その後のアシルステラでは -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
ゴーレムと騎士団の練習は何度も行われ、アリシアの方ではある程度の規格が整ったところでカレーも完成し、昼食の時間になった。
3種類のカレーとナンがトレーに置かれて、それぞれの量は少なめだけれど、一食で別の味が楽しめる。インドカレー専門店に行くと当たり前な出し方だけれど、ここはアシルステラ。こんなやり方があるのかと、団員達は期待しながらテーブルについて食事を始めた。
ランセルも折角カレーが出てきたので、団員用の昼食とはいえ、今後のために食べることにした。
手間や材料が違っているのでやどりぎ館で食べたカレーとはレベルが違うけれど、違う味のカレーを取っ替え引っ替えナンにつけて食べるという行為は面白かったし、やはりこの料理は体を動かす人間には文句なくいい。辛さも相まって午後への活力が湧いてくる。
スプーンやフォークではなく、手を使ってナンをちぎっての食事ではあるが、そういうのは気にならない。実際の所、パンはどんな階級の人間も手で食べるわけだし、そうやって食べる食べ物なのだという事だ。
そしてこのナンもパンとは違う美味しさがあるし、ボリュームもあって、形も面白い。
エバンス家に生まれてから40年以上もずっと上流貴族だけれど、美味しいものは美味しい。
やはりアリシアが頻繁に関わっているモートレルの騎士団は料理が驚くほど変わってしまっている。食堂にいる団員達も食事を通してみんな笑顔だ。王都にいる一般の騎士団にはここまでの笑顔は無い。
自分の部下達は王都の治安と防衛を担っているわけだから、別にそんなに悪い料理を出しているつもりは無いのだが、ハッとなるほどの衝撃を受けた。
アリシアはいつも予算を気にしていると聞いているから、決して贅沢をしているわけではないのにこういうのが出てくるのは、将軍としては羨ましい。
それとは別に、娘はアリシア特製のお弁当を食べているけれど、あれも笑顔だ。
おや、弁当とは別に用意された箱を開けたけれど、あれは何だろうか。美味しいものを嗅ぎ付けてヒルダも近寄っていった。
「アンナマリーは何を食べているのだ?」
箱の中には力加減を間違えると潰れてしまいそうなほどフワッとしたような、それでいて中身は重そうな、パンでは無い食べ物が入っていた。
「シュークリームという食べ物です。アリシア様がいつもおまけをつけてくれるんですが、その一つです」
それを女性陣だけで食べている。
シュークリームはやや小さめ。男ならやろうと思えば一口で頬張れる程度。それが幾つも入っている。
「お父様、お一つどうぞ」
中身はカスタードクリーム。地味な外見ながら、中には濃厚なカスタードクリームがたっぷり詰まっていて、これは美味しい。
「こんなものを食べたと言ったらエリックに狡いと言われそうだな」
お昼ご飯だとアリシアは館に帰ってしまったけれど、ウチの娘に何を食べさせているんだと文句の一つも言いたくなる。
こんな感じのものを時々お弁当につけているとか、王妃だけでなく王都の貴婦人達が怒りかねない。自分達にも食べさせろ、と。
「そういえばイリーナはどうしたの? 見かけないんだけど」
「アリシア様についていきましたよ」
「あの子は」
「湯ノ花の扱い方を見せて貰いに行ったんですけど」
まだ扱い方が決まっていないからその参考のために、日本でどう扱っているのか、どういう入れ物に入れられているのかを見にアリシアについて行った。
お昼ご飯はやどりぎ館でだけど。
* * *
ロンドンでも普通に材料が揃うナポリタンが覚えたいとシャーロットが言うので、今日のお昼ごはんはそれになった。
シャーロットは自分用のナポリタンを、横で作っている伽里奈の指導を受けながら、完成させた。
麵を茹でて、タマネギやソーセージなどの具材とケチャップを用意すればいいだけなので、母親に聞いたら、さすがにこのくらいなら近くのスーパーでも売っていると言われて、これにした。
伽里奈に指導されてサクッと作り上げて、自分だけで作った初めての料理らしい料理に満足して食べていた。
アシルステラでは毎度毎度ケチャップを作らないとダメだけれど、セネルムントでも作る事は出来るので、今度教えに行くこととして、イリーナには湯ノ花が日本ではどう扱われているかをPCで見せて教えてあげた。
ビニール袋入りが気軽だけれど、アシルステラではビニール袋の生産が出来ないので却下として、やはり小さな瓶か壺で提供するのでいいのではと纏まった。
「魔族騒動も終わったし、これで一段落かなー。前にあった冒険者ギルドの魔物対応ってどうなったんだろ」
「あれはもう無くなったわよ。今行っても普通に盗賊の討伐とか、商隊の護衛とか、そういうのしかないわね」
「そうなの。やっぱり時期的にエルナークが何かやってたのかな?」
魔術士としてはそこまでの腕前では無かったけれど、魔族と一緒になっていたのなら、飛べるだろうし、転移くらいは出来そうなモノなので、色々な場所でやっていたかもしれない。
それとも例の2人か?
「それでも盗賊はいるもんなのか?」
「商隊ともなると荷物とお金を持ってますからね。そもそも護衛を連れているんですけど、多少は情報収集して、これはという所に差し掛かると一応、その区間だけでも戦力増強で頼んだりするんですよー」
「実際に何も出なくてもいいのか?」
「道中に最初からいなかったって場合もありますし、護衛の数を見て手を出さなかったって理由も考えられるんですねー。まああとは、盗賊が出てきて倒してくれたら追加報酬有りとかの条件だったりします」
「もともと出ないのを想定して、最初から依頼料が安い場合があるんですよ。冒険者の方も出ないと解っていて、何もしなくてもお金が手に入る事を選ぶ人もいますよ。それで行った先で戻る仕事を受けて、往復するという」
「一つの町で一つのギルドの常連になるパーティーもいれば、ボク達みたいに色々と場所を変えていくのもいますから」
「移動のための路銀稼ぎを繰り返していくのもいるのか」
「雇う方からすれば保険みたいなものですから。あ、盗難保険なんてものは無いです」
商売も自己責任の世界。
「ギルドに貼ってあるあの依頼書をもっとじっくり見てみたいもんだな」
「だったらモートレルのギルドでも覗いてみます?」
伽里奈としても事件後の状況確認をしておきたいから。
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