がいいですね」
イリーナが帰る前に、冒険者ギルドの掲示板を見ていくことにした。
今日も建物の中には冒険者グループの姿が散見される。
今の所平穏なのか全体的に小ぶりな依頼が多く、現在ヒルダからも魔物対策のような依頼は出ていない。ひょっとするとあの探知機のせいかもしれないけれど、町にとっては平和な方がいい。
その中で久しぶりに見た9番依頼。
お隣にあるルーゼン家の領地の、小高い山の山中にある小さな湖周辺を狩り場にしているハンターが帰ってこない。そしてそれを確認しに行った冒険者も2組が帰ってこない。その調査。
「ここにある9番窓口まで、っていうのが曲者で、一般冒険者は手を出してはダメです」
ここのギルドは大きめなので、窓口が9番まであるのでそうなっているけれど、他だと番号が違う。
なので、最近貼り出されたようだけれど誰も手をつけていない。依頼主は、お隣の領主さん。お値段も高い。
「すげえ魔物でもいるってのか?」
「さあなんでしょうね?」
確認しに行った人間が帰ってきていないので、どういう状況なのか解っていないようだ。盗賊の罠でもあるのか? それとも魔物か? これでは準備のしようが無い。
「そうそうイリーナ、温泉施設は換気をしっかりしておけよ。お前の所は源泉が建物内にあるのが気になってな」
「室内は熱くて熱が籠もるからずっと窓は開いているわよ」
入室するドアは鍵がかけられているけれど、部屋の上の方には換気の窓が設置されているから心配無用だ。
「温泉は場所によっては人体に有害なガスが出ることもあるからな。冷却用のプールは外にあるから、大丈夫だとは思うんだがな」
「そんな事があるのね。今の所、セネルムントでそういう事故は起きていないわ」
「ならいいんだがな」
1枚しか無い9番依頼はもう避けて、他の依頼を確認し始めた。
「それにしてもお前は何を着てるんだよ」
建物の壁には後にフラム王国の英雄となる6人の絵画が掛かっている。
「あの絵ですか? 冒険者をやり始めて半年くらいの時の絵ですね」
アリシアの服装は上半身は鎧を着ているが、下半身は長いスカートだ。色違いながら、身長もそれほど変わらないヒルダも同じような姿なので、女コンビで前衛担当のようにも見える。
ラスタルとは違って、誰もアリシアのことを知らない旅先では、男はハルキス一人のハーレムパーティーに間違われたことも多かった。
「なんだい、賑やかだね。あまり見ないのもいるが、まさか英雄様2人が今更依頼を受けに来たわけじゃないだろうね」
久しぶりに会う所長がやってきた。
「この人が絵を描いたんですよ」
「こっちのもまた強そうだね。こんなのがまだこの大陸に隠れていたってのかい?」
「ちがいますよ、この人はこの世界の人じゃないです。ヒーちゃんからそういう話しを聞いてると思いますけど、ボクのいる館の住民です」
「ほう、そうなのかい。これまたすごいのを連れてきているねえ。そういや最近は巨人の末裔が町をうろついているという話も聞くが」
「それはただ背が高いだけの私の相棒だ」
霞沙羅は自己紹介と吉祥院の説明をして、何となく4人は近くで空いていたカフェスペースに座った。
「このアリシアは当時から普通にスカートを履いていてね。この外見じゃないか、誰も不思議に思わなかったもんだよ」
今日はレギンスだ。知らない人が見れば男のボトムにも見える。
「最近はイリーナもよく見かけるようになったねぇ。以前はたまにしか見かけなかったが」
「アリシアの仕掛けで転移が出来るようになったんですよ。それで今日はヒルダの所で演習用ゴーレムの実験があって、それの治癒役で来たんです。カサラさんにも用はあったんですけどね」
「ちょっと前にはあのヒルダがなかなか仲間に会えないと寂しいような事を言ってたけどねぇ、アリシアが帰ってきてからは随分と交流が増えたようだが」
「転移魔法を使えるのが増えたから、誰かしら来るようになったし、頼みやすいから」
「まああんた達のパーティーは最初からおかしかったから。魔導士が2人なんてのは見たことがないよ」
いきなり2人もいたのは、魔導士として卒業したアリシアとルビィならでは。
「ビギナー冒険者ってのは、大体どんなのが集まるんだ?」
TRPGに思い入れのある女、霞沙羅はファンタジーな世界でここぞとばかりに話に入ってきた。
「剣士は、どっかの道場出たばっかとか、魔法使いは学校卒業すぐとかどこかの師匠から免許皆伝とか、神官はちょっと違うかい?」
「神官は基本的にはどこかの神殿にいますからね。私はオリエンスの奇跡を世に広めるためで、多くは布教とか、後は冒険に出る知人を支える為っていう感じですか。なので、若いとは限りません」
普通はみんな技術をある程度身につけた初心者。例えばどこかの組織に所属して、武者修行とばかりに冒険者を始めるのもいるけれど、多くは初心者。
「大体は団体行動だろ? どうやって仲間を見つけるんだ?」
「例えばだねえ、あそこを見てみな」
カウンターでは2人の冒険者が依頼を受けようとしているけれど、剣士と弓矢使いだけ。なので「魔術が使える人間はいないか」と声をかけている。そうすると魔術師と神官と剣士の3人が手をあげた。
「ああやって必要な人間を集めて、今回だけ組むのもいれば、仕事後に気に入ってそのままグループになったりだ。あとギルドでパーティーの人員募集の斡旋もやってるんだよ」
「張り紙を見ている人に一緒にやらないか、て声をかけてくるのもいますよねー」
アリシア達は全員が強すぎて、それぞれが仲間の募集を出したら高水準すぎて、他の初心者が誰も寄りつかなくて、最終的に6人が集まった。
カウンターの方では双方で話が纏まったようで、5人で依頼を受けることになった。
「こう、成績っていうか、ランクってのはあるのか? それで受けられる依頼が変わるとか、指名が来るとか」
「そんなもんは無いよ。登録者の受けた仕事の履歴は残るから、まあよっぽど無理そうな依頼を受けようとした時に、気の利く奴は注意をするんだが、結局は自己責任だもんで」
「貴族とか領主とか、信頼あるところからの依頼は、さすがに履歴を見て止めてますよねー」
「こういう人材が欲しいと条件がついているからねぇ」
冒険者ギルドは横の繋がりがあって、大きな町のギルドは魔術装置で情報が繋がっているから、他の土地に行っても履歴を検索することは出来る。
「パーティーの評判は、冒険者同士でも噂とか口コミで流れたりするので、それで判断しますねー」
「うおー、冒険出てみてえな」
冒険者ギルドにいて、今まさに一つのパーティーが、暫定だとしても組まれて、依頼を受領して旅立っていこうとしている。
霞沙羅もそんな空間にいると、誰かに声でもかけて、声をかけて貰ってもいいし。新人冒険者として旅立ちたくなる。
「この女はどのくらい強いんだい?」
「ボクと同じくらい。剣も魔法もいけます」
「最近はそんなのに渡す依頼は無いねえ」
あるとしたら9番依頼くらいだ。
「場所によってはドラゴンが出たり、魔族が出たり、ガーディアンが飛んできたり、事件はあるんですけどねー。冒険者がバリバリ活躍するような世界だと、住民としては困りますね」
「それ全部私が関わってるヤツじゃねえか」
「あんたのその指輪は、ひょっとして?」
所長はカサラが指につけている指輪に気が付いた。
「ここのマーロン国王に貰ったもんだぜ。色々この国を歩くのが楽になるとか」
「客人の指輪とはね、類は友を呼ぶってのかい?」
客人の指輪は当然フラム王国の国民にはくれないけれど、他国民でも一介の冒険者が持っているわけではない。
多くがラスタルや王族の領地でめまぐるしいな功績を挙げるような、学者的な人間や鍛冶、友好国から出向でやって来た有能な人物くらいなもの。
一般市民にとっては噂ばかり。この所長だって、実際には一組だけしか会ったことがない。しかもそれも、アリシアの知り合い。
例外としては、ギランドルに帰ってしまった元冒険者のキールとレミリアの二人だ。あの二人も自国で英雄と呼ばれるくらいに現役時代は広く活躍していたのだが、冒険者時代にフラム王国でも活躍したので、それで先代国王に認められた。
「まあ所長さんよ、このところ悪党の悪事に高度な技術で荷担する異世界人がうろついてやがるから、気をつけさせるんだな」
「帝国の残党の後ろにいたって連中かい?」
それは所長にとっても苦い思い出。
「魔族騒動の裏にもいたんですよ。王者の錫杖みたいにこの世界の人には理解出来ない魔術を使ってくるのと、ボクと同等の剣技を使えるのがいるから」
「それじゃあ何かあったらあんたに情報を渡すことにするよ
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